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第7話 初カーチェイス / 初強盗、リザルト

「出発っ」


 前に歩くときと同じようにWキーを押し込んでみる。すると、車は徐々に加速して、かなりのハイスピードで進み始めた。七瀬の乗ったパトカーがどんどん小さくなっていく。

 荒野の中。タイヤと地面の摩擦や風を切ることで生じる音が、気持ちよく、そして心地良く感じられる。


 ……が、それよりも。

 この状況に対する興奮が圧倒的に強い。胸が高鳴っている。


「ナイ、七瀬も運転を始めたぞ!」


 パトカーのサイレンが聞こえてくる。この甲高い音が、さらに俺の心臓を刺激する。


「……オッケー」


 どうやらパトカーは俺が運転している車より速いらしい。どんどん距離が詰められていく。

 ピンチだ。

 だけど。

 そんな状況を、全身がヒリヒリする状況を、俺は求めている。

 頬を流れる汗や速くなった脈すらも愛おしい。

 ……だが、押し寄せてくる高揚感によって冷静さを失うわけにもいかない。


 あの日のことを思い出す。……俺は、常に冷静でいなければならない。


「落ち着け、俺……」


 気持ちを静めていると、曲がり角に差し掛かった。現実世界でドライブ経験のない俺でも減速しないといけないことくらいは分かる。


「ブレーキしないと」


 流石は俺だ。七瀬の猛追に対しても慌てることなく対処できている――


「――ブレーキって、どうやってやるの?」


 興奮によってかいた熱い汗が、一瞬で冷たくなっていくのを感じた。

 マジでまずい。

 全く分からない。


「ウラ、知ってる?」

「ブレーキ? そんなの知ってたらボクが事故ってるわけないぜ!」

「ちっ、使えねえ」


 怖いよお、と小さな声が聞こえた気がしなくもないが、そんなことはどうでもいい。

 Wキーから指を離してみるが、めちゃくちゃゆっくり減速し始めただけ。もっとスピードを落とさないと曲がり切れない。


「くっそ……」


 車道から外れるだけならこの荒野を突っ切ればいい……のだけれど。

 さらにまずいことに、この辺りには木造の小屋がたくさん並んでいる。このままでは数秒後、その小屋の一つに突っ込んでしまうのは確実だ。


「考えろ……」


 考えるんだ、俺。これまでにヒントがあったかもしれない。


「そ、そうだ。コメント欄……」


 『あ』『終わりですw』『バカで草』。……こいつらは絶対に許さん。


「くっ……いや」


 希望が失われたと思ったが、まだ一つ、試していないことがあった。


「Fキーがあるけど……」


 移動に使うキー以外で一番使ったキーだ。……こいつに賭けるしかない。


「待て、ナイ! Fキーだけは絶対ダメだ!」

「うるさい。信じるしかないでしょ」


 あと2,3秒ほどで大事故になってしまう。もう他に手はない。


「頼む……っ」


 奇跡を願いながらFキーを押してみた、次の瞬間。

 俺のキャラクターは、ドアを開けて運転席から飛び出しやがった。


「は?」


 かなりのスピードが出ていた車から飛び降りたのだ。無事で済むわけがない。俺のキャラは地面を転がりまくった後、血だらけの状態で地面に横たわった。

 つまり、死んだ。


「……」 


 直後、ウラの絶叫と、とてつもなく大きな衝撃音が聞こえた。車が小屋に激突したので間違いないだろう。


「はあ……」


 メインモニターには俺のキャラの死体が映っている。サブモニターのコメント欄は、やらかした俺に対するリスナーからの罵詈雑言で溢れているだろう。

 

 ……どっちも見るに堪えない。俺は天井を見上げた。


「まあ、初心者だから、うん……初心者にしては頑張ったほうでしょ……」


 そう自分に言い聞かせていると、サイレンの音が聞こえてきた。


「盛大に事故ったな、ナイ」

「七瀬……」


 メインモニターに視線を戻すと、七瀬のキャラが近くまで来ているのが分かった。サイレンを切って車から降りてくる。


「もしかしてブレーキの方法が分からなかったのか?」

「そうだけど、なんで分かんの? キモイなあ」

「勘だ。……オレも初心者の時は同じことをやった。ちなみにSキーでできるぞ。バックも一緒だ」


 Sキー……前進のために使うWキーの真下にあるキー。言われてみれば確かに、ブレーキできそうな感じはする。

 と、自分の手元にあるキーボードを見つめながら考えていると。


「ところで」


 七瀬が俺に一つ質問をしてきた。


「どうだ、初のカーチェイスは。面白かったか」

「……」


 最初の方はこのゲームをなめていた。『あのゲーム』の大会で得られたような緊張感は、一切ないのだろうと、そう思っていた。

 だけど……実際は違うみたいだ。

 俺に面白いという感情は存在しないけど、肯定的に答えるべき。そう思った。


「……少しは、ね」

「ふっ……それならよかった」


 そう言うと、七瀬のキャラは俺のキャラを担いで、パトカーの後部座席に乗せた。


「さ、留置所に行くぞ」


 続いてウラのキャラも同じようにパトカーに担ぎ込まれ、俺のキャラの隣に座らせられていた。


「やめろ! どこに連れて行く気だ!? ホテルか!?」

「女性のお前にそれを言われたら気まずくなるからやめろ」


 そう言いながら七瀬が運転を開始する。……自分でやってみた後だから分かるけど、こいつ、かなり運転が上手い。カーブでの減速や他の車を追い抜く時など、一つ一つの動作に無駄がない。


「オレはあまり運転とかカーチェイスは得意じゃないんだよな」

「これで?」


 嫌味にしか聞こえないんだけど。……こういう時、相手の顔が見られたらいいのにと思う。声だけじゃ嫌味なのか本心からの言葉なのか、全く分からない。


「で、留置所では何をするの?」

「処罰……具体的には罰金だな」

「ば、罰金だと!? 一文無しのボクから搾り取ろうとしているのか!?」

「それはアセラさんに騙されたお前が悪いと思うが……そこら辺の詳しいことは、留置所に到着してから話そうか」


 パトカーは高層ビルが並ぶ都市の方へと戻っていく。

 ……その間、俺は先ほど得た緊張感を噛みしめていた。

 ただの馴れ合いじゃなかった。俺の求めているものが、ここにあったのだ。

 ……決めた。

 三日間、このゲームを真面目にやりこんでみよう。

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