第20話 初中型強盗開始
俺たち三人のキャラがほぼ同時に扉の先へと入る。
石レンガの部屋。そこには5体のNPCが待ち構えていた。
そして一番奥に、巨大な金庫がある。
「撃て撃て撃て撃てー!」
ウラのキャラはすでにアサルトライフルを手に持っていた。俺も早く操作しないと。
1キーで銃を取り出し、左クリックで構える。照準を敵のNPCに合わせるようにマウスをドラッグした。
そして、右クリックで撃つ。
「くっ……」
銃声と、薬莢が地面を転がる音が響いた。20発ほど撃っただろうか。……だが、俺が撃った弾は4,5発ほどしかNPCに当たっていなかった。
動く敵に、反動でブレる照準。……運転と同様、射撃というのもかなり難しいみたいだ。
「よし! これで全員倒したな!」
銃声が止む。俺が下手くそプレイを晒している間に、ウラとアイラが全員やっつけてくれた。
「あたしとウラちゃんは一足先に地上に出て警察の妨害をするから、後はよろしくね」
「……分かった」
射撃の反省は後からだ。目の前のことだけ考えよう。
「そうそう、言い忘れてたんだけど、このゲームってミニゲームがたくさんあるのよ。それで金庫の開錠はミニゲームをクリアしないとできないから」
「……え、マジ?」
「マジよ。頑張ってね」
「頑張れよ、ナイ!」
それだけ言い残すと、ウラとアイラのキャラは部屋の外に出て行った。……他に忘れてることはない、って言ってたのに。
「……」
ミニゲーム……少し不安だけど、実際にやってみるしかない。
金庫の近くへキャラを移動させ、Fキーを押す。すると俺のキャラは虚空からノートPCを取り出し、ハッキングを開始した。
そしてその直後、軽快なBGMが流れ始めたと同時に画面が切り替わる。突然3カウントが表示されて、0になった瞬間にミニゲームが始まった。
モニターの中央に一本の直線が引かれており、上から的が落ちてくる。恐らくこの直線と的が重なった時に、タイミングよく的をクリックすれば良いのだろう。
幸い、クリックするタイミングはBGMに合わせられているためだいぶやりやすい。
……だけど、ミスしたら何かしらのマイナス要素が発生するはず。タイムロスか、もしくはそれ以外の何かか。
そう思うと、少しだけだが全身に力が入った。
「……これで終わり、かな」
結局一度もミスをすることなく、十秒ほどでミニゲームは終了した。簡単ではあったものの、悪くない緊張感だった。
そのまま俺のキャラは金を回収する。
「あれ、何だろ、これ」
回収を終えると同時に、「アイテムを獲得しました」という文字列が画面に表示された。コンビニ強盗では出なかったものだ。
「……そうだ。トランシーバーで聞いちゃおう」
5キーを押して尋ねてみる。
『お金を取ったら、「アイテムを獲得しました」って出たんだけど』
『ごめん、それも言うのを忘れてたわね。中型以上の強盗では、取ったお金はいったんアイテムになるの。それをアジトまで持ち帰れば、実際の所持金になる』
『……アジトに戻れずに警察に捕まったら?』
『全部押収されちゃうわ』
どうやらコンビニ強盗ほど甘くはないらしい。……俺からすれば大歓迎だ。どんどん緊張感が増してくる。
『というか、もう終わったのね。それが難しくて時間がかかってしまうから中型強盗として成立しているのだけれど』
できるだけ早く撤収する。強盗の基本だ。なぜなら警察が来てしまうから。
だけどそれが難しくなっている。だからこの強盗は中型として扱われているということか。
まあ俺にとっては簡単だったけど。
『結構やりやすかったよ』
『……ミニゲーム限定のなろう系主人公、ってことかしら』
『地味過ぎる……そんなのいやだ……』
ミニゲームだけ無双して、「また俺何かやっちゃいました?」って言うのダサすぎるから。
『まあいいわ。おかげで簡単に逃げられそう……っ、警察の到着がめちゃくちゃ早いわ。この辺りを巡回してたのかしら。やっぱり急いで』
アイラがそう言ったと同時に、甲高いサイレンの音が微かだが俺の耳にまで届いた。
「早く逃げないと……」
焦る気持ちを抑えながら、冷静にキャラクターを動かし部屋の外へ。そこから非常階段を上る。
……その頃には、銃声も聞こえ始めていた。ウラとアイラが戦っているのだろう。
これはコンビニ強盗では発生しない状況だ。カーチェイスだけでなく銃撃戦も発生する。明らかに難易度が上がっていることを身に染みて感じた。
『今どんな感じ?』
『絶賛戦闘中よ。ウラちゃんがやられちゃったけど警察は何人か倒せてる。ヘイトが全部こっちに向いてるから、今なら外に出ても安全に乗車できるはずよ』
『分かった』
階段を上り裏口から外へ出て、正面に回る。
遠目でしか確認できないが、警察と思われる二人のキャラがとある小屋を撃ちまくっていた。そこにアイラがいるのだろう。あの二人のキャラがこちらに来ないのは、アイラを無視するわけにはいかないから、といった感じかな。
「じゃあ今のうちに逃げないと」
キャラを乗車させる。このままアジトまで逃げきれたら強盗成功だ。
『そうそう、ウラちゃんに伝えておくと、死んじゃったらトランシーバーで声を届けることはできなくなるわ。生きてる人の声が聞こえるだけね。もし誰かに情報を伝えたかったら全力で叫ぶしかないわ』
「うおおおおおおお! 二人とも頑張ってくれえええええええ!」
「うるさすぎだろ……びっくりした……」
どこからか分からないけど、ウラの叫び声が聞こえてきた。ここまでくると声帯が壊れないか心配になってくる。
『じゃ、逃げるよ』
『あたしはこいつらの足止めをするから、気にせず行きなさい』
その指示通り、俺は運転を始めた。……緊張感が体から消えていくのを感じる。中型強盗、案外簡単だったね。正直に言えば、少しつまらない――
『ごめん! 一台そっちに向かったわ!』
――そう思ったところで、サイレンの音が近づいてくるのが聞こえた。……カーチェイスをしなければならないらしい。




