第七話
目の前の男は刀を構えて動かない。
たが目の前の男の放つ異様な空気は肌で感じる。
この男は間違いなく強いおそらく自分では相手にならないほどに。
「黒狼、まさか魔導六祖の黒狼だとでも言う気か?」
「いかにも、我が名は黒狼だ」
彩斗は内心焦る。冗談のつもりだった。いくらなんでも魔導六祖だと、無理だ。勝てる訳が無い。
「で、魔導六祖の黒狼が何の用だ?」
彩斗はそれでも虚勢を張る。悟られるわけにはいかない。心で負けたらその時点で負けなのだから。
「言ったであろう、貴公の力を試させてもらうと!!」
直後に黒狼が彩斗の視界から消え、彩斗は直感で右側に飛ぶ。
「その程度で避けたつもりか?」
直後に彩斗の背中に衝撃が走り彩斗が宙を舞う。
何が起こった、彩斗は理解できなかった。
なぜ黒狼が後ろにいるんだ、まさか移動したのか?
「ち、黒き刃、猟奇の狂犬、道化師は飼い慣らす」
彩斗は無理やり身体を回転し正面に黒い複数の刃が展開され黒狼に向かい射出される。
黒い刃そのものが直撃時点で質量が増量される重力魔法であり刃に当たれば黒狼の鎧を抉り取る刃。
「姫風彩斗、この程度か?」
黒狼が刀を構えると黒狼の纏う空気が鋭さをまし、直後に刀が空間を突く。
「なんだこれ!?」
空間が振動しヒビが入り結界の空間を振動させ、黒い刃の全てが志向性を失いアスファルトを刺す。
「次元陣、虚空陽炎」
黒狼が呟き、刀を引き横に構えると彩斗は地面に叩きつけられる。
「なんだ……」
彩斗は正体不明の力をまともに受ける。
彩斗は理解できない。この男は黒狼一体何をした。
「ぼんやりしている暇はあるのか」
彩斗は正体不明の悪寒を感じ、無理やり身体を起こし後ろをに飛ぶと右肩から鮮血が舞う。
「がは!!」
彩斗はそのまま地面を転がりながら立ち上がるがそれすらも遅い。既に黒狼は彩斗の正面に存在している。
「本当にこの程度か、姫風彩斗」
黒狼が彩斗のみぞおちに蹴りを入れると彩斗は壊れた人形の様に宙を舞いながら近くのコンビニのガラスに叩きつけられ、ガラスを叩き割り彩斗は商ケースに突っ込む。
黒狼はそのままコンビニに歩き始める。刀は抜き身のままである。
「ゴホ、はぁ、はぁ、はぁ」
彩斗は咳き込むと胃の中から空気といっしょに血を吐き出す。
なんなんだ。常識を越えている。
「ち、黒衣の棺……」
彩斗の詠唱が発されることは無く彩斗の肺を黒狼の刀が貫き口から血が流れ落ちる。
黒狼が刀を抜き彩斗の頭を握っている。
「ふん、気絶したか」
彩斗の意識が無いことを確認するとそのまま彩斗を外に投げ捨てると刀を鞘に納めた。
「姫風彩斗、この程度だったか」
何も無い黒い空間に彩斗は漂っていた。
「何処だ、ここは」 彩斗は辺りを見渡すがそこには何も無く、ただの黒である。だが黒い空間は闇ではなく視界全てを黒くされたような形である。
「うーん、こんな所まで来ちまったか」
「誰だ!!」
彩斗は視界に広がる闇に向かい吠えるが答えは返っては来ない。
「やはりおまえはまだ此所に来るのは早かったみたいだな」
早いだと、よくわからない。
「此所は何処だ」
彩斗は今度はゆっくりとただそこにある闇を睨み付ける。
「おまえがいつかたどり着く場所でありただ一つの確かな答えを得る場所とでも言おうかな」
闇は彩斗のことなど気にせずに喋り始めるが彩斗には何を言ってるのわからない。
「なるほど、黒狼か、今のおまえでは相手にすらならないか、答えから目を背けて歩みを止めた今のおまえでは黒狼は倒せない」
闇は淡々と語る、今の彩斗を、彩斗は答えから逃げている。そんなことはとうの本人だってわかっている。自分があの日から止まってしまっていることは。
「君はあの日得た答えを認める訳にはいかなかった、認めればおまえは■■を殺さなければならなくなる」
「黙れ」
ただ淡々と語る闇に彩斗は制止の言葉を放つが闇は無視して話を進めていく。認めたくないものは頭が理解しない。
