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第4話 強盗前準備

「とにかく乗ってくれ。時間はあまりないんだ」

「はあ……分かったよ……」


 俺はキャラクターを操作して車に近づけさせた。ちょうどそのタイミングで、七瀬はかなりの早口で、


「さてと、早速強盗の仕組みについて話そうか。マフィアサイドの勝利条件は3つある。一つ目は奪った金を拠点の中に持ち帰ること。二つ目は警察の追跡から完全に逃れること。三つ目は駆けつけてきた警察全員をダウンさせることだ」


 と言った。……あまりにも突然すぎるし、発言の内容は理解できなかったし。全てめちゃくちゃだ。コメ欄も『?』で埋まっている。


「……ごめん、なにも分かんない」

「む、強盗の勝利条件について聞きたかったんじゃないのか? オレの勘はそう言ってたんだが」

「違うね。キモいことしようとしないで」


 このゲームを始めて早くも二度目の困惑。声のクールさとは反して、七瀬は結構ヤバいやつなのかもしれない。


「キモい……いや、オレが悪かった。すまん。相手のことを考えるのが苦手なんだ。輪乱しお化けとか、身勝手キッズとか呼ばれてしまうくらいでな」

「そうなんだ……」


 あだ名のレベルが酷すぎるのはさておき。相手のことを考えるのが苦手とか、そういう次元じゃなかったでしょ。全てを置き去りにしてたよ。


「ちなみにさっき言った勝利条件は大事なことだから覚えておいてほしいのだが……そうだな。もう少し考えてから喋ることにするか。とりあえず車に乗れ」

「おっけー……ごめん、乗り方が分かんないや」

「Fキーだ」

「ありがと」


 車の近くでFキーを押すと、俺のキャラが助手席に乗り込んだ。


「じゃ、出発だ」


 七瀬のキャラが運転席に乗り込むと、すぐにパトカーは走り始めた。

 視線を風景に向ける。英語の広告とレンガやコンクリートでできた建物がたくさん並んでいて、まさにアメリカの大都市、といった感じだ。

 ……その中で、けたたましい音を響かせている。


「サイレンはマジでダメじゃない?」

「NPCはサイレンを聞くとパトカーに道を譲ってくれるんだ。メリットしかない」

「そういうことじゃないんだけどね……」


 モラルがなってない……と言いたいところだけど、ゲームの世界でモラルがどうこうと言うのも微妙ではあるのか。

 そう思っていると、七瀬が口を開いた。


「……よし、整った」

「サウナ? それともねづっち?」

「色々考えてみたのだが……」


 今の冗談は通じなかったらしい。『滑ったなw』というコメントが見えたが無視しておく。


「お前……ええっと、ナイって呼べばいいか?」

「何でもいいよ」

「分かった。オレから教えたいことはたくさんあるけど、まずはナイが持ってる疑問を解消させるところから始めよう。何でも質問してくれ」

「質問、か……」


 サポート役の人に教えてもらう。そのことしか考えてなかったから、いざ質問しろと言われてもなあ。


「うーん……とりあえず、ギャングってどういう職業なのかを知りたいな」

「基本的には、皆で協力して強盗をするだけの集団、っていう認識でいい」


 強盗するだけ。やることは一つ。やっぱり楽そうで良かった――


「まあ強盗をするだけって言っても、強盗がこのゲームのメインコンテンツだからな。かなりやることは多いが」

「――ん?」


 今、とんでもないことを言われた気がする。


「ちょ、待って。え、強盗がこのゲームのメインコンテンツ?」

「そうだ。ゲームタイトルにある『HEIST』は強盗って意味だろ?」


 そんな大学受験で出ないような英単語は知らない。


「……俺さ、ギャングのボスをやるように言われてるんだけど」

「ボスだからって特別忙しくなることはないな」

「あ、それは良かった」

「ギャングはみんな等しくクソ忙しい」 

「あ、それは残念……」


 『やっぱやめとけばよかったんじゃ』みたいなコメントが大量に流れる。……正直に言うと、やめたいなあ。忙しいのはやだなあ。でも既に引き受けちゃったことだしなあ。

 ……やるしかない、か。男に二言はない。たった三日間だし、なんとかなるでしょ。


「他に質問は?」

「ええっと……あと一つだけ」


 これから強盗をしていくことは分かったけど、まだ気になることがある。


「ゴール地点みたいなものはないの?」


 ただがむしゃらに強盗をし続ける。そんなことはないだろう。何事にも、最終目標みたいなものがあるはず。


「あるぞ。強盗には小型、中型、大型の三種類あるんだが、その中でも大型強盗はラスボス的な立ち位置にある。この三日間で一ギャング一回しか挑戦できない最難関ミッションなわけだが、それの攻略がゴールだ」


 強盗の果てにあるものは強盗というわけか。せっかくだし、大型強盗の攻略を目指してみよう。


「そのクリアのために、二日間かけて小型強盗、中型強盗で武器の補充や自身のスキルアップを目指すことになる」

「……小型は初心者向け、って認識でオッケー?」

「ああ」


 その肯定の言葉を聞いて少し安心した。なにせ『あのジャンルのゲーム』しかほとんどやったことがないのだ。初心者お断りだったらどうしようもなかったけど、その点は大丈夫そうだ。


