銀髪糸目の裏切者に贈る二周目の証拠
わたしの初恋の人が大罪人として極刑になりそう。
どこでも簡単に見れるものじゃないから、せっかくだししっかり見ておかなきゃ。
大陸崩壊未遂犯なんてこの国の裁判で出てき初めての犯罪じゃないかな。
極刑or死刑or処刑しかないような裁判にかけられてるその人の名前は、ファーレさん。
長い銀髪を緩くまとめ、こんな時でもニコニコと微笑んでる男の人だ。
何重にも手錠がかけられてる時でも伸びた背筋。姿勢が良いのもあって元から高身長なのが更に高く見える。
普通なら周りの人に圧を与えそうな存在感なんだけど、ファーレさんは雰囲気が柔らかいからかあんまり圧を感じなかった。
今はぐるぐる巻きの手錠とか魔封印の圧の方が凄いぐらいだし。
1年ぐらい牢屋に入ってたからか最後に見た姿よりは少し窶れている。
キューティクルな長い銀髪は毛先が傷んでいるようだ。せっかくの綺麗な髪だったのに残念。
けれどこんな状況でもファーレさんは美貌はそのまま。
やっぱりびっくりするぐらい綺麗な顔だ。
「弁護人カリナ・ヨイヒ。証言台へ」
「あ、はい」
ファーレさんの顔に思わず見とれていたらわたしの名前が呼ばれた。聴衆の中から抜け出してわたしは前に出る。
今日は弁護人として来てるんだからちゃんとしないと。
「わたしカリナ・ヨイヒは共に瘴気を払う旅をした仲間として、ファーレさんの無実を主張します」
ちらりとファーレさんを見ると“は?”なんて顔をしていた。まさかわたしが弁護人として証言台に立つなんて思ってなかったんだろうな。
美形はポカンとした面をしていても変わらない。普段からニコニコしてる人の違う顔が見れるっていいよね。
「ヨイヒさん、貴女何言って――うぐ」
「静粛に!」と裁判長の言葉と共に身を乗り出したファーレさんは両隣で待機していた騎士さんたちに抑え込まれた。
わたしがまだ話終わってないんだから当然だ。
沈静化されたファーレさんを確認した裁判長が口を開く。
「未遂とはいえこの大陸を混沌に陥れようとした被告に対して、無罪を主張するのですか」
裁判長とは言ったけど、あくまでもこの場の纏め役にしか過ぎない。この人はただ事件を整理する為にいろいろ聞きたいんだろうなぁ。
よし、とことん聞いてもらおう。
わたしはこれ幸いにはっきりと言い切った。
「はい。だってファーレさんは、みんなのより良い明日の為に頑張った2周目の人なんですから」
誰に否定されたとしても、わたしはわたしのやりたい事をすると決めた。
どんなデタラメを並べてでも。どんな手を使ってでも。
処刑寸前の相手を生かしてみせる。
たとえ4年間旅をした後にわたしと他の仲間を裏切って、最終的には殴り合いにまで発展した相手であったとしても。
ここでひとつ、わたし自身の話をしよう。
わたしは日本で暮らす普通の女の子だったのに、5年前に突如として異世界に転移させられた。14歳の誕生日の日だった。
そしてこの世界の神様に頼まれたのだ。
この世界はいくつか大陸があって、それぞれ神様が管理してる。わたしは北の大陸を管理する神様に喚ばれた。
神様曰く500年に1度、大陸中に溢れてしまう瘴気を祓って欲しいのだと。
大きな狐みたいな姿をした神様は凄く困ったような様子だったから、わたしはその依頼を引き受けた。
21歳になった今考えると無理な依頼だと思う。でも仕方がない。
当時のわたしは異世界転移なんて非日常に放り込まれた14歳の夢見がちな女の子だったんだから。
まさか瘴気を祓う巡礼の旅が4年もかかるなんて思ってなかった。
神様からは、歴代異世界転移した人は半年ぐらいで旅を終えて元の世界に帰ったって聞いてたし。
そんなこんなでこの世界に転移したわけだけど、わたしの転移場所は最悪だった。
他の大陸からの移民の村で、神様への信仰心が皆無だったのだ。
だからまぁ、物凄く雑に扱われたというか。便利な道具みたいに使われたというか。
いくつかもらった転移特典のひとつにいろんな魔法を使えるようになるっていうのがあるんだけど、異世界転移したてじゃ使いこなせなかった。まず魔法の使い方が分からなかったのだ。
最低限死なない程度の食事と家畜小屋生活は辛かったな……
そして限界生活2ヶ月ちょい。
旅の祓除士として村を訪れたファーレさんにわたしは村から救い出され、改めて瘴気を祓う旅がスタートしたのだった。
『フツジョシってなんですか』
『瘴気を祓う者です。神に選ばれた貴女ほどの御業は出来ませんが』
『瘴気ってどうやって祓えば……まずここが何処かもわからないのに』
『ならば共に旅をしましょう。瘴気を祓う前にこの世界を知ってゆけばよいのです。
幸いにも僕は旅慣れているので、案内はお任せください』
この世界の常識を何も知らないわたしにファーレさんは嫌な顔せず何でも教えてくれた。
小さな子供でも分かるような説明で根気よく付き合ってくれた。
たったひとり、右も左もわからない世界で頼れる相手だったのだ。
そこで『まず、ヨイヒさんは何がやりたいですか? 世界を救うよりそちらを先にやってみましょう』なんて言われたら落ちないわけないよね。
おかげさまで旅は道草だらけだった。辺境の村にまで足を伸ばして瘴気を祓って気を引かれたものにはなんでも手を出した。
まぁそのファーレさんは、わたしが祓ったはずの瘴気をこっそり集めて大陸の中心地でドカン! なんて大爆発と混沌を引き起こそうとしたテロリストだったんだけど。
わたしを助けたのも、神様に呼ばれた人間を利用する為だった。
でも、そんな相手でも初恋の相手なんだから死んで欲しくはないじゃん?