「おまえは怖かっただけだろう?」
闇の声が楽しそうなものに変わり始める。そんなことはわかってる。自分が認めたくないから止めた。歩くことをやめた。そうしなければ守れなかった。そう世界の誰もが認めても俺だけは認める訳にはいかなかった。
「まぁ良いさ、それがおまえの生き方なら好きにすれば良い、今は君が■■■■■なのだから今の俺がどうこう言うことではないのだから」
闇はそうゆうと彩斗右目を貫く。彩斗が痛みにもがく。
「ぐ、何をしやがる!!」
「ここまで来たお土産に俺の目をやるよ、先ほども言ったがおまえはまだ此所に来るべきでは無いし答えに背を向けた君には会う理由もないしな。さて、答えに向き合う覚悟できたらまた来な」
彩斗の足元から闇が吹き上げ闇が彩斗を飲み込んでいく。彩斗がもがきながら闇に手を伸ばすと彩斗の意識は途切れる。
「がは!!」
現実に戻り彩斗は強烈な吐き気に襲われ血を吐く。
「まだ終わっていないのか?」
黒狼が収めた刀を再び引き抜くと片腕で空間を叩くと彩斗が宙を舞う。
「またか!!」
黒狼がやっているのは間違いなく空間破壊魔法だ。この魔法は相手ではなく空間に攻撃を加えているのが特徴であり空間に存在する全ての物質にダメージを与えるのが特徴である。
「なんだ? これ」
彩斗は右目の違和感に気づく何故か黒狼の右手に黒い何かが靄のように纏われており、黒狼が右手を引くと靄が空間を侵食し一定量侵食すると突如彩斗に衝撃が襲う。
「く、痛てぇがもう原理はわかったぜ!!」
黒い靄は黒狼のおそらく術式だが、わかったところで俺は師匠のように術式を分析破壊はできない。だからこそ作り上げる。
あの術式を破壊する魔法を魔導六祖たる黒狼に届きうる最強の牙を作り上げる為に自身の魔力を高め、詠唱する。
「神を喰らいし魔狼」
彩斗の右腕に魔力が渦巻く。
イメージするのは牙、全てを喰らい尽くす牙。
「闇をも喰らいし王」
魔力は加速しながら一つの形を作り上げていく。
その姿はまさに槍である蒼い魔力で作られた魔力の槍が彩斗の右腕に作られて行く。
「黄昏に沈みし世界、魔狼の刻、叫ばれし贄どもよ、喰らわれ、奪われ、失せろ!!」
彩斗の腕から一筋の光が放たれる。
今こそ叫ぼう。この魔法名はその名も。
「フィンリル・ランス!!」
一筋の光が空間を走り黒い靄に達する。
空間を破壊する為に放たれた魔法。
魔導六祖の一人に数えられる魔法使い。それに対してこちらの魔法は急場の生成、普通にやれば黒狼が負ける要素は無い。
だが光が横に割れ狼の頭部を形作り黒い靄を食べ始める。
「何!?」
黒狼は驚愕する。なぜなら自らの放った魔法をを彩斗の魔法は喰っているのだ。
「行ける!!」
彩斗はその場に勝利を確信するが【フィンリル・ランス】に異常が起こる。徐々にヒビが入っているのだ。「なるほど、魔力を食らう魔法か、だがこの程度では!!」
黒狼が彩斗の正面にいきなり現れ刀の柄を彩斗の腹に叩きつける。
「ぐは!!」
彩斗は口から胃液を吐きながら壊れた人形のように吹き飛ぶと同時に彩斗の放った【フィンリル・ランス】が消滅する。
「ち、クソが」
彩斗の頭を黒狼が握ると、そのまま彩斗をアスファルトに叩きつける。
彩斗は頭から血を流しながら意識を手放す。
しばらくの静寂が訪れ黒狼は意識を失った彩斗の傍らに佇む。
「ふ、お前は昔から変わらないな、いつも俺をヒヤヒヤさせる」
黒狼は彩斗の側に座り込み誰に言うでもなく呟く。
黒狼の背中から強烈な殺気を放つなにが近づき、そして現れる。白い髪を棚引かせ、怒りに満ちた赤い瞳の宇佐美が巨大な鎌を持ち黒狼に襲いかかるが鞘から引き抜かれた刀に鎌が弾かれるがそこには既に宇佐美は居ない。
宇佐美は既に彩斗の側に行き肩に彩斗を背負っている。
「貴方がやったんですか……」
宇佐美が静かにとても冷たくまるで刃物のような言葉を放つ。
黒狼はなにも答えず刀を構える。
