第六話
朝の一コマ朝食として並べられたパンとコーヒーを横に彩斗は何かが書かれた資料とにらめっこしていた。
彩斗は資料を睨み付けながらコーヒーを飲む。
「苦いな……」
彩斗は資料を置きため息を付くとパンにかじりつく。
「彩斗さん、なにをしてるんですかぁ?」
宇佐美が彩斗を覗き込みながら彩斗を見る。
「あぁ、ユニコーンのユニコーンランスの魔術術式の配列見てんだよ、つか行儀悪いから座れ」
彩斗は宇佐美に彩斗が注意するが宇佐美は呆れた顔をする。
「行儀を語るならまず読むの止めましょうよ」
宇佐美の言葉を聞き彩斗が宇佐美の頭を掴む。
「屁理屈こねてんじゃねぇぞ?」
「痛いです、彩斗さん、頭が割れちゃいます、あ、でもなんか気持ち良く……ハァハァハァ」
彩斗は苦笑いを浮かべる。
彩斗が若干力を込めて握ると宇佐美が息をきらしながら、興奮している。
彩斗はそのまま無言で宇佐美を椅子に座らせると手元にある資料を睨み付ける。
「多分彩斗さんじゃ見てもわからないと思いますよ」
宇佐美の言葉がグサリと彩斗の心に刺さる。
「幻想種の魔術配列のパターンわからないですよね?」
宇佐美が彩斗に追い討ちをかける。
「なにをしようとしてるのかは宇佐美もわかりませんがそれがわからないとその資料わかりませんよ?」
彩斗は椅子から倒れる。宇佐美の言葉のダメージが相当深かったようだ。
なぜ彩斗はこれをもっているかは少し時間を戻そう。
玲音はそのまま教会を出て帰っていった。
「さてと問題はユニコーンかぁどうするかね」
「普通考えてユニコーンランスを防ぐ魔法は秘匿指定されているから今から調べるのは無理ね」
椅子に寝かした珠理が起き上がりながら呟くと彩斗の頬を右手で撫でると彩斗は顔を赤くする。
「たく……」
「えへへ」
彩斗が恥ずかしそうに笑いながら珠理の髪を撫でると珠理は嬉しそうに笑みを浮かべ彩斗は視線を反らす。
「どうしたの?」
「少しトイレ」
心配そうに覗きこむ珠理に彩斗はそのまま洗面所に向かう。
彩斗はそのまま洗面所の壁に寄りかかり、鏡を見るとその漆黒の右目は深紅に染まり異質な光が宿る。
「ちくしょう・・・・・・」
これは自身の闇、絶対に珠理に知られてはならない闇、心に潜む珠理を傷つける闇。
「俺は守るんだよな、あいつを」
これは誓い、ただ守る。あの時少女の手を取り誓った約束。
あの時、あの場所で自分の手を握ってくれた、少女との約束。
彩斗が目を閉じ再び開くと漆黒の瞳が再び現れる。
「彩斗さん〜、まだですか〜」
扉の外で宇佐美が扉を叩くと彩斗は溜め息を一つ。
どうやら宇佐美が起きたらしい。
「今から行く」
彩斗が扉を開けると何かに扉が当たる。
「いたっ!!」
彩斗が扉の横を覗き込むと宇佐美がおでこを押さえ涙目になっている。
「なにやってんだ?」
彩斗が首を良くわからないように首を傾げる。
「彩斗さんが宇佐美を打ったんです!!」
宇佐美が彩斗の側に寄りながら突っかかると彩斗はドアに気づく。
「あぁ、このドアか……?」
宇佐美は高速で首を縦に振ると彩斗は呆れ顔で溜め息を付きそのまま何も言わずに聖堂に向かう。
「彩斗!!」
聖堂に入った途端に珠理が何かを投げてくるので彩斗はそれを掴むとタイトルを見て驚いた。
「師匠のレポートか、しかもユニコーンの」
かつて幼少期に自分を救い育ててくれた人のレポート。
「一年前に一子さんが置いていったわ」
「元気だったか?」
あの人に限って死んでいるなんていることはあり得ないがなに分此方からは連絡先がわからない。
それにあの人は住む場所を気分で変えるのでわからない。
「元気だったよ、私があった時は中国に住んでるって言ってたけど」
「相変わらずよくわからない人だ」
そう言えば結局最後まであの人がなぜ俺を助けてくれたのかわからなかったな。
そして現在、彩斗はレポートとにらめっこしている。
「開いたは良いが宇佐美の言う通り書いてある意味がわからない」
彩斗は頭を悩ませてるのはこのユニコーンのレポートが幻想種の術式配列の為に書いてある事がわからないことだ。
「確かにこれがわかればユニコーンにも対抗でき……」
「できませんよ」
彩斗の希望を宇佐美が否定する。
「彩斗さんは人間ですから幻想種の魔術を理解したとしても使えません」
宇佐美の纏う空気が何時になく重くなる。
「だからこそ彩斗さんは人間だからこそできる力で勝ってください」
彩斗はポケットから煙草を取り出すとそのまま席を立ち上がり扉に向かう。