誰だってピンチの時に助けてくれる親切な美形がいたら好きになっちゃうと思う。そこに居たのが当時14の小娘なら尚更。
あの頃の初恋はもう残っちゃいないけど、わたしはファーレさんに生きていて欲しいと思う。
「みんなの為に2周目までして頑張ったファーレさんが報われないのはおかしいじゃないですか」
「2周目というのは……?」
「逆行とか強くてニューゲーム? 的な。1周目の旅をした記憶を引き継いでるんです」
裁判長が首を傾げている。というか、周りの人たちみんな首の角度が傾いていて面白い。
わたしはこれでもちょっとは影響力のある人間だと自覚してる。そんな奴がトンチキを言い出したんだから当然っちゃ当然だ。
わたし自身もファーレさんが2周目だなんて、頭がおかしい言い分だと思う。けど、それがいちばん無罪を勝ち取る為に説得力のある主張なのだから仕方がない。
「まず、この事件を整理してみましょう。ほら、ファーレさんが大陸をぐちゃぐちゃにしようとしたぐらいしか知らない人もいますし」
みんなに説得力を持たせる為に最初から説明しないと。ちょっと事実を捻じ曲げたとしても、裁判なんて信じ込ませた方が勝つんだし。
幸いにもこの裁判は主要な都市に生中継されている。異世界ってすごい。
魔法で映像だって映し出せるんだから。
「ひとつ、ファーレさんが祓ったはずの瘴気を集めていたのに相違はありません。
なんならケレーア王国の王都に瘴気を運ぶ道も繋げていました」
わたしがせっかく祓った瘴気をこっそり拝借されてたって知った時はびっくりしたなぁ。
祓除士とは瘴気を扱う魔法が得意な人の職業だ。本来は字の通り瘴気を祓うのが本業なんだけど――逆に集束だって出来る。
祓えるのなら逆も出来るってわけだ。
ちなみに瘴気はまぁ字からして悪いもので、人が浴びたら頭痛・目眩・吐気・疑心暗鬼から始まりいろんな不調におそわれる。
ついでに植物の生育にも悪いし魔物は強化されちゃったりと害しかないものだ。
とはいえ自然発生してしまうので、500年ぐらいして溜まった頃合いに神様が異世界人を招いて祓うシステムらしい。
「ふたつ、最後の巡礼地である王都に着いてすぐ宿のご飯に毒を盛ったのもファーレさんです。
わたしは神様の加護で毒耐性があったので動けましたけど、聖騎士のアルマくんも魔道士のミランちゃんも昏睡しました」
わたしは神様からそれなりに色んな特典を付けてもらってる。
全属性魔法への適正と自由に扱える膨大な魔力。
そして物凄いスピードで傷が治る治癒力。
現代人のわたしが死なずに異世界で生活出来たのはひとえに転移特典であるめちゃくちゃ丈夫な身体があったからだ。
毒で死ぬほど苦しくてのたうち回ったけど、数分もしたらすぐにファーレさんを追いかけられるぐらいには回復したからね!