「回答は無しですか、ならば幻想の海に沈んで消えなさい!!」
宇佐美の瞳の赤がより深くなると空間が歪み、ねじ曲げられて行く。
「幻術か、下らん」
宇佐美が突如言い様の無い何かを感じ、宇佐美は彩斗を背負って跳躍する。
黒狼が刀をなにも無い空間で振ると歪んだ世界が音を立てて崩れた。
「私の幻想を一撃!?」
宇佐美は樹の上たどりつくと後ろを向くと既に黒狼は後ろを取っていた。
「速い!?」
「終わりだ、虚ろなるウサギよ」
宇佐美は跳躍をしようと足に力を込めるが黒狼の刀が首に迫る。
間に合わない。自分の脚力では間に合わない。自分の足よりこの男が自分の首を落とす方が速い。
「彩斗さん……」
次の瞬間黒狼が吹き飛ばされる。
ボロボロのホテルの廊下を肩を押さえたアンが肩で息をしている。
「なんなのよ、あいつは」
よく見るとアンは所々擦り傷を負っている。
アンは廊下を覗き込むとそこには誰も居ない。
アンは安堵の表情を浮かべるとアンの左腕に鎖が巻き付く。
「何を安心してるんですか?」
アンは鎖に引きずられホテルの壁に叩きつけるられるとそのまま床に叩きつけられ男に頭を踏みつけられる。
「ぐ……」
男は帽子で目元を隠しているが口はひどく楽しそうにニヤけている。
「さて、一応聞いておきましょうか、ユニコーンについて知ってる事を全て仰ってください」
アンは男を睨み付けながら黙る。
「ククククク、良いですよ、その簡単には屈服しない感じ、女はそうでなくては壊しがいはないからなぁ」
男は鎖を思い切り引っ張りアンの左腕を起こすと左腕を蹴り飛ばすとアンの左腕が鈍い音を立ててあらぬ方向に曲がる。
「ククククク、まずは左腕、次はどこにしましょうか」
男はとても楽しそうな笑いを響かせながら笑う。
吹き飛ばされた黒狼は後ろを見ると白い純白のコートを纏った珠理が黒狼を睨み付けている。
「宇佐美ちゃん、彩斗を連れて教会に行きなさい、私もこの男をどうにかしたらすぐに行くわ!!」
宇佐美は珠理に怒鳴られ宇佐美はそのまま樹を跳躍し教会に向かい走り出す。
「彩斗さん、しっかりしてください」
宇佐美は跳躍しながら教会に向かうが彩斗は眼を覚まさない。それどころか彩斗の頭の血が止まらないのだ。
先ほどから宇佐美の白い髪を彩斗の血が赤く染めている。
「嫌です。彩斗さん、宇佐美は彩斗さんを助けたいのに、彩斗さんは宇佐美を助けてくれたのに」
宇佐美は足に力を込め、跳躍を続ける。目的地を教会を目指して。
黒狼と珠理の間に静寂が訪れる。
「ふ、ここまで離されては私では届かんか」
黒狼が刀を収め珠理に歩きだす。珠理は臨戦体制を崩さずに黒狼を睨み付けている。
「宮樹珠理、姫風彩斗は答えから逃げている」
珠理の顔が驚愕に変わる。
「なぜ、貴方がそれを」 黒狼が珠理首に手刀を入れると珠理が意識を失い崩れた珠理を黒狼が抱き上げる。
「珠理、君は何も背負わなくていい、彩斗も君も俺が救うよ、だから君は彩斗の側にいてあげてくれ」
黒狼が珠理の頬を撫でながら顔を見ている。
そのまま珠理を抱えたまま黒狼が消えると教会に現れると宇佐美がドアを蹴り飛ばし入ってくる。
「来たか……」
「うそ……」
宇佐美は驚愕の表情を浮かべると黒狼は珠理を教会の椅子に座らせると宇佐美に向かい歩きだす。
宇佐美は小さな身体をいっぱいに広げ彩斗を守ろうとする。
「宇佐美から彩斗さんを盗らないでください!!」
黒狼は宇佐美の横を通り過ぎそのまま教会から出ていくと宇佐美は膝を震わせながら泣き出す。
「りょがったです……ばぼれだです」
教会に宇佐美の泣き声が木霊する。
「さてこれくらいにしときますかね」
男が笑いながら鎖をアンに巻き付けるとどこからか取り出した棺桶にアンを入れる。アンは左目を抜き取られ服を剥がされ右足を斬られていた。
「さてユニコーンの制御に一役買っていただきますか」
そう呟くと男は棺桶を背負って何処かに消える。
つづく