第三話
彩斗は遂にユニコーンと出会う。
彩斗がビル街を歩くと不意に誰かに見られている気配を感じる。
「付けてきてるな、誰だ?」
彩斗は尾行に気付き呟くが答えは無い。彩斗はため息をつくと足でステップを踏む。
「時の視点、聖女の歌、道化師よ嘲笑え」
彩斗は詠唱を呟くと一瞬、彩斗の姿がブレると彩斗は何事もなく歩き出す。
「さて、尾行は外れたな」
彩斗は虚像魔法を使ったのだ。虚像魔法は己の姿を光の反射を使って自分の姿を別の姿に見せる魔法である。彩斗はこれを使い尾行を外したのだ。
「さて捜索には時間かかりそうだしコンビニで立ち読みでもするかねぇ」
彩斗はぼやくと光る鳥が彩斗の肩に乗る。
「早かったな」 この光る鳥は彩斗がユニコーンの探索に放ったものである。鳥が戻ったということは見つけたと言うことである。
「西区の森か・・・・・・彼処は金持ち居るから嫌なんだよなぁ」
彩斗は面倒そうに携帯を取り出すと事務所にかけ始め、三回ほどコールすると、宇佐美がでる。
「もしもし彩斗さん、どうしました、宇佐美の声聞きたくなりましたか?」
「アホ、とりあえずユニコーン発見だ。これから行くからバイク用意しろ、歩くのめんどくさい」
彩斗は宇佐美にバイクを要求するが万年金欠な姫風公務店にはバイク等無いのだかなり無茶苦茶な要求をする。
「彩斗さん、バイクなんか無いじゃないですか、あまりに欲しくてボケましたか?」「宇佐美、確かに我が姫風公務店にはバイクは無い、だがバイクはあるところにはある」
「彩斗さん、それ普通に犯罪ですよ」
彩斗は普通にバイクを盗む気だったらしいが、宇佐美に止められる。宇佐美は普段あれだが一応常識はある。
「ち、仕方ない俺がやるか」
「彩斗さん、あなたがやってもアウトはアウトですからね」
彩斗は仕方なく諦め走ることにする。
「疾走者、加速空間、道化師は笑い狂う」
彩斗は呟くと一瞬でその場から消える。消えたのではなく疾走している。ビルの壁を走っているのだ。もちろん虚像魔法も発動中なので周りからは見ることはできない。そのまま彩斗は加速を続け森に向かう。
蝋燭の光に照らされた部屋に仮面をした男が座っている。
「ユニコーンはどうだ」
仮面の男は目の前の頭を下げている男に問いかける。男はビジネススーツに帽子を被っており、和風の部屋に似つかわしくない服装だった。
「先見隊の連絡が途絶えました」
「それで、俺は無能は必要ないぞ」
仮面の男は間髪入れずに言い放つと頭を下げている男はニヤける。
「現在、ギュールが向かっております」
「ギュールか、あの男信用できるのか、あの男は魔術協会の人間だ」
仮面の男は手に持ったグラスを握り潰す。その手は人間のものではなく禍々しい爪と鱗の様な物に覆われている。
「浩司さま、あれは元魔術協会の人間ですよ」
頭を下げた男は仮面の男浩司に説明すると男は立ち上がり部屋を出ていく。
「では失礼します」
男は部屋を出て廊下を歩くと和服を着た黒い長い髪の女性が酒を持ちながら待っていた。
「報告も大変だね、零也」
「なんのようですかね、奥様」
零也は笑顔で女性に答える。
「私はねぇ〜、貴方が嫌いなのよね」
「それはそれは、なぜでしょうか」
零也が軽くニヤつきながら尋ねると女性は睨み付ける。
「あんたが浩司さまの妨げになる可能性があるからよ」
「私がですか? ずいぶんと上に見ていただきありがとうございます」
零也が帽子を取り頭を下げる。
「いつかあんたの化けの皮を剥いでやる」
女性はそう言い放つと踵を返し零也の前から消える。
「化けの皮ですか、クククク、良いねぇ〜、全て俺の手のひらだ!」
零也が嫌な笑みを浮かべながら女性の消えた方向に呟く。
しっかりと整備された森に彩斗が降り立つ。
「さてユニコーン何処かね〜」
この森は美咲市の高級住宅街に隣接する森であり森を挟んで向こうは既に住宅街である。つまり此処で戦うのは彩斗としてもベストとは言えない。