……他の仲間は眠るぐらいだったのに。私だけちょっと毒の種類が違ったような。
致死性がやけに高いというか――まぁもう終わったことだしいいか。
「すまないカリナ殿……どう考えてもファーレが有罪となる証言なのだが……やはりそうなのだろうか?」
そうじゃないです。
危ない。最後の追い打ちをかけるところだった。
ちらりとファーレさんを見るとまたいつものニコニコ顔を取り戻していた。ああ……せっかく珍しい顔が見れていたのに。
「ファーレさんは全部わかっていたんです。わたしが瘴気を払ったところで、また500年後には溢れてしまうって」
「だから500年に1度、異世界からあなたのような巫が召喚されるのでは」
「でも、500年後に巫が召喚されるまでの間は瘴気が溜まり続けて大変な世界になるじゃないですか」
瘴気は瘴気を呼ぶから。1匹見たら30匹はいると思えっていうアイツと同じだ。
歴史書をパラパラっと呼んでみたけど、だいたい300年すぎたあたりから土地が荒れ始めてる。
普通の人間は気にしてないみたいだけど、長命種族のヒトは瘴気が溜まると息苦しいって言ってたし。
「だからファーレさんは残りカスみたいな瘴気も魔法でギュッと集めて最後の巡礼地の王都でわたしに祓わせたんですよ」
この大陸の隅々まで旅をして瘴気を祓って、残った瘴気だって最後にまとめてポイッと。
過去類を見ないぐらい瘴気が祓われてるから、あとは他の祓除士さん達で祓っておけば大丈夫そう。やっぱり一気に掃除するよりは定期的なメンテナンスの方が大切だと思うんだよね。
「なるほど……」「確かに残留瘴気は無い」
「未来を考えると合理的か……」
お、一部の聴衆が頷き始めた。
特に長命種の人なんて凄くハッとした顔をしていた。
旅の途中、エルフ族の長老が瘴気で万年肩凝りが酷いなんて言ってたなぁ。
「瘴気については確かに理にかなってる――だが! カリナ殿やその従者に毒を盛った理由は」
「従者じゃなくて仲間ですよ。毒についてはほら。瘴気が強すぎてわたしたち以外が王都の祭壇に行ったら死んでましたよ」
神様の加護があるわたしは平気だけど、一般人は不味かっただろうなぁ。ちなみにファーレさんも瘴気が大丈夫な人種だから平気だ。
銀髪がトレードマークのちょっとだけ人間よりも長生きな種族で、瘴気の扱いが得意らしい。
「つまり、多少手荒な方法ですけど結果的にはファーレさんのおかげで死人ゼロというわけです。事前に祭壇周りはファーレさんが人払いもしてましたし」
「まさか瘴気を集める為にファーレが刻んだ人避けの魔紋のおかげで……!?」
「そのまさかです!」
実際のところはわからないけども納得してくれそうなら構わない。なんていうかファーレさんは多少の犠牲は許しちゃいそうなタイプなのだ。
でも助かった事実さえあればいい。
他にも、わたしはファーレさんのお陰で助かった話をする。
ファーレさんが選ばなかった道に落石が起きたり、ファーレさんがたまたま買った薬がたまたま寄った村の流行病に効いたり。
あれ。やっぱりファーレさんの人助け力凄すぎない?
「ならば何故カリナ殿と闘ったのです! 完全な瘴気の消滅が目的ならば最初から協力すれば良かったのでは……」
「すいません、発言の許可を」
「あっ神官長さん」
スっと手を挙げたのは修道服に身を包んだ女の人。王都の祭壇管理を任されている教会の神官長だ。
確かこの人は瘴気の溢れる祭壇に最後まで居たのを覚えている。瘴気に耐性はあったみたいだけど、苦しそうだったから心配だったのだ。
元気そうでよかった。
神官長さんはぺこりとわたしに一礼すると口を開いた。
「そこの男はあの時、カリナ様に対して高らかに“お前を利用してこの地にたどり着いた!”と宣言していました。そして容赦なく命を奪おうとしたのを私はこの目で見ましたわ」
確かにそんな宣言されたな。
王都の祭壇は限られた人間しか入れないから、わたしの旅に同行した真の目的がどうたらと。ついでに“お前のその顔を見ると反吐が出る”だのと、わりと酷い言葉を投げられた。
でもまぁ終わった出来事だし? そんな細かい話はどうでもいいのだ。
「そしてなんと酷いものでしょう。ファーレはカリナ様に殴りかかったのです。このような大男に手を出されるなど、カリナ様はどれほど恐ろしかったか。
慈悲の心で彼女はファーレを赦そうとしても私は許せません!」
あ、ヤバい。
教会所属の人は結構な確率で巫まで信仰対象としている。わたしの意思そっちのけで髪の毛一本まで拝まれたりするのだ。
彼女もそのタイプらしい。神官長さんの目には可哀想な巫様が写りこんでいた。
「違います! 肉体言語で語り合っただけです! 人間、必死になれば言葉なんて必要ないんですよ!」
何を言っているんだろうわたしは。取り押さえられているファーレさんも“何を言ってるんだお前は?”という顔をしている。
最初は魔法対決だったんだけど最終的にはお互い杖も捨てて殴り合いになったんだよね。
「最終的ににファーレさんはわたしの右アッパーで華麗に沈めましたから!」
旅の途中で出会った隠居の魔拳士様に弟子入りをしてよかった。杖を補助にして魔法を使うんじゃなくて、魔力を己の体内でフル回転させる身体強化魔法を教えてもらったおかげだ。
「最後の闘いはファーレさんの試練だったんです! 考えてみてくださいよ。ファーレさんごときに勝てない人が積もり積もった瘴気を祓えるわけないじゃないですか」
うわ、やば。ファーレさんの顔に青筋が立ってる。
微笑んでいるのに微笑んでない。フォロー入れとこ。
