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第8話 警察署到着 / キレまくるナイ

 1分も経たないうちに、パトカーは停車した。

 着いたのは駐車場。そのすぐ傍には、大きな建物があった。


「ここが留置所……つまり、警察署、だよね」

「めちゃくちゃデカいな! しかもカッコいい!」


 ウラの言うことも分かる。思わず目を見張ってしまうのは、真っ白な美しい石レンガ。日本ではあまり見られない、海外らしさに溢れている建造物だ。

 その駐車場の中央で、七瀬のキャラは俺とウラのキャラの死体を綺麗に並べた。


「……公開処刑みたいな?」

「医者を呼んでてな。治療しやすいようにしたまでだ」


 確かに先ほど、運転中に誰かと電話していた。どうやらこのゲームの中ではスマホが使えるらしい。

 ……だけど。


「治療って七瀬がやればいいんじゃない?」


 最初に出会ったときのように、俺たちのキャラを蘇生することができるはずだ。


「そうしてもいいんだが……これもせっかくの機会だ。救急隊のシステムについて軽く説明しておく」


 俺が事故ったという出来事を利用して説明をする。手際がいいと言わざるを得ない。

 ……おそらく、先ほど言っていた有能リスナーのおかげなんだろうけど。


「死んでしまったら近くの人に救急隊を呼んでもらう。それ以外に助けてもらう手段は存在しない」

「……ってことは、一人ぼっちで死んじゃったら?」

「助けてもらえることはないな」

「マジ? 結構ヤバくない?」

「ああ。だから、あんまり一人になろうとするなってことだ。陰キャのナイ」

「陰キャじゃねえから。次言ったら殺す」

「警察に殺害予告をするな」


 初対面の人しかいないけど……まあ俺は陰キャじゃないし。何とかなるでしょ。

 たぶん。

 だって俺は大学生のころ(以下略)。


「で、救急隊に関してだが」


 七瀬が説明を始めようとしたところで。


「お、おったおった。金づる……じゃなくて、怪我人やったかなあ」


 聞き覚えのある関西弁と共に、見覚えのあるスーツ姿のキャラが近づいてきた。


「アセラさん、か」

「久しぶりやね、七瀬君。金を回収……とちゃうくて、治療しに来たよ」

「おかしいな。別の人に電話をしたはずだが」

「その人は急用で来れんくなってなあ。代わりに私が来た、っていうことやね」


 話を聞いた感じ、アセラさんは俺たちのキャラを治療しようとしている。……あんなに人を轢きまくっていたくせに救急隊をやっているのか。全く信じられない話だ。


「で、そこの二人を治せばええんやなあ?」

「おい、アセラ!」


 ここで怒ったかのように声を張り上げたのはウラだった。


「ん、ウラ君やないか。どないしたん?」

「どないしたん、じゃないんだよ! よくもぼったくってくれたなあ!」


 そんなことをさっき言っていた気がする。ピストルを高値で売られたとかなんとか。

 ここでアセラさんは、柔らかいトーンで穏やかに反応した。


「でもなあ、良い経験になったとは思わへん?」

「良い経験だと!? そんなわけがない!」

「ホンマにそう? 私に騙されたおかげで警戒するようになったやろ? もう他のやつには騙されへんのちゃうかなあ?」

「た、確かに……そう意味では良い経験だ! ありがとな、アセラ!」


 こいつ、バカだ。うるさいだけじゃなくて、ちゃんとバカだ。


「で、あんたはウラ君の仲間ってことでええんかな」

「同類にはされたくないですね……俺はハジメ・ナイ。さっきあなたに轢かれた者です」

「申し訳ないけど、いちいち轢いたやつなんて覚えてへんのよね」

「……へえ」


 俺のことは一ミリたりとも頭の中に残っていなかったみたいだ。……雑な扱い。イライラが増してくる。


「蘇生させてもらうよ。ええやんね、七瀬君」

「ああ。……さて、説明に戻るぞ、お前ら」


 アセラさんのキャラが俺とウラのキャラを治療している間、七瀬は救急隊について教えてくれるみたいだ。


「救急隊に蘇生してもらった場合、治療費を請求される。一蘇生で10万円だ」

「……金を取られるの?」

「ああ」


 マジか……と驚きそうになったけど、仕事だしお金を取るのは当然か。


「ただ、アセラさんは少し違くてな」


 違う? 何が違うんだ? そう聞こうとしたところで、治療が終わったみたいだ。


「ほな、請求させてもらうよ」


 アセラさんがそう言うと、チャリンとお金っぽい音が鳴った。

 それと同時に、画面右上に赤い文字で。

 -500,000と表示された。

 マイナス50万だ。

 ……50万、持っていかれたのだ。

 持っていかれた……。


「いやいやいやいや」


 黙っているわけにもいかず、アセラさんに抗議する。


「え、10万じゃないんですか?」

「それは救急隊やろ? 私は闇医者やから。自由にやらせてもらうで」

「やみ、いしゃ? なにそれおいしいの?」

「英語のヤミーと掛けたんかな? そんなことをすぐに思いつけるなんて、ナイ君ってすごいんやね」


 恐らく、そんなつまらないことを一瞬で思いつき、さらには人前で言えるなんてすごい、という嫌味だろう。京都弁っぽく話すこともできるらしい。

 ……そう思うと、なんか恥ずかしくなってきた。コメ欄でも『つまんな』『もう喋んな』とか言われまくってるし。