 気付いた時には外の景色はがらりと変わっていた。都市部から外れた荒野。広がるのは不毛の大地。その中で、アスファルトで舗装された車道を走っている。


「ちょうど強盗の話になったし、そのシステムについて話そうか。まず、強盗っていうのは全てギャングと警察の戦いになる。ギャングは金を盗んで逃げ、それを警察が阻止する。そういう関係だ」

「逃げ……ってことは警察を無理に倒す必要はあまりない?」

「そうだ。警察全員を撃ち殺すなんて難しいことはしなくてもいい。三つある強盗勝利条件のうち二つである、拠点に逃げ込むことと警察を撒くことを基本的に狙うことになるんだ。ちなみに指名手配みたいな制度はないから、強盗成功後に警察に捕まることはない」

「へえ……」


 撃ち合わなくても逃げれば勝てるというのは、シューティングゲームを一切やったことがない俺からすればとても良いルールだと思う。


「じゃあ強盗失敗になるのはどんな時なの?」

「盗んだ金を持っている犯罪者が全員、警察署地下にある留置所に収監された時だ」

「……お金を持ってる人は責任重大だね」

「どうだろうな。金を持ってない人は警察を妨害するっていう役割がちゃんとあるし、責任は皆等しく重いとオレは思うぞ」

「うっ……確かに」 


 各自やるべきことを頑張る。そういうゲームみたいだ。


「とりあえず、強盗の成功と失敗についてはこんなもんだな。次は前準備の話をしよう」


 七瀬がそう言ったタイミングで車が停まった。場所は荒野のまま。ただ、近くに一軒、ボロボロの小屋があった。その扉の前に、一人のおっさんのキャラクターが見える。


「強盗を開始させるためには、必要なアイテムが存在する。今回はピストルがあれば問題ない」

「オッケー。……え、今回? 今から強盗するの?」

「当然だ。実践してみないと何も始まらないからな」

「いや、そうだけどさ……マジかー」


 説明して、その後すぐに本番。まだ心の準備をしていなかったため、少し焦ってしまう。


「まあ安心しろ。『グリーンヘイスト』って呼ばれる、初心者用の小型強盗だから」


 グリーン……緑色、ね。確かに安全そうなイメージはある。

 だけど。

「強盗ってギャングでやるものじゃないの? 一人で成功できるものなの?」


 ギャングというシステムが存在する以上、複数人でやるべきだと思ったのだ。


「確かに中型と大型はギャング全員で取り組むことになるが、小型に関しては問題ない。一人でクリアできるように設定されてる」


 それなら何とかなりそう……かなあ。俺はこの手のゲームをやったことがないし、操作もまだおぼつかない。成功は難しい気がする。


「大丈夫だ、初心者は失敗するもんだ」

「なにも大丈夫じゃない……」


 ……でも、やるしかないか。強盗集団のボスをやることになってしまった以上、避けては通れない道だ。


「あそこにいるおっさんのNPCが闇市場の役割を果たしているから、そこで買い物をしてくるんだ。アサルトライフルとか色々買えるんだが、今回はピストルだけでいい」

「分かった。……何キーを使うの? 車の降り方から分かんないや」

「降車は乗車と一緒でFキーで、そこからは――」


 操作方法を教えてもらったところで、俺はキャラを車から降りさせる。そして、おっさんのキャラの方へと向かった。


「ピストルだよね……」


 適切なキーを押して、ピストルを購入。このタイミングでコメ欄をチラ見してみる。


「買い物しただけなのに、『すごい! よくできたね!』ってどういうコメントだよ。はじめてのおつかいじゃないんだけど?」


 若干キレ気味にリスナーのコメントに軽く反応する。

 他の配信者と会話している時は、当然視聴者と喋ることはできない。口が二つあるわけもなく。

 だけど、配信者たるもの、視聴者との会話を一切しないわけにもいかない。今みたいに一人になったタイミングでやらないといけないね。

 続けて他のコメントにも言葉を返しながらパトカーに戻った。


「買えたか?」

「うん。それは問題なく。……だけど、ピストルって高いね」


 購入した時に分かったのだが、ピストルは一丁で30万円だった。説明書によると最初の所持金は100万円なので、かなりの出費だ。


「どうせ強盗でたくさん稼ぐんだ。あまり気にするな。……じゃ、出発するぞ」


 またサイレンを鳴らしながらパトカーは走り始めた。


「向かってるのは……強盗する場所?」

「そう、コンビニだ」


 どうやらコンビニ強盗をするみたいだ。確かに初心者向けっぽい。


「すぐ近くにあるから……ほら、もう着いたぞ」

「早っ」


 どこにでもコンビニがあるのは日本と同じらしい。

 建物はレンガ製。オレンジ、緑、赤の三色の装飾が目に入ってきた。名前はセブンレイブン。看板には七匹のカラスが描かれている。……あれ、なんか俺の知ってるやつと違うな。


「パチモン?」

「はっきり言うな。このゲームのコンビニはブンレイしかないから、よく覚えておけ」

「ブンレイって略すんだ。俺はセブ」

「それだと本家と被っちゃうから、ブンレイにしてくれ」


 そんな会話をしながら、七瀬と俺のキャラが車から降りた。

 読んでいただきありがとうございました。


 今回4000文字だったのですが……少し長いですかね? 要望があれば短くしますね~。


 もし「中々やるじゃねえか」と思ってもらえたなら、お手数ですがブックマーク登録や下の☆の色を染めていただけると非常にありがたいです。感想も募集中!

 できるだけ高頻度で投稿を続けていきます。よろしくお願いします~。

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