「ファーレさんは一応手加減してくれましたよ。わたしみたいな普通の女の子が男の人に拳で勝てるわけないじゃないですか」
あくまでもわたしの力を見る為の試練だったのです! と押し切る。
「言われてみると確かに」
「そうですわね。カリナ様は華奢ですから……ファーレが手を抜いたというのなら……」
ほ、よかった。
このままだとファーレさんが弱くてわたしがゴリラみたいになるところだった。
――て、ファーレさんがまた強く取り押さえられてる!? 口も抑えられてモガモガ何か言ってるけど完全にブチギレ顔だ。
なんでぇ? ちゃんとファーレさん(とわたし)の名誉を守ってあげたのに。
「大罪人ファーレ、何か主張があるようだが」
見かねた裁判長がファーレさんの拘束を緩めるよう指示を出す。
「ええ、ええ。好き勝手言わせておけば。
だ・れ・が ごときですか! その前に私は手を抜いた覚えなど――いえ、こほん」
ヒートアップしていたファーレさんがスっと落ち着く。この人切り替え早いな。
そういえば、裏切る直前まで何時もの穏やかなファーレさんだったからそういう芸風なんだろう。
「まんまと僕に利用された巫様は良いように解釈しているようですが、偶然に決まっているではありませんか」
歪んでいた顔はにっこりと。どこからどう見ても爽やかイケメンのファーレさんが口を開く。
「僕はこの世界の腐りきった人間共を根絶やしに出来ればそれで良かったのです。アホ面晒して生きている姿を見るだけで気持ち悪くて仕方がない。苦しんで苦しんで死ねばいいとしか思えない。
たまたま生き延びただけで、怪我の功名なのですよ」
にこやかに言ってるけど内容はえげつないな。アホ面て……。
こんな言い分をして、実際には救われてる人の方が多いんだよなぁ。
「ファーレさんなんでそんなに死にたいんですか」
そういうのやめてくださいよ、なんて言っても微笑むばかりで私の問に答えてなんてくれない。
「僕を生かしていたらきっとまた世界を崩壊させる方法を考えますけど、どうします?」
うわ脅してきた。
せっかくいい流れだったのにこんな暴言を吐き散らかされたら水の泡だ。
自分から実刑をくらいに行こうとするなんて何を考えてるんだろう。
まぁいいや。
ファーレさんがその気でもわたしは絶対に生かそう。本人の意思なんてどうでもいい。
死んで欲しくないと、わたしは思ってる。その気持ちのままに動くだけだ。
「はぁ。まったくファーレさんったら……なんでそう頑固なんですか」
「なんで私がワガママ言ってる感じになってるのです? どう考えてもこのトンチキ娘がおかしいだろ」
「言葉崩れてますよ」
誰のせいで、と恨みがましい視線をわたしは受け流す。
普段丁寧な人がちょっと雑になるのっていいよね。こういうのギャップ萌えって言うのかな。
ともかくさっさと無罪放免にしてくれたらいいんだけど。わたしは裁判長へ視線を向ける。
「カリナ殿の弁明は理にかなっているが……ううむ……」
迷ってるっぽい。最初の確定死刑判決コースからは前身してたな。
あとは最後のダメ押しでなんとかなるかも。
使わなくてもいいなら置いておきたかったけど、出し惜しみはするものじゃない。わたしは切り札を口にする。
「じゃあ神様に直接お話してもらいましょう」
はぁ!? と響く大きな声はファーレさんと――あとは周りの人たち。要するにみんな。
「わたしはまだ、瘴気を浄化した報酬を神様から貰ってないんです」
「まさか、歴代の巫はその報酬として元の世界へ戻られたというが――それを」
「はい。わたしはまだこの世界でやりたいことがあったので。報酬を貰わずにとっておいたんです」
この北の大陸の神様、公平と契約を司ってるらしくて報酬を貰うには相応の対価がなきゃいけなかった。
ちなみにわたしの丈夫な身体はこの世界に招いた対価として。一方的に押し付けられたんだけど、神様なんだからそういうものだろう。
地球の神話しかり、どんな神様だって人間から見たら理不尽なものだ。
あっまた暴れだしたファーレさんがぐるぐる巻きにされて抑え込まれてる。やっぱりわたしが神様呼び出せるのが気に食わないんだろう。
こんなでもファーレさんは神様ガチ勢だ。北の大陸の神様関連の書物とか神殿とか、とても楽しそうに見てたなぁ。
大陸を沈めようとはするけど、ファーレさんの神様に対する信仰心は本物だ。信仰と目的が別々なだけ。神様を信じる人が善人ばかりじゃないのは大陸中を旅してきたからよく知ってる。
「では、神様~! おいでくださいな!」
わたしの軽い呼び声に反応して、辺りに光が満ちる。眩しさに目を閉じたのは一瞬。
光はだんだん収束して、子狐の形になった。
「神様、5年振りですね」
“お前……に呼ば……れる日を待って……い、た”
「ちょっと時間がかかってしまっけど、今がその時だったんです」
うーん、声にちょっとノイズがかかってるみたい。少しだけ聞き取り辛い。神様はあんまり地上に干渉出来ないからかな。
そもそも直接干渉出来たら、わざわざ異世界から人間を呼ばずに自分で瘴気を祓えばいい話だし。
「旅の報酬として、わたしは神様に答えて欲しいんです」
子狐の首がこくりと頷く。
うわっかわいい。逸れそうになる思考を修正してわたしは口を開く。こういうのは聞き方が肝心なんだから。
「ねぇ神様、ファーレさんがした事でこの大陸の瘴気は綺麗に祓われましたよね」
イエスかノー。単純な質問だ。
けれど、その答えはわたしの予想を軽々と超えるもので。
“是……ファーレと我、は契約……をした”
ん? 契約?
