13話
彩斗がゆっくりと立ち上がると変わり果てたアン・ワイズメルを見つめる。ふとアンが彩斗の方を向くと黄金の角に魔力が集中すると彩斗に向かい雷が12本照射される光速で照射される魔力の雷撃、その一撃全てが彩斗を消し炭にするに足りる雷である。雷が地面を砕きアスファルトが弾けて爆ぜる。
煙が巻き上がり、彩斗の姿が見えなくなる。煙が晴れるとそこには彩斗の姿は無く、砕かれ、抉られ、焦げたアスファルトだけがあった。そう、あったのはそれだけそこにあるべき姫風彩斗の死体が無いのだ。
「そこに彩斗さんは居ませんよお馬さん」
幼い少女の声が響く。その声は酷く冷たく殺意がこもる少女には似つかわしくない声である。
アンは声のする方を向くと街灯の上に純白の髪に血のように深紅の瞳の少女、稲葉宇佐美が自分の身の丈を超える大鎌を背負い佇んでいた。
宇佐美が街灯からゆっくりと舞い降りる。白い髪が一瞬だけ浮く。背負った鎌を構えるとアンをしっかりと見据える。
だがアンが突如発光が大きくなる。大気が震え大地が振動する。刹那、アンの身体が消える。次の瞬間宇佐美の胴体の右半分が消し飛ぶ。そしてその後にはアンが佇んでいる。ユニコーンランスである。ただしただのユニコーンランスではない、磁力系の魔法を使用した加速により以前のユニコーンランスとは比べるまでもないスピードで放たれるユニコーンランスは宇佐美の知覚外で放たれ易々と宇佐美の身体の消し飛ばす。
だがここで宇佐美の身体が粒子となり消える。そして宇佐美が先ほどと変わらない姿で街灯の上に佇んでいた。だが1つだけ異常がる。それは宇佐美自身の数である。街灯5つにそれぞれ宇佐美が同じ姿で佇んでいる。
「どうしましたお馬さん、あれで終わると思いましたか?」
5人の宇佐美が一斉に同じ言葉をしゃべりそして微笑む。
「Gaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!」
アンが人ならざる叫び声を上げると街灯の電灯が一斉に砕ける。それと同時に5人の宇佐美一斉にアンに飛びかかる。だがアンの角が発光を始める。角の先端の発光する球体が生成されその球体より雷が5本放たれ、宇佐美を一瞬で消し飛ばされがその後ろから新たな宇佐美が10人出現し微笑んでいる。
「お困りですね、お馬さん!!」
10人の宇佐美が着地と同時にアン向かい鎌を振るうがアンの肌に触れた瞬間その刃がアンの皮膚に阻まれる。
「流出魔力だけでこれですか‥‥‥」
現在のアンの肌は熱と同じように魔力が発生している。宇佐美の鎌はその発生魔力で止まる。アンの手刀に宇佐美の1人が肩口を切り裂かれるが切り裂かれた宇佐美は粒子となり消える。
「どうしましたお馬さん、何かありましたか?」
街灯の上に背中にそして正面に100人をゆうに超える宇佐美が現れていたのだ。
「魔幻、稲葉の白兎、そこで幻としばらく遊んでいてください」
宇佐美は路地裏から自身の幻と遊ぶアン・ワイズメルを見ると横に座る彩斗を見る。彩斗は片膝を抱え座っている。
「宇佐美、弾はあと何発ある‥‥‥」
「彩斗さん、本気ですか‥‥‥もうシルバーバレットは残り13発、虎丸も燃料切れです、もう幻想種との戦闘は不可能です」
宇佐美の言葉に彩斗がふらつきながら立ち上がりデザートイーグルのマガジンにシルバーバレットを補充する。
「彩斗さん!!」
宇佐美の言葉に彩斗は少し振り返るがそのまま路地からアンの元に向かう。
「今のアンさんは何らかの術式でユニコーンと融合されてます、いわゆる幻想種と人の混合体です、人間の彩斗さんじゃあ勝てません」
宇佐美がひとしきり説明するが彩斗はデザートイーグルをアンに向ける。
「そんなことはわかってるよ、見りゃわかる、この程度のもんは腐るほど見たし今更俺にとっちゃ珍しくもねぇ、だがな、みたいもんでもなきゃ、やっていいこっちゃねぇんだよ!!」
彩斗の脳裏に過ぎるのはあの地獄とも言える施設、そこで行われたもの地獄の日々。
「クソが、まだ間に合うんだよ、完全に融合しちまったもうなにもできねぇ、まだあいつはアンは救えんだよ!!」
「彩斗さん、それでもあなたはもうボロボロです、魔力だってもうユニコーンランスを防げるほど残っていませんよ」
彩斗の魔力はそれほど多くない、それこそ凡才の域を出ない。ユニコーンと零也との戦闘で既に彩斗の魔力は二割を切っておりそれこそ危険域だ。
「彩斗さん、魔法の力は命の力、既に使用できる魔力はそれほど多くないです、これ以上は命を燃やさざるおえませんよ」
魔法に使用する魔力は人間の生きる力、命のエネルギーを使用する。永久機関たる命のエネルギー命は永遠に人間にエネルギーを供給し続ける。だが永久機関といえども無尽蔵ではない。命のエネルギーは人によりエネルギーの1日の上限が存在する。
「1つ言います、彩斗さん、今出れば確実にあなたは死にます‥‥‥」
「死なねーよ、理屈なんてどうでもいい、俺が生きて帰るっつたら帰るんだよ」
彩斗は微笑むと宇佐美の頭を撫でるとそのまま宇佐美の横を通り抜けようとする。
「だが具体的にどう戦うつもりだ姫風彩斗」
路地の闇より全身を漆黒の鎧に包んだ黒い仮面の剣士黒狼が現れる。
「口では幾らでも救うと言える、だが貴様は彼女をどう救うつもりだ、貴様の魔力はもはや少なくそれこそ身体もボロボロだろう、その状態で改めて問う、姫風彩斗、貴様いかにして彼女を救う」
黒狼の威圧感が彩斗を襲うが彩斗はまっすぐ見つめ返す。
「こいつを使う・・・・・・」
彩斗の右手の甲に666の文字が浮かび上がる。
「コントロールできるのか」
「あんたが判断しろよ英雄、これはあんたの敵だろが‥‥‥呑まれたらあんたが殺せ、あんたならできるだろ英雄」
彩斗はそういうとユニコーンに向かっていった。