「少し散歩に行ってくる」
彩斗は宇佐美の見送りも待たずに外に出ると黒いコートを羽織ってもまだ寒く教会の前は何処かの学校の通学路らしく、疎らではあるが学生服を着た生徒が学校まで急いでいた。
「つか寒い」
彩斗はあまりの寒さに身震いすると気が向いたので通学路を歩いてみることにする。
「とりあえず地球温暖化は嘘だな、もう少し進めよう」
彩斗はかなり微妙な決意をするとそのまま通学路を歩き始める。
彩斗は近くで見つけた自販機で缶コーヒーを買い飲みながら歩く。
「カフェインが身体に染みるぜ」
彩斗は意味がわからないことを言うと公園に入るとそこには金髪のショートの女性が楽しそうに座っている。
彩斗はその横をコーヒーを飲みながら通過する。
「何が楽しいんだか……」
先程の少女に対して彩斗は呟き、振り向くと学生服を着た眼鏡の少年が金髪の女性に頭を下げている。
「ん、いや待てよあの女、いや、幻想姫がこんなところに居るわけがない」
彩斗はそう呟きながら背を向け歩き始めるが既に通学路からは外れ、駅前の商店街に来ている。
「本も特に読むのも無いしな」
彩斗はそのまま商店街をぶらぶら歩くことに決めると商店街にいきなり結界が張られる。
「もう仕掛けて来たか」
彩斗は自身の予想通りの結果に微笑しながら辺りを見回すが辺りには誰も居らず彩斗は結論を出す。
「狙いは別に居るな」
彩斗は辺りを見回せるビルを探すと加速魔法を唱えると疾走を始める。
アンはホテルでコーヒーを飲みながら溜め息を着く。
「やっぱり本部と連絡は無理か……」
やはり何かの妨害でオーストラリア支部との連絡は取れず、アンは困り果てていた。
現状の戦力ではユニコーンの捕獲は不可能だと思われている。
「く、姫風彩斗、協会もなぜこんな男を推薦したの。全く相手にならないじゃない」
姫風彩斗を推薦した協会の真意がわからない。
彩斗はユニコーンと遭遇後に瀕死の重体を負ったらしいではないか。
「そもそも、この男の経歴がわからないじゃない」
そう、姫風彩斗の経歴はめちゃくちゃなのだ。
取り寄せた資料にはまず出生地が書いておらず、それどころか彩斗は二年間だけ魔術協会直轄の「学園」に所属していた経歴があるのだ。
それだけなら問題無いが問題はその前だ「学園」以前の彩斗の経歴が何も書かれていない。つまり姫風彩斗はいきなり「学園」に現れたのだ。
「しかも、学園の後の経歴が何も書かれていないし、こいつは二年間だけ学園に通っていたこと以外わからないってこと?」
アンは資料を見ると経歴に不思議なことに気付く、彩斗の保護責任者の名前である。
「上月一子って嘘でしょなんでこんな大物が保護責任者になってるのよ」
なんと魔術協会でも滅多に姿を表さない魔法使いの名が書かれているのだ。
「いったい何者なのよ、姫風彩斗」
突如街に結界が張られアンの背筋が伸びる。
「結界!?」
アンはカバンを持つとそのまま部屋を飛び出すと辺りを見回すがなにも無く、安堵するがその瞬間足音が響く。
「狙いは私みたいね」
結界を張った人間の狙いが自分だと気付いたアンはそのまま後ろの非常口から脱出を図るために向かう。
「嘘でしょ、なんで開かないのよ」
ドアノブを回すも全く反応が無く、足音はどんどんアンに迫る。
「まずいわね」
アンは内心焦る、足音は確実にこちらを目指している。
そしてついに廊下の端の階段からそれは姿を表す。
「く、閃光よ、矢となり、刃となれ」
アンは姿を確認せずに術式を組むと正面に光の刃が展開され姿を表した何かに降り注ぐが緑色の蛇のような何かが光の刃を喰い尽くすと煙の中から姿を表す。
「危ないですねぇ、殺す気ですか?」
黒いスーツに黒い帽子の狐目の男が不適な笑いを浮かべていた。
彩斗が疾走し道路を走るとふと背中に背筋が凍りつく気配を感じ急停止し、回転しながらバックステップすると周囲を見渡す。
「はぁ、はぁ、はぁ、なんだ?」
間違いなく何かが自分の後ろから迫って来ていた。
しかもとんでもない何かがこの結界内には居る。
「ほぉ〜我の存在に気付くか」
彩斗の首筋に刃が当てられ、彩斗が前方に跳躍すると遅れて刃が横に薙ぐ。
「てめぇ……」
彩斗が刃の持ち主を確認すると黒い仮面に漆黒の鎧を纏った騎士が身の丈程の刀を構えている。
「何者だ?」
彩斗はこんな奇抜なファッションの友人は居ないので訪ねて見つつも警戒を怠らない。
「我が名は黒狼、姫風彩斗よ、貴公の力試させて貰おう!!」
そう叫び黒狼が彩斗に向かい刀を構え疾走し迫まる。
つづく