“瘴気を……全て、祓う……為にヨイヒと、出会う……前の時間に戻す……契約を”
え?
ぽろりとわたしの口からは「マジで? 」と勝手に声が漏れ出ていた。
うそ。本当に2周目をやってた――!?
「あ、神様! 帰らないで」
引き止める手も虚しくすり抜けて神様はスゥと虚空へ消えていく。神様が滞在できる時間切れだ。
これじゃあ詳細なんて聞けない。
いや、2周目っていう主張をゴリ押そうとしてたのはわたしだけど! あくまでもそうしたら筋が通るってだけで――
そうだ。筋は通ってしまうのだ。
思い出すとファーレさんの行動はほぼ全部が良い方向に転がって行った。
財布をスられた時も、わたしはあげちゃってもいいかと思ったんだけど。『絶対に追いかけましょう!』というファーレさんに従えばスリの犯人と瘴気で死にそうなその家族がいたり。
旅日和の晴天なのに突然宿へ引きこもったと思ったらその日のうちに瘴気が発生したり。
他にもちょっとした助言を聞いてなかったら危ない目にあっていたかも? なんて多々。
そんな経験をわたしは2周目の証拠としてこの場に持ってきたのだ。
「我らが神がそう告げたのならば、つまりファーレは……ファーレ殿は大罪人の汚名を被ろうともこの地の人々を思い行動していたというのか……」
「あ、はいそうです! その通りなのです!」
流れがきた。
とにかく乗るしかない! このビックウェーブに!
わたしはすかさず裁判長の呟きに対して被せ気味に肯定する。
と、いうわけで。モゴモゴと暴れ出すファーレさんは一旦置いておいて。
彼の無罪を無事に勝ち取ったのだった。
◆◆◆
カップに注がれた紅茶の香りって、なんでこう……じんわりとする気持ちになるんだろう。
ふかふかのソファに背を預け揺れる赤い水面を眺めながらほぅ、とわたしは一息。今日はとても疲れた。
釈放された後、ファーレさんを連れ込んだ場所はわたしの拠点のひとつ。王都の端にあるボロ家だ。
巫としての影響力が強すぎて、ひとつの場所に留まっていたらどうにも人目が気になるんだよね。だから旅が終わってからも放浪して、全国気ままにいくつかの拠点暮らしをしていた。
カップに注がれた紅茶の香りにぼうっとしていると、不機嫌丸出しの声が響く。
「貴女いったい何のつもりですか」
勝手にわたしの家の戸棚を漁ってお茶っ葉を見つけたファーレさんが煎れたお茶、美味しいなぁ。
「聞いているのか!」
「ただ、ファーレさんに生きていて欲しいと思ったんです」
最初からそう言ってるのに。
裁判所から出てすぐそう答えたのにファーレさんは心底理解出来ないという顔をしていた。そして困惑顔のファーレさんの手を引いて、このボロ家に連れ込んだのだ。
「私は裏切った。フリなんかじゃないと貴女だって知っているでしょう。散々痛めつけてやりましたから」
やっぱりそうだよね。わたしじゃなかったら死んでたレベルの毒盛りとか。
あと、ファーレさんが裏切った時の言葉の全文は酷いものだった。神官長さんが聞いたのは一部分だ。
『お前と過ごした時間は私にとって苦痛でしか無かった!』
なんて言われたら初恋なんて簡単にクラッシュする。
だからファーレさんが投獄されてから暫くは心の整理もつかず、弁護人として手を挙げたのだってギリギリになってからだった。
でも残り僅かな時間になって裏切り者でも、わたしが恋をしたファーレさんが嘘の姿でも構わないと思ってしまったのだ。
楽しい旅の時間がわたしにとって真実だった。
「あの日、最初の村でわたしを助けてくれたのはファーレさんです。みんなが知らないフリをする中で、名前を呼んでくれたのもファーレさんだけだった」
この世界で初めて降り立った村は辛い記憶が多かったけど、ファーレさんに出会った場所だと思えばちょっとはマシな思い出になる。
行商人の人とか、ファーレさん以外の旅の祓除士の人だって居たけど目を逸らされたし。まぁ仕方がない。
ちょっとした因習村みたいな雰囲気の村とは誰だって関わりたくないよね。
「右も左もわからないわたしに色々教えてくれたのだってファーレさんですよ?」
「それは……ほっといたら死ぬでしょう貴女」
変なところで面倒見が良いんだよなぁ。わたしを生かしたのが瘴気を集める目的の為だったとしても、必要以上に生きる知識を教えてくれていた。
「ファーレさんこそなんで死にたいんですか」
紅茶をぐびっと飲みきると、今度はわたしが質問する番だ。一方的にファーレさんばっか聞いてくるのは狡い。
「普通はなんで大陸を壊そうとしたか? を最初に聞くものでしょう」
捕まっても世界をぐちゃぐちゃにしようとした理由を黙って癖に、突然どうしたんだろう。理由なんて分かりきってるのに。
