「ゲシュタルト」
ありそうでなさそうな……でも、ありそうな話。
どうぞ。
僕の名前は一宮健二。安アパートで一人暮らしをしている、しがない大学二回生だ。
スムーズな卒業を目指す二回生にはまだまだ講義もたくさんあるもので、毎日毎日大学に通わなくちゃいけない。
これが、三回生あたりになってくると、週に一度は講義がない=休みの日ができてくるものなんだけど……でも、卒業に必要な単位には学期ごとの習得限度があるからね。二回生のうちは、平日は何かしらの講義を受ける、というのが普通だと思う。
その日も、僕は講義を受けていた。何とか概論とか、そういうの。将来の何に役に立つのか分からないし、配られたレジュメを教授が読みあげるだけだから面白くもなんともないやつ。
それに、お昼の後だったし、いい天気でもあった。うとうとする学生が多かったのも、しかたないことだと思う(かくいう僕も、その内の一人なんだけど)。
そんな、どこにでもありそうな講義……そこで、僕はこんな体験をしたんだ。
「ゲシュタルト」
少しばかり眠ってしまっていたようだ。
暑くも寒くもない、ちょうどいい室温の講義室の真ん中あたりの席で、僕はふっと目を覚ます。
いけないいけない……別に、この講義の教授は学生が寝ていても怒ったりはしないんだけど、時々、レジュメの補足を口で言って、それをテストに出したりするから油断はできない。
幸いなことに、腕時計を見る限りでは五分程度しか時間は進んでいなかった。それに、教授は僕が眠ってしまう前と同じペースでレジュメを読んでいる。これなら、補足説明もなかったんじゃないかな……そこで、ふと気がついた。
眠っている間に読まれてしまっていた箇所……そこに、妙な言葉があることを。
いや、今にして思えば、ちっとも変じゃないんだけど……「だろう」って言葉がさ、妙に気になったんだ。
「だろう」ってなんだ?どんな意味だったっけ……?分かりそうで分からない。
レジュメを読み回しても、他の言葉は理解できる。でも、「だろう」の意味だけが分からない。
分からない、分からない、分からない……「だろう」っていったい、何なんだ?
キーンコーンカーンコーン……。
そこで、チャイムがなって講義は終わった。
結局、その時は分からず仕舞いだったんだけど……まあ、今なら普通に分かる。
何であの時、「だろう」だけが理解できなかったんだろう。
ホラーな話だけではないんです。
今回のように、ちょっと不思議な話も織り交ぜていきます。
では、また次回。