「子ども」
夏だし、こちらを投稿再開。
僕の名前は一宮健二。安アパートで一人暮らしをしている、しがない大学二回生だ。
健康を気にして、毎日、てくてくと大学に通っている、どこにでもいる大学生だ。
みんなはどうやって学校に通っている? 自転車? バイク? バス? まさか自家用車だなんてリッチな奴はいないだろうね。
遠距離の人はしかたないけど、大学の近くに住んでいるなら、自分の足で歩こうよ。結構気持ちがいいし、余計なお肉がつかなくなるよ。
通学しながらウォーキングだなんて、実に健康的でいいじゃないか。
やっぱり、人間、自分の足で歩かなくちゃね。
移動を機械に任せるだなんて……ましてや、手で歩くなんて、人としてどうかしていると思うよ。
「子ども」
3コマの講義が休講になった。それは、突然のことだった。
先生に急用ができたらしく、その日のお昼になって休講通知が来たんだ。大学は、たまにこんなことがある。
しかし、困ったな。急に時間ができても、少し困ってしまう。3コマが休みとなると、今日はもう講義はないし……。
サークル部屋に行こうかな? でも、そんな気分でもない。どうせ、人が集まったとしても、トランプか麻雀、スマブラしかしないんだ。いつもやってることだから、特別やりたいってわけでもない。
かといって、空いた時間で勉強するなんて玉じゃないし……少し悩んだ僕は、結局、その日は素直に帰ることにした。
帰り道にあるスーパーに寄って、夕食の材料をそろえておく。せっかく早めに帰れたんだ。少しばかり手の込んだ料理でも作ろう。そう思ってのことだ。
そして、僕はスーパーの袋を両手に持って、自宅へと向かった。
汗が滴り落ちる炎天下の中、てくてくと歩く帰り道。
その途中のことだ。変なものを見つけてしまったのは。
「……? 子ども?」
ふと視線を感じて目を向けた路地裏に、子どもがいた。
短い髪に、ぽかんと開いた口。目も、人形のように丸く見開いている。そんな男の子が、僕をじっと見ていた。
何だろう……何か、用でもあるんだろうか。
少しの間、僕はその場に立ち尽くして考える。でも、その子は僕に言葉を投げかけるでもなく、さささーっと路地裏の奥へ去っていった。
結局、何がしたかったのやら。不思議な邂逅にあっけにとられたが、しばらくして、僕はまた歩き出した。
こんなに暑いんだもの。早く帰らなきゃ、魚が傷んでしまう。
そして、僕は二本の足でアスファルトの地面を踏みしめ、ずんずんと進む。
先ほど出会った、上半身しかない男の子と違って、二本の足で。
やっぱり、人間、自分の足で歩かなくちゃね。