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第12話 また明日

 ウラについてアイラに説明した後、都市部へ一緒にアイラの車で移動することに。その道中でウラに連絡をして、三人で会って話すことにした。

 集合場所は、このゲームで最初にスポーンした広場。


 ちなみに、道中でガソリンを入れたのだが、代金は俺が払った。

 以下、その時に起きた会話である。


「あたし、お金ないのよねえ」

「うん、知ってる」

「ちょっと? そこは『仕方ないから払ってやるよ』ってカッコよく言うところじゃないの?」

「いや、違うと思うけど」

「あたしは正しいと思ってるの。さっさと払いなさい」

「お前マジで……」


 マジでめんどくさい女だ。困ったことに、「めんどくさい」と言われたらさらにめんどくさくなる始末。

 よって、俺は「めんどくせえ」と呟くことを我慢しなければならないのだ。もしこいつがギャングメンバーの候補じゃなかったら、そんなことはしない。アイラの血管が切れるまで「めんどくさい」と連呼していただろう。

 命拾いしたな。

 ふん。


「で? そのウラって人はどこにいるの?」

「まだ来てないみたいだ」


 俺とアイラは既に到着している。車から降りて、広場の中心辺りでウラの到着を待つ。


「……全然人がいないね」

「当り前よ。ここでできることなんて何もないんだから」


 ゲーム開始時に見ることができた、たくさんの配信者たちが談笑している光景はもう存在しない。皆、自分のやりたいことのために町中を動き回っているのだろう。


「というか、お金をくれる話はどうなったのかしら」

「今渡すよ。まずは連絡先の交換だ」


 七瀬に教わった通りに連絡先の交換を行い、そのままアイラに送金する。

 何円欲しいのかは分からないが、最初の所持金である100万円ほど送れば文句は言われないだろう。


「……少ないわね。でも、とりあえずは満足してあげる」

「……」


 なんでこんな上から目線なんだろう。……最初の印象はかなり良かったのになあ。今となっては、ただ声が良いだけの変な人という認識だ。


「おおおーーーーーい!」


 遠くから元気の良さそうな叫び声が聞こえた。


「ウラ、久しぶり。カジノはどうだった?」」

「ああ! 久しぶりだ、ナイ! 大負けして全財産失ったぜ!」

「いや、その、ええ……」


 最悪の結果だし、そんなことを堂々と言わないでほしい。普通は多少見栄を張るものだと思うんだけど……。

 正直でよろしい、ということにしておいてやるか。


「で、ギャングを作るって本当か!?」

「うん、とりあえずはこの三人で設立しようと思う」


 先ほど電話で呼び出したときに、ギャングを始動させることは話しておいた。

 ……妹の件は何も伝えてないけど。まあなるようになるでしょ。


「とりあえず自己紹介したらどうかな?」


 俺の提案を聞いて、先に口を開いたのはアイラだった。


「あたしは天野アイラ。よろしくね。……で、ウラさんは妹になってくれるのかしら?」

「い、妹? どういうことだ?」


 当然そうなるでしょう。でも、ここでウラには妹になってもらわないとアイラにギャングに入ってもらえなくなる。


「ナイ、説明してくれよ! こんなの、何も聞かされてないぞ!」


 だいぶ困惑してるみたいだけど……まあ説得はできるはず。

 こいつ、バカだし。


「落ち着け。いいか、このアイラさんはウラのお姉さんになってくれるって言ってるんだ」

「そこがよく分からないぜ!」

「妹のために全力を尽くし、妹を暖かく包み込んでくれる……それがお姉さん。そんな偉大な存在になってくれるってことだ」


 良い感じにそれっぽい言葉を適当に並べる。……どう考えても中身が無さすぎだ。これじゃ流石のウラでも聞き入れてくれないか。


「……つまり、ボクにとって良いことしかないってことか?」

「ああ、うん。そういうことだ」

「じゃあなるぞ、妹!」


 あるかもしれないデメリットのことは一切考えない。やはりバカである。リアルで詐欺に引っかからないか心配なところだけど。

 とにかく、説得完了だ。


「ふ、ふへへ、ボクっ娘ね……良いじゃないの……」


 どうやらアイラの性癖にぶっ刺さっていたらしい。知らない間に興奮していたみたいだ。


「ちょ、ちょっと試しにお姉ちゃんって呼んでみてくれないかしら?」

「分かったぞ! お姉ちゃん!」

「え、えへ、あたしがお姉ちゃん、えへへ」

「ナイ、この人ちょっと怖いぞ……」

「たぶん疲れてるんだよ。普段はちゃんとしているはず」


 適当に答えておく。ウラがこの先どんな目に遭うのかは俺の知ったことではないし、どうでもいい。