「え? 死にたかったから壊そうとしたんじゃないんですか?」
だからわたしは“死にたい理由”を聞いていた。
「意外と他人をちゃんと見てるんですね」
「失礼な」
ハッとしたようなファーレさんがボソリと呟く。じっとファーレさんの顔を見ていると渋々といった感じに重い口を開けた。
「私は白銀人でしょう」
「普通の人よりちょっと時間がゆっくり流れていて、瘴気の扱いが得意な人種ですよね」
こくり、とファーレさんは肯定する。
「ヨイヒさんの世界でも、人より外れた人は迫害の対象になりませんでしたか? 」
「……なったかも?」
わたしの周りでは幸いそういうのはなかったけど。でも、そういう人が尊敬されたり差別されていたのは知っている。
「私が生まれた時は今より苛烈で。酷いものでしたよ。家も壊されたり、食べ物や薬さえ売って貰えなかった」
うわぁ。
たった数十年前はそうだったと、わたしも聞いている。ファーレさんはその当事者だ。
「私たちの一族は神を強く信仰しています。どれだけ迫害されようと手を差し伸べてくれないっていうのに。
なら、たった一度でも見たいじゃないですか。誰かを救う神の姿を」
大陸を壊すほどの事態であれば、庇護する命を救う神の姿を見られるだろうとファーレさんは言う。
「その決死の想いを貴女は異世界から来たというだけであっさりと叶えて……」
「話を変えないでくださいよ。今のはファーレさんが大陸を壊す理由とわたしへの怒りであって死にたい理由じゃないです」
「さっさと納得しろ。執拗いですね」
「出来ません!」
ポットの紅茶をお互いのカップへドボドボと注ぐ。そしてどかりと勢い付けてファーレさんの隣に座り込んだ。
あからさまに嫌な顔をされたけど気にしない気にしない。
「わたしたち、4年も旅した仲じゃないですか。硬いこと言わずに教えてくださいよ~!」
死にたい理由がわからなかったら、どうしようもない。ちょっとでも生きてもらう為にわたしは知りたいのだ。
「あっ、神様と契約して2周目をやってるなら8年? 教えてくれたっていいじゃないですか」
このこの、とファーレさんを突き倒す。ファーレ視点で8年も一緒に居たなら何らかの情ぐらいあるだろう。
なんたって4年一緒に居たわたしが裏切られてもこうなってるんだから。
長い髪を揺らして俯いたファーレさんに構わず私は突き続ける。
「……いったい、私が――」
あ。大きな手に人差し指が握りこまれた。
おふざけをやりすぎたか。力を入れられるとポッキリ折れてしまいそうだ。すぐに治るんだけど痛いものは痛い。
ともかく折られる覚悟を決めようと息を吸い込むと――開眼したファーレさんと目が合った。
糸目系美形の真顔ってとんでもなく美麗で端麗で綺麗。
じゃなくて、普通に怖い。
「私がいったい何周したと。何度も何度もなんどもなんどもなんども――」
「何周も?」
両手でわたしの手を握りこんだと思ったら、また俯いてしまった。それに声も震えてるし。
ファーレさんは閉じた貝みたいに動かない。
困ったなぁ。でも、泣きそうな大の男を追い込むほどわたしは鬼じゃない。
空いてる方の手でわたしはファーレさんの頭を撫ぜた。
◆◆◆
「いい加減離してくれません? ちょっと鬱陶しくなってきました」
「自分から甘やかした癖に」
いい加減わたしもファーレさんとくっ付いてるのが疲れた。身動きが取れないのは嫌だ。
そもそも甘やかした覚えもない。
「アホ面ですね」
「またぶん殴られたいんですか」
ド失礼な発言。ファーレさんがわたしの顔をじっと眺めてから出てきた言葉だ。
暴力はいけないとわかってるけど、暴力を辞さない選択だって必要だ。やんのか? と構えたけど、そんなわたしに構わずファーレさんは続けた。
「1周目の貴女は呆気なく死にました」
1周目というと……わたしの知らないわたしの話? ファーレさんは神様と契約して本当に2周目をやってたんだよね。
「1周目の聖騎士サンは落石に巻き込まれて死にましたし、1周目の魔道士サンは3つ目の巡礼の祭壇で瘴気を浴びて死にました」
聖騎士はアルマくんで、魔道士はミランちゃん。なんやかんやで一緒に旅をするようになった仲間でわたしのこの世界で出来た友達。
とっても強い二人が死ぬなんて考えられないけどわたしは思い当たりがある。
ファーレさんが選ばなかった道に落石が落ちたりと。あとはミランちゃんに村の人々の避難誘導を頼んでわたしとファーレさんで瘴気を祓いに行った時は想像よりも強い瘴気が吹き出ていたのだ。
その時ミランちゃんに避難誘導を頼んだのはファーレさんだった。
「助けてくれたんですね」
「別に死んでも良かったんですけどね」
何を言ってるんだ。
よくあるツンデレとかじゃなくて心底そう思ってる顔でファーレさんはほざいた。