「寒いな、とりあえず探すか」
季節は既に冬である。先程の少年とのいざこざで既に昼を過ぎている。昼間になっても気温はそこまで上がらない。彩斗は早めに終わらせて食事をしたいのだ。とりあえずポケットから煙草を出して火を灯すと樹の幹に小さなナイフが刺さり円が組んであることに気づく。
「結界の起点か、しかも全く起動した形跡がないな」
彩斗は結界の起点から分析を始めると違和感を覚え、表情が険しくなる。
「おい、待てよ、これを仕掛けた奴はなんで起動しない」
彩斗は一人呟く、結界の起動は仕掛けた存在が起動したいから仕掛けたものだそれが未だに起動していない。考えられる理由は2つ、まだ準備ができていない。もう一つは既に死んでいる。この場合は後者だろう。
「本格的にヤバいな」
だが彩斗はすぐに後者に断定すると彩斗は煙草を携帯灰皿に押し付けると歩き出し何かの手がかりを探し出す。
一方姫風工務店では自分の身の丈を越える巨大なケースを背負った宇佐美が事務所から出るところだった。
「では、アンさん事務所をお願いします。彩斗さんが心配なので私は行くです」
宇佐美は笑顔で敬礼して屋上への階段を駆け上がるとそのまま隣のビルに飛び移る。
「彩斗さん、宇佐美がすぐ行きます!!」
そのまま宇佐美がビル伝いに跳躍し彩斗の居る森へと急ぐ。
森の奥を進む彩斗は目の前の惨状に驚きを隠せない。
「ひでぇな、こりゃ生きてないな」
彩斗の目の前には死体。高温で黒く焼き尽くされた黒い死体が目の前に数体転がっており、その焦げ付いた臭いに彩斗は苦笑いを浮かべている。
「別に死体が見慣れてない訳じゃないがこりゃ酷いな」
彩斗が焼死体いると布に包まれた何かが燃えていることに気付く。
彩斗は土をかけ火を消すと中身を覗きこむと箱のようなものが出てくる。
「こいつら、まさか」
彩斗は不意に悪寒を感じる。全身の血流が引いていくような感覚が全身を駆け巡る。
彩斗はゆっくりと後ろを振り向く。
「ははは、マジかよ」
そこには純白の美しい身体に神々しい黄金の角に深紅の瞳を持つ馬の姿を象ったユニコーンが佇んでいた。
それを見た彩斗は失笑を浮かべながら目を見開く。
「ついてねえな」
先にユニコーンの方が動く。
ユニコーンの黄金の角の先に魔力が収束され、大気を歪め辺りに影響を与えて行く。
その現象を前に彩斗は覚悟を決め、自身の内に眠る魔力を高める。
「聖なる神殿、外界の守り、七輪の華」
彩斗の詠唱が始まると同時にユニコーンの角から大気を引き裂く閃光が放たれる。
「我が驚異を打ち消せ!!」
彩斗の前方に巨大な魔法陣が展開される。
防御魔法の上位にあたる神殿魔法【ノーマン神殿】
同じ幻想種のドラゴンが放つドラゴンブレスすら防ぐ、強力な外界の守り。彩斗の有する最強にして絶対の守り。
彩斗に迫る破壊の閃光に間一髪【ノーマン神殿】が展開される。その外観は純白の七本の柱を持ちし神殿。
「おいおい、冗談だろ?」
彩斗が顔に焦りを浮かべる。
強力な防御魔法であるはずの【ノーマン神殿】にヒビが入り始めたのだ。
(そうか・・・・・・)
そもそもユニコーンの閃光はドラゴンブレスとは違う。ドラゴンブレスはその火力を持って広範囲を焼き尽くすものだが、ユニコーンの閃光、ユニコーンランスは貫通力による一点破壊である。【ノーマン神殿】は広域に展開された魔力を周りに四散することで防御する神殿魔法である。一点破壊のユニコーンランスを防ぐことは叶わない。
直後に【ノーマン神殿】柱が砕け始める。
(く・・・・・・なにかないのか?)
彩斗は焦りを覚えるが解決策を思案している暇はない。ユニコーンランスは彩斗のすぐ側まで迫っている。
一本また一本と神殿の柱は脆くも崩れ去っていく。
ヤバい。
そんなことは承知のうえである。このまま待っていては自分も後ろの黒焦げ死体の仲間入りである。
(考えろ、思考を止めるな!!)