「ボ、ボクは面白いと思うぞ!」

「そんなわけないでしょ。黙ってくれる?」

「ええ……酷い……」


 確かに酷かったかもしれないが、ウラが適当なことを言ったのが悪い。俺は悪くない。


「オレが説明しよう。闇医者は救急隊と違って、自分の好きなように治療費を請求できる」

「え、じゃあ一億とか請求すれば」

「ちゃんと制限はある。最大で百万だ」

「その半分にしてるんやから、感謝されてもええと思うんやけどなあ」


 感謝するわけがないでしょ、と言いたいところだが、気になることが一つ。


「じゃあ闇医者って誰が呼ぶんだ? 少なくともボクは絶対に呼ばないぞ?」


 ウラも俺と同じ疑問を持っていた。普通の救急隊を呼べば安く済む。なのに高価な闇医者を呼ぶ者がいるのか。


「強盗中のギャングだ。救急隊は公務員だから警察の味方なんだよ。だから強盗中のギャングを助けることはない。もしやってしまったらクビになるんだ」

「そこで闇医者の出番というわけやね。警察に撃ち殺されたやつを蘇生させて前線に復帰させる。そんな危険な仕事をするんやから、高額請求も認められて然るべきってこと」


 犯罪者用の救急隊、ということか。


「RPGゲームのヒーラーみたいなもんか! ……でも警察側にも救急隊がいるし、どっちも蘇生し合って長期戦になっちゃわないか?」

「そもそもただの公務員である救急隊は強盗に参加できない。その代わりに、一つの強盗に対して参加できる警察の人数が多かったりするんだが……これ以上はまた今度だ。それかオレ以外に聞け」


 七瀬は闇医者の話を切り上げた。どうやら他にも闇医者については言えることがあるらしい。


「留置所に向かうぞ」


 その指示に従い移動を始めようとしたが。


「留置所、ってことは二人のうちどっちかは犯罪者ってこと? ギャングを結成したりするん?」


 アセラさんに呼び止められた。


「あ、俺がマフィアのボスをやることになってます」

「ふーん……なら私の手が必要になる時がありそうやねえ」

「それはそうですけど」 


 アセラさんが闇医者である以上、いつか助けてもらうことになるかもしれない。


「なら、連絡先、交換してあげてもええよ」


 連絡先、と聞いて思い出すのは七瀬のキャラがスマホを使っていたことだ。 


「あー、まだ教えてなかったな」


 すまんすまんと軽く謝ると、七瀬はスマホの操作方法を教えてくれた。


「Mキーでスマホを開くことができて、そこから――」


 七瀬によると、どうやら近くの人とは連絡先を簡単に交換することができるらしい。片方が友達申請をして、もう片方がそれを承諾すれば完了とのこと。


「私が申請するから、承諾してなあ」


 アセラさんがそう言った直後、俺のキャラのスマホに通知が来る。承諾はAキー。拒否はDキーだ。


「……」


 承諾するだけならデメリットはないし、状況によっては闇医者であるアセラさんを呼びたくなる可能性だってある。……だけど。

 先ほどの雑に扱われたイライラはまだ残ってるし、このまま言いなりになるのはなんか癪だ。


「ヤダ」 


 俺はDキーを押した。


「……は? な、なんでや?」


 突然の拒絶にアセラさんは若干声を裏返らせていた。


「俺のこと、さっき轢きましたよね? それで俺のリアクションがうんこみたいだって」

「そんな小学生レベルの下ネタ言ってへんわ!」

「アセラさん、それは汚いって」

「汚いな、アセラ!」

「レディに汚いって言わんとってくれるかなあ! ……まあ拒絶するなら構わへんよ。他のマフィアと仲良くなるだけやから」


 本人はそのつもりらしい。……けど。


「できるんですか? 俺みたいに轢かれたことを根に持ってる人、いっぱいいると思いますよ?」

「そ、それは……大丈夫のはずやね! うん、きっと大丈夫!」


 どうやら自信はあまりないみたいだ。不安を隠すためか、明らかに声が大きくなっている。


「はあ、それは楽しみですね」

「せやせや、楽しみにしといてな! あんまなめてんちゃうよ! ほな、もう私は行くから!」


 そう言って、アセラさんのキャラは走り去っていった。


「……自業自得だよね、マジで」


 闇医者ではあるけど、わざわざアセラさんと連絡を取り合おうとするギャングはいないだろう。いつか孤立した姿を見つけるのが楽しみだ。


「ナイはキレたら本当におっかないよな……そうだ、オレたちは連絡先を交換しておこう」


 七瀬は警察ではあるけれど、同時に犯罪者のサポート役でもある。連絡を取れるようにしても得しかない。


「ボクも交換したいぞ!」


 ウラはうるさいけど……悪い人ではなさそうだし、問題ないか。

 先ほど七瀬に教えてもらった方法で二人と連絡先を交換する。


「よし……それと、連絡先から送金することができるんだ。実際にやってみせよう」


 チャリンと、さっき聞いた音が鳴った。画面右上に、緑色の文字で+500,000と表示されている。

 プラス50万だ。


「さっきの治療費分だ。感謝しろよ」

「おお! ありがとな、七瀬!」

「……ありがと」


 あの50万の痛い出費がなくなったのはかなり嬉しいこと。流石に感謝だ。


「ふっ……じゃあ行くぞ」


 ようやく留置所に向かう俺たち。まずは警察署の入り口を通る。

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