「世界から瘴気を完全に消し去る為には要所要所で必要になってくるので生かす必要があったんですよ」
「チャート構築してる人の言い方だぁ」
チャート構築? と首を捻っているファーレさん。
と、そこでわたしはファーレさんの言い方に引っ掛かりを覚えていたのを思い出した。
「実際は何回やってるんですか。瘴気を祓う旅を」
何度も、と言っていた。2周じゃきかないぐらい何度も周回をしていたのなら、旅の途中で迷いなく歩いていたのもわかる。
「さぁ。数えるのは辞めました」
両手で数えられなくなった時から数えるのを辞めた、とファーレさんは乾いた笑みを浮かべた。
「ファーレさんは何がしたかったんですか? 大陸を壊そうとしてまで。死にたいって言う癖に旅はしっかりこなしてるし」
最後の最後で裏切ったけども。
「何がって神と契約した通り、瘴気を完全に消し去ることです。瘴気だって大陸を壊すエネルギーに変換すれば貴女が祓わずとも消し飛びますから」
死ぬのはその目的の後だと言う。
「被害がデカすぎるんですよ。わたしが阻止して瘴気を祓って結果オーライにしても」
みんな死んじゃうじゃん。盛大な心中はやめて欲しい。
ファーレさんは肝心な事を何も教えてくれない。死にたい理由も、何がしたいのかも。もしくは神様と契約をして何を対価として貰ったのかも。
「じゃあわたしは1周目でどんな死に方をしました? 誰かを守ってドラマチックに死んだりしませんでした?」
このぐらいなら教えてくれるかな~と軽い気持ちで言ったら。
ピシリとファーレさんが固まった。また糸目が開ききっている。こわい。
そして微笑みを通り越して満開満点の笑顔になった。うわっ眩しい。
顔が整いすぎて作り笑いなんてどうでも良くなる。
「呆気なく死んだと言ったでしょう。あまりにも惨めでアホな死に方でした。誰かの為に爪先のひとつまで毟り取られて死にました。それが! そんなものが! 貴女のいうドラマチックな死に方ですか。旅を終えてさっさと元の世界に帰ればよかったのに余計なお節介をしやがって。裏切り者の助命嘆願などと愚かな……どうせなら私に殺されればよかったのに貴女は勝手に――」
「ストップストップ。情緒どうなってるんですか。
あとさらっと殺害予告みたいなのやめてくれません? 怖いんで」
ニコニコ笑顔なのに声は刺々しく、感情がごちゃまぜのジェットコースターだ。このままだと一生呪詛みたいに語りかねないので頬を摘んで止める。
羨ましい。1年近く投獄されていたと思えないほどきめ細やかな肌。
「ファーレさん、わたしの為にずっと頑張ってくれてたりします?」
「何をどう解釈したんですか」
「だって……少なくとも1周目のわたしたちは旅を終えたんですよね。その時点でわたしは生きていた」
ファーレさんはわたしの死に対して激情を持っていた。少しだけ嬉しい。
やっぱり裏切った相手だとしても4年も一緒にいて、無感情って嫌だよね。
「1周目のわたしは旅を終えたけど、元の世界には帰らずに死んだ。それからファーレさんが神様と契約をしてわたしと出会う前に戻ったんだとしたら
――わたしを生かす以外の理由ってあります?」
黙り込んだファーレさんは額に手を当てて俯いた。どうやら感情が揺さぶられると殻に籠る癖があるみたいだ。
今なら綺麗な銀髪を編み込みヘアにしても許されるかな。ちょうど動かないし。
俯いてるのをいいことに銀糸の紙に手を伸ばすと振り払われた。
「……ただ、許せなかったんです。貴女が衆愚に好き勝手に扱われるのが。
私の願いを叩き潰した人間の最期があんなものであっていいはずがない」
ぽつぽつとファーレさんから零れる言葉は、ずしりと重い響きを持っていた。
「わたし、過労死でもしました?」
呆気ない最期といえばパッと思いつくのはこれぐらい。わたし自身、助けてくれと乞う人が居たら手を貸しちゃうだろうなぁって自覚がある。
元の世界でも過労死は深刻な問題だったし。労働基準法の無い異世界なら十分有り得る話だ。
丈夫さには自信が言ったんだけどなぁ、とボヤくとファーレさんは拳を強く握りしめていた。
「旅で祓いきれなかった瘴気の浄化を次々と頼まれてこなして、挙句の果てには浄化の魔道具作りに貴女の血肉を採り続けたら流石に死にましたよ」
加護による回復を上回るほどに採られていたと。
ちょっと待って。過労死って働きすぎで起こるものだと思ってたんだけど――
「血肉!?」
「神の加護が肉体に宿る以上、ヨイヒさんの身体は極上の素材ですからね」
めちゃくちゃ物理的な死因だったのかも。
そういえば旅の途中、怪我をしたらすぐにファーレさんが回復魔法をかけてくれた。過保護だと思ったけど1周目のせいかな?