彩斗のポケットの中に入った短刀に手が当たる。【戦人フラガの短刀】所持者を一撃で殺しきる魔法を打ち消し滅ぼすカウンター。(確かにこれなら・・・・・・だが)
彩斗がこれを使わない理由はユニコーンランスに対して有効である保証がないのだ。彩斗はこれまで生きてきた中で幻想種との戦闘はなく幻想種の攻撃は果たして魔法なのかわからないのだ。
だが無慈悲にもユニコーンランスは彩斗に迫る。
彩斗は思考するがとっさに自分が使える魔法でユニコーンランスを防ぎうるものは無い。魔法とは強力なものほど詠唱が長い。
彩斗は悟る、これにかけるしかないと、自らが生き残るために【戦人フラガの短刀】に全てを賭ける。
彩斗の覚悟を待っていたかの様に最後の柱が砕けユニコーンランスは障害なく彩斗に向かう。
「試したことはねぇがやるしかねぇ!!」
彩斗はコートのポケットから短刀を取り出し構える。自身の驚異となりうる閃光を排除するが為に彩斗は叫ぶ。
「カウンターフラッガ!!」
彩斗の右手に握られた戦人の短剣が蒼く輝き震えだす。そして魔力が終息を始め、蒼い刃を作り出し彩斗の叫びと共に蒼い閃光が放たれる。
蒼い閃光は真っ直ぐにコーンランスに向かいユニコーンランスを切り裂き打ち倒す。
ユニコーンランスを打ち倒しし閃光は真っ直ぐに指向性を持ってユニコーンに向かう。
ユニコーンが跳躍し優雅に空に上がりお返しと言わんばかりに上空からユニコーンランスを彩斗に放つ。「ち!」
再び彩斗はナイフを構える。【戦人フラガの短刀】は彩斗の魔力を受け再び蒼い刃を作り出しユニコーンランスと拮抗し爆発する。「しまっ・・・・・・」 辺りを白い閃光が包み込み彩斗の視界を生め尽くし彩斗は気付いた。初めからこれが狙いだと、だが気付いた時にはもう遅い。
複数の閃光が彩斗に向かい降り注ぐ。
地面に刺さった閃光が炸裂し爆風を起こす。
爆風は木々を揺らし、葉を撒き散らし彩斗に迫る。「く!」
彩斗は数メートルほど吹き飛び大樹に身体を打ち付け地面に落ちる。
「ぐふ!!」
彩斗は咳き込みながらユニコーンの姿を探す。
こうしている間にもユニコーンはこちらを狙っているはずなのだ。
彩斗は痛みに耐えながら立ち上がり前を見るとユニコーンが王者の風格を持ちながらその深紅の瞳はしっかりと彩斗を見据えていた。
「なんだ…」
一瞬ユニコーンの姿が歪んだ様に見えた。ように見えたのは現実を認めたくない彩斗の願望なのだろう。 ユニコーンの歪みは徐々に大きな歪みを作り出す。だが正確にはユニコーンが歪んでいるのではなく、ユニコーンから発する魔力が大気に歪みを作り出しているのだ。
大気に空間に影響を与える魔力などそれこそ次元が違うものである。
ふと彩斗の頬を風が撫でる。魔力の歪みが回転を始め収束を始めたのだ。
「マズイ・・・・・・」
おそらくは此方にユニコーンランスを放つ気であるが、問題はその大きさである。おそらくは先程とは比較にならないものだと容易に予想することができる。
(たが此方には短刀が・・・・・・)
此処にきて彩斗は絶望を覚える。先程まで自分を守っていた短刀が手元に無いのだ。
彩斗は急いで辺りを見回すと数メートル先の樹の幹に刺さった短刀を見つける。
おそらくは吹き飛ばされた時に手から落ちたのだろう。
彩斗はユニコーンの方に視線を移すと歪みの中央に巨大な魔力の塊が形成されていた。
それを見た彩斗は急いで短刀に向かい走りだす。
(急げ!)
あんなものを食らえば黒焦げではすまない。肉片も残らず蒸発されてしまう。
だが無情にもユニコーンは魔力を放つ。魔力は一本の柱となり彩斗に降り注ぐ。
「畜生が、聖なる神殿、外界の守り、七輪の華、我が脅威を打ち消せ!」
再び【ノーマン神殿】が展開される。未だに彩斗手には短刀は無い。彩斗は自身の最強の守りを使用し時間を稼ぐ他、手はない。
だが【ノーマン神殿】ではユニコーンランスを防げないのは先程証明済みである。
だが今回放たれたユニコーンランスは程とは比べ物のにならないほどに威力に差があるのだ。
展開された【ノーマン神殿】は直撃と同時に柱を数本破壊し今にも崩れそうである。
それでも彩斗は走る。手を伸ばす。
生き残る為に。
「間に合え!!」
だが彩斗の叫びも虚しく無慈悲にも【ノーマン神殿】は崩れ落ちる。
魔力の柱は彩斗に真っ直ぐに向かう。
先程までユニコーンランスを防いでいた短刀は手元になく、自身を一撃で葬りさる破壊の閃光を防ぐ手段は彩斗には存在しない。
彩斗は目を閉じる。
彩斗は未だに諦めていない生き残ることを、あの柱を防ぐことを。
彩斗は覚悟を決めコートの中から漆黒のハンドガンを取りだし構えるがユニコーンランスは俄然に迫る。(間に合うか・・・・・・?)
彩斗がトリガーを引くと同時に辺りを閃光が包み込み爆発を起こし、大地を抉りあたりを白く染め上げる。
つづく
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