 俺が気になるのは一つだけ。


「で、アイラはギャングに入ってくれるってことでいいんだよね」

「ふひ……ええ、それで大丈夫よ……ひひ」


 かなりの錯乱状態に見えるが、言質は取った。

 これでメンバーが3人集まった。ギャング結成だ。中型強盗に挑むことができる。


「それで、次は何をするんだ?」


 聞いてきたのはウラだった。当然、答えは決まっている。


「この三人で中型強盗をやるつもり」

「それって、具体的にはどういう強盗なんだ?」

「……何にも分かんないや。まさかウラに自分の無知を気付かされることになるとは。悔しい。マジで悔しい」

「どういう意味だっ!」


 実際、本当に何にも分かんない。最初の一歩目すら踏み出せない状況にいる。

 こうなると七瀬に連絡するしかないかなあ。そう思ったところで、アイラが突然大きな声を出した。


「そ、れ、に、関しては! お姉ちゃんが、答えるわっ!」


 さっきまでよりも一際明るい声だ。恐らく、妹の疑問を解消するという姉らしいことができそうで嬉しいのだろう。


「あたしはね、昔このゲームをプレイしたことがあるから何でも知ってるのよ!」

「……え、マジ?」

「それは頼もしいぜ!」


 七瀬と同じ、このゲームの経験者。どうやらかなり優秀な人材を引き入れたみたいだ。


「実はね、ギャングを作ったらやんないといけないことがあって――」


 アイラは一通り説明をしてくれた。


「――って感じなのよね!」

「分かった! 早速今からやろうぜ!」

「ウラちゃんは元気ねー、うふふ」


 どうやら妹のことはちゃん付けで呼ぶみたいだ。


「でも、お姉ちゃん少し疲れちゃったから、明日にしない? みんな集まったらすぐに動き始める、って感じにしましょ」

「疲れたなんて、そんなことないだろ! まだまだいけるぜ!」

「いやでも」

「そんなんじゃお姉ちゃんというよりおばさんだな!」


 あ。

 デリカシーのない発言だ。

 まずい気がする。


「おばさ……そうよね……あたしなんて……」


 アイラは明らかに落ち込んでいた。どうやら「おばさん」と言われるとこうなるらしい。そういう時はキレればいいのに。

 そう思っていると、ウラは続けて特大の地雷を踏みぬいた。


「なあナイ、この人めんどくさ」

「待って。それ以上は言っちゃ」

「うわーん! 妹にめんどくさいって言われた―!」


 遅かったみたいだ。


「あ、いや、その、ボクが悪か」

「もういい! 今日は寝るから! おやすみ!」


 そう言うと、アイラのキャラは姿を消した。声も聞こえない。どうやらログアウトしたみたいだ。


「……ボク、やっちゃったのか?」

「どう考えてもやらかしてるね」

「そうか……疲れてたって言ってたし、ちゃんと労わらないといけなかったよな」

「そこじゃないけど……いや、もういいや」


 こいつのノンデリがすぐに治ることはなさそうだ。


「ボクとナイの二人になっちゃったけど、どうする?」

「うーん……というか、俺も少し疲れたかも」


 時計を見ずにやってきたが、ここにきて少し瞼が重たくなっているのを感じた。


「そういえば今って何時なんだろ……」


 あまり時間を気にしないタイプなので、現在時刻が分からない。サブモニターで確認しようとしたところで、ウラが答えた。


「11時ちょうどくらいだ!」

「げ……もうそんなに経ってたのか」


 大体5時間くらいやっていたみたいだ。それもトイレに行かずに座りっぱなしで。


「悪いけど、俺も今日は寝るよ」

「そうか……じゃあ明日は朝からやろうぜ!」

「あ、朝、ね。……やれたらやる」

「それ、やらないやつじゃないか!」


 ベタな返事にベタなツッコミだ。……実際のところは、早めに起きれたらやるつもりだ。寝坊する可能性もあるからはっきり言い切ることはできないけど。


「ふああ……」


 欠伸が出てきた。体に限界が来つつある。さっさとログアウトしよう。


「じゃ、おやすみ」

「ああ! よく寝ろよ! また明日!」


 ……また明日、か。そんなことを言われたのは何年ぶりだろう。人生で一度も言われたことがない気さえする。

 俺も同じように、また明日、と返事をしたいところ。


 だけど……声が喉で引っかかった。

 そんな言葉、かなり親しい間柄じゃないと言っちゃいけないんじゃないのか? でもウラは言ってくれたしなあ。うーん……。


「……」


 結局、何も言えなかった。Escキーを押して設定画面を開き、ログアウトボタンを押した。

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