「自分から血肉を提供までしていたんだ。1周目のヨイヒさんはそれはもう愚かで憐れなものでした」
今も愚かですけどね、と余計な一言。うるさいな。
本性を表してからのファーレさんは純粋に口も性格も悪い。ニコニコ好青年を返して欲しい。
……やっぱり本性を見た後だと好青年モードは気持ち悪いかも。
「確かにあなたから見ると憐れだったんでしょうけど1周目のわたしだってファーレさんが生きていてよかったと思ってますよ。
それに最期までファーレさんが気にしてくれたなら幸せ者じゃないですか」
さっきハイテンションになっていたファーレさんが言ったように、1周目のわたしは旅を終えた報酬にファーレさんの助命嘆願でもしたんだろう。
その後は誰かの役に立てばいいなぁって感じで血肉の提供をしたんだと思う。血肉って言い方がグロいだけで要は献血みたいなものじゃないかな。
「……だから私は死にたくなるんですよ」
えっ? いきなり何。
こう……センシティブな宣言をされると戸惑うじゃん。不審者へ向けるような視線をしてしまった。
「私自身の願望も経たれ、よりにも私の願いを叩き潰した相手に生かされてまで――生きていたいと思えない」
自己中だな、この人。
「ヨイヒさんがそうだからきっとまた繰り返す。なんたって大罪人を救う程のお人好しなんですから。
私はまた、消耗する貴女を見せられるでしょう。やっと周回を終えたのにもう一度は――耐えられない」
絞り出すような声だった。
「目を逸らせないぐらい散々うざったい姿を見せつけてきた癖に。
もう何も見たくない。私が死んだ後でさっさとどうにでもなれよ……!」
どこまでも悲痛な声だった。
死にたい理由は目を閉ざしたいから。
自分の願いを潰した相手が呆気なく死ぬのを見るのが嫌だったと。
自己中心的すぎる。
なのに、わたしの頬は緩むのが止められない。締りのないニヤケ面を晒している自覚がある。
じわじわと胸に歓喜が広がり続けていく。
自分だけがファーレさんに対して引っ掻き回されているのだと思っていた。
初恋の人で、初恋を粉々に砕いた裏切り者。けれども大切な人。一人相撲が悔しくてどうしようもなくて裁判の時まで動けなかったのに。
こんなにもファーレさんがわたしを想ってくれているのなら早く動けばよかった。
それに。
「案外ファーレさんって寂しがり屋さんなんですね。自分が死ぬ所を知っていて欲しいなんて」
「何を……言ってるんですか」
「死にたいならさっさと捕まる前に、誰にもわからない場所で自分の首を切るなり崖から飛び降りるなりしたら良かったのに」
たぶんめちゃくちゃ痛いけど死ねると思う。例えばわたしのご飯に混入した毒でも飲んだらイチコロだ。
でも、わざわざ裁判で極刑を受けに行く方法を選んだのはファーレさんだった。
「寂しくないように今度は一緒にいてあげます。死にたくなったら実力行使で止めます」
「このお人好しが……私がヨイヒさんからの好意に気が付いて居なかったとでも? 一時の勘違いに惑わされた挙句帰り道まで無くして」
「わたしも初恋に浮かれてただけだと思ってたんですけどね。案外そうでもなかったみたいです」
自分でもびっくり。普通にファーレさんが好きだったみたい。
元の世界への帰り道はまぁ、神様の作った道じゃない他の方法を探せばいいし。
「な、な、なにをアホなことを」
みるみるうちに色白の顔が赤くなっていく。
ああ、この顔が凄く可愛らしいと思う。もう末期だ。ファーレさんの言うアホだ。
「ねぇ、わたしはあなたが思ってるよりお人好しじゃないです。ファーレさんだから生きていて欲しいと思ったんですよ」
きっと、1周目のわたしも。
「また、一緒に旅をしましょう。一緒に行きましょうよ」
あんなに好青年が一周回って胡散臭い綺麗な顔が溢れる涙でぐちゃぐちゃだ。いつもこんな顔をしていたら誠実そうに見えるのに。
でも、そのお綺麗な顔と性格のどうしようも無さを含めてのファーレさんだ。
「ヨイヒ、さん――今度は死なないでください」
消え入りそうな声を覆い隠してあげる為にわたしは抱きついた。
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