第3話
あーだめだ。怖すぎる。
俺は今危機に面している。
ピットに向かって後ろに一回転半して背落ちだと?
は?馬鹿じゃねえの。そんなのできたらもうとっくの昔にダブルできてるわ。
「おーい早くやれよ!」
ニコニコと見守る聡志を睨む。
ふざけんな。
新しい技をする時、それが今までの積み重ねの延長線上にあろうと、そうでなかろうと恐怖は一緒。
一回半は一回の延長線上だから大丈夫。そう言う奴がいたら俺はぶん殴ってやりたい。
一緒のわけあるか。側転できる奴が全員ロンダートできると思うか?俺はできなかった。倒立ブリッチできる奴が全員転回できると思うか?俺はできなかった。
この例えなんか違くないと思うかもしれないがこの違和感くらい一回の延長上に一回半があるということに違和感がある。
俺はイメトレという時間稼ぎをする。
脳内でうまい人のダブルを再生。
指先、足先まで正確に。
一回の場合は空中で半分降りながら半分回る。2回の場合は、空中で一回半降りながら半分回る。
だから下降前には背落ち姿勢をーー。
「早く行けよー!」
チッ。あのクソが。邪魔すんな。
俺はその勢いのまま、飛んだ。
手の引き上げと共に、真上に。
途中で肩を倒して後ろに流す。これで真下に着地はまのがれる。
高さのピーク直前で、足を持ってくる。
上半身を起こして加速。
気づけば俺の視線は天井を指していた。
「できた……。」
考えてやったつもりだが体がどう動いたかわからない。
視線を自分の胸にやると胸がドクドクと動いているのがわかる。
ケラケラ笑う声が聞こえる。
「なんだよゆーじゃん!お前やっぱビビりよな!」
ビビリで何が悪い。死にたくないって思いが人より強いだけだ。
技を想像する時、snsで流れてくる失敗動画も頭に浮かんでしまう。
そうするとどうしても足がすくむのだ。
そんな状態でやったら失敗する。
……しかし成功した。
一度成功したらこっちのものだ。
その後俺は慣れるまで背落ちし続けた。
初めての動きはしゃべれる隠キャと同じ。
初見ではそれなりに会話できるのに、次の日になったら全然喋れない。
技の初日できて恐怖が軽減したとしても、翌日には恐怖が復活している。
だから恐怖が復活しても動けるようにそれを上回る成功経験を積む。
その日は背落ちをしまくって、首が痛くなってきた頃練習を終えた。
翌日は案の定首が若干の筋肉痛。
朝食を取りながら時計を見る。
まだ午前9時。
今日は普通に聡志の父の練習教室が開講している日。
だから今日の練習は午後からだ。
俺は空いた午前を勉強に使った。
普通に学校の勉強と体操の勉強。
動画でプロの技を見る。
理解不能。
同じ人間か?って思う。
人間の形した宇宙人じゃねえの?これ。
昼食後俺は聡志の家に向かった。