"完全完美"
「魔法の本は、どうやって作られてると思う?」
君は魔法の本をめくる指を止めて、木椅子に座りながら僕を視た
書斎の窓から差し込む陽射しは、既に夕陽に染まり始めて居る
それは詩的で穏やかな輝きであり、夜をもたらす血染めのヴェールでもある
僕は「知らないけど……」と前置きした上で、続けた
「でも、いま持ってるそれが魔法の本なんじゃないの?」
僕が問い掛けると、君は、ふふ、と笑った後で否定した
「これは魔女の記した魔法について記された本だが、まだ『魔法の本』じゃない」
「この本を使ってあらゆる罪悪が為され終えたあと、本は本質的な意味で『魔法の本』となり、機能し始めるんだ」
端的な説明だった
僕が「あらゆる罪悪って?」と尋ねると、君は恍惚と両の眼を閉じて、「あらゆる罪だよ」と答えた
「それはこの本を使って人を傷付ける事であり、神の名を穢す事であり、姦淫を行う事でもある、他にも詐称や窃盗、或いは人の家の窓を割る事なんかも含まれるんだ」
僕は立ったまま腕を組み、解った様な解らない様な気持ちでそれを聞いていたが、不意に腑に落ちないものを感じ「姦淫って?」と尋ねた
君は気まずそうに視線を逸らしながら、「それは別に本題じゃない」と答える
「それよりも問題が有るんだ」
話を逸らす為か、君は両手のジェスチャーまで交えて僕に力説した
「この本は、『何故かまだ完成して居ない』」
「『何らかの罪が不足して居る』んだ」
嫌な予感がした
先日も君は『偉大な力の探求』と言って僕を縛り首にしようとしたし、今回だって油断がならない
しかし警戒するより早く、君は本の角で素早く僕のこめかみを殴り付けて居た
躰が大きく後ろに揺れ、次に自分の頭から飛び散る鮮血、音がそれに続き、最後に遅れて痛みが襲い掛かって来た
無意識に、殴られた場所を押さえる為に自分の手が動くのが解る
その手が届くよりも早く、次の一撃が僕を完全に後ろに倒れ込ませた
倒れた所に君が覆い被さり、硬い背表紙を上から押し付けて喉を壊しそうな程に潰してくる
実際には一分もしなかったのだろうが、永遠にも思える位の時間、僕は四肢を暴れさせて抵抗した
とはいえ君は凶器を手にしている分、僕から距離がある
抵抗が苦し紛れ過ぎる事もあり、有効な反撃を与える事は一つも出来なかった
そして、僕の瞳は突然に真上を向いてしまった
意識が消失するまでの、刹那ほどの時間
君の声が聞こえた
「何故だ?魔法が発現して居る………」
「つまり最後の鍵は『友情を踏みにじること』であり、殺害では無かったのか」
「………まあいい」
「安心し給え、君」
「すぐに屍術で、君の生命を呼び起こしてあげよう」
躰に別の者の魂が入り込んでいく感覚が在る
死の瞬間、屍術が成功した事だけはなんとなく解った
僕の魂が肉躰から切り離され、遠くて昏い穴に沈んでいくのが解る……




