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第6話 練習(本番)

「……警察は来てなさそう?」

「警官は無限にいるわけじゃないからな。別件で忙しかったら来ないさ」


 強盗をやっているのは俺たちだけじゃないだろうし、当然のことか。


「このまま逃げればいいんだよね?」

「ああ、そうだが……せっかくだから、警察が近くまで来ていた場合を想定してみようか」


 そう言うと、七瀬のキャラはライフル銃のようなものを取り出しながら車道に出た。そこにNPCが運転していると思われる車が通りがかる。


「ほら、降りろ」


 七瀬は運転席に銃口を向けた。すると、運転手のNPCが車から両手を挙げながら降りてきた。


「こんな感じで銃を向けることで車を強奪することができる。今はレジから金を取った後にやったが、素早く撤収するためにも警察に通報が入る前にやった方がいい。最初に準備しておくのがベストだな」

「分かった……で、なんで突然そんなことをしたの?」


 このまま七瀬のパトカーに乗ってこの場から去るものだと思っていたのだけれど。


「ナイとウラはこの車に乗ってオレから逃げてもらう。逃走の練習だ」

「……そういうことね」


 これ以降一人で強盗することを考えたら、今のうちに練習しといた方がいいか。


「分かったぞ! でもボクは運転しないぜ! 必ず事故って誰かを轢いてしまうからな!」

「……」


 そんな堂々と言わないでほしいし、さっさと免許を返納してくれ。……って、ゲームだから免許とかは無いのかな。


「そういうことなら俺がやってみるよ。まだ運転したことがないし」


 自分のキャラを移動させて、七瀬が奪った車の運転席に乗り込ませる。ウラのキャラは助手席へ。


「ちなみに運転は普通に歩くときと操作は同じだ」

「オッケー。……七瀬から逃げるって、具体的にはどういう感じ?」

「そうだな……よし、決めた」


 その後に続けられた七瀬の言葉は、驚くべきものだった。


「オレはパトカーで体当たりして、ナイの車を事故らせる。ナイは頑張って逃げる。オレが勝ったら留置所に連れていく。そこで処罰を受けてもらう」

「……は?」


 カーチェイスを行うということは理解したし、納得している。だけど。

 負けたら留置所で処罰って。


「それじゃ練習じゃないじゃん」

「それじゃ本番ということにしよう」

「いや、意味が分からない。マジで嫌だ」

「いや、そうさせてもらう。たった今勝手に決めさせてもらった。オレは相手のことを考えるのが苦手だからな」


 自分の欠点を利用するのはやめてほしいところだけど……それよりも気になることが一つ。


「そんなことする権利、七瀬にあるの?」


 留置所に連れていくとか、処罰するとか。そういうのって、警察しかできないことじゃないだろうか。俺がそう思っていると。


「それに関しては問題ない。だってオレの本業は――」


 何の不思議もないことのように、七瀬は言い放った。


「――警察だからだ」

「……いやいやいやいや」


 相手に見られることはないが、俺は首を何度も横に振っていた。


「会ったときは救急隊だったし、今まで犯罪のサポートをしてくれてたじゃん。それで警察なんて、あり得ないでしょ」

「あり得ないことはないだろ。ゲームだし」

「それはそうだけどさ……」


 ただ、納得できる部分はある。七瀬の車がパトカーだったこと。そのパトカーを使うことを当然と思っていそうな態度だったこと。この二つが奇妙に思えてたけど、七瀬が警察であることで説明がつく。


「……結局、どれがメインなの?」

「警察だな。……というか、言ってなかったか?」

「ぜっっっったいに言ってないね。ふざけないでくれるかな?」

「まあそう怒るな。とにかく、実戦形式でやってみよう。ウラはどうだ?」

「ボクはいいぜ! 捕まったら運転するナイの責任になるだけだしな!」

「お前マジで……はあ、最悪」


 怒りを通り越して呆れてしまった。

 この時点で七瀬の提案に賛成が二票。多数決で考えるならば、もうどうしようもなくなってしまった状況だ。ここでごねても仕方がなさそう。


「分かった。それでいいよ」

「よし、じゃあいつ逃げてもいいぞ。ハンデとして5秒遅れてオレは出発する。……だが」


 その後に続いた七瀬の言葉は、思いがけないものだった。


「手加減はしない。本気で追いかけさせてもらう」

「……え? 本気でやるの?」

「当たり前だ」


 そう言うと、七瀬のキャラはパトカーのある方へと歩き始めた。……てっきり仲良しこよしの馴れ合いばかりだと思っていたんだけど、どうやら違うみたいだ。


「……うーん」


 にしても、全く自信が持てないね……。待てよ、有能リスナーがコメ欄で運転に関する有益な情報を落としているかも。

 そう思って確認してみる。……『失敗しろ』『無謀すぎw』『どう考えても負け確で草』。こいつらは何の役にも立たないみたいだ。

 で、隣にいるやつは。


「ナイ、頑張れよ!」

「……」


 俺に丸投げである。


「ナイ? 聞いてるか?」

「集中するから静かにして」

「あ、はい……」


 ごちゃごちゃ言われてイライラするのも嫌だったので、とりあえず黙らせておいた。実際、集中したいのは本当だし。


 ――さて。


 一度、ゆっくりと息を吸い込む。……自分が今感じているものを整理しよう。


 捕まったら留置所に連れていかれて、処罰を受ける。強盗をしたのだ。処罰はかなり重くなるだろう。そのことを考慮に入れれば、捕まるべきではないのは明らか。

 そして、ハンデはあるものの、七瀬は本気を出すと言った。


 ……この二つの要素が、強い緊張感を生み出す。


 これが、これこそが、俺がゲームに求めているものだ。


 ならば。


「……ふー」


 肺の中に溜めた空気を吐き出す。……こちらも真剣にやらせてもらおう。絶対に逃げ切るという意思を強く持つ。


 ……『あのジャンルのゲーム』の大会に何度も出ている身だ。精神統一は苦手じゃない。


「……よし」


 完全に思考がクリアになった。


 始めよう。

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