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妄想タックル  作者:
5/5

世界平和の犯人

 あんたはもしも願いがなんでもひとつ叶うとしたら、何を願う?


 俺は考えた。

 不老不死なんてありきたりだが、不老は良くても不死はいらない。死にたくなるときだってある。

 最高の美女と過ごす。魅力的かもしれないが、たったひとつだけの願いにするにはいまいち気が乗らない。

 使いきれないほどの大金。手に入れた瞬間は嬉しいかもしれないが、しょせん金は金。人生をかけて消費したいものがあるほど、強欲ではない。

 世界平和。あえて叶えるとしたら、これだ。そもそも平和とはいったいなんなんだ、という思いはありつつ、俺は世界平和を願うことにした。


 俺の意思一つで世界が平和になるとしたら、そんなに素晴らしいことはない。

 世界では争いがたえなかった。戦争、侵略、内戦、ジェノサイド。核が飛んでいないだけで、どこかで人が人を殺している。


 善とはなんだ。悪とはなんだ。正義とはなんだ。

 すべての人間にやさしくできることが善ならば俺は善ではない。誰かを傷つけ生きることが悪なら多くの人間が知らず知らずのうちに悪になっているかもしれない。弱者が虐げられることが許せないのが正義なら、正義の味方は自ら弱者になりたがる卑怯者も守らなくてはいけないのか。


 俺は不完全に善であり、悪であり、正義である。自分の人生にハッキリとした善も悪も正義もなく今まで生きてきた。そんな人間が祈る世界平和とは? 自己欺瞞だ。自己陶酔だ。良い人間であると、自分を納得させたいだけだ。


 それでも俺は世界平和を願った。

 自分に見える世界だけでも、争い無く平和であってほしい。


 争いは避けられない!

 人が増え続ける限り、土地と資源が有限である限り、必ず人類は争いを開始する。

 たったひとつだけ回避方法がある。誰かが、人類が力を合わせなければ立ち向かえない脅威を作り出すことだ。


 だから俺は必死に勉強して宇宙人との交信装置を作り、宇宙人に地球にやってきてもらうことにした。それも、とびきりの罵声を添えて。

 するとどうだ、気が短かったのか宇宙人はすぐにやってきて、そこら中でUFOが飛び回るようになった。毎日誰かがUFOに連れ去られていくし、戦闘機がUFOを撃墜するのも日常茶飯事だ。

 そして、今では人種差別なんか誰もしない。そんなことをしている暇はないからな。肌の色にかかわらず、生まれや身分に関係なく、宇宙人という脅威にさらされる。そのおかげかSDGsなんて騒ぐやつが減ったのは面白かったな。

 この調子で人類は宇宙人と戦いを続けるべきだ。中国共産党が米軍の戦力が減ることを心配するなんてなかなか愉快だろ?


 宇宙人との戦闘は戦争ではない。これは駆除に過ぎない。全人類を巻き込んだ外敵駆除なのだ。

 あらゆる国境を越えて人類が手と手を取り、協力し合う。これぞ俺の望んだ世界平和だ。


 みんなが俺を恨んでいる? なぜ。世界が平和になったのにか。

 世界を混乱に陥れたからだって? それはね、あんたがただ平和ボケしていただけだよ。世界の多くは混乱していたのに、あんたが安全な場所を手放さなかっただけだよ。その証拠に侵略行為やジェノサイドを受けていたやつらは以前よりずっと安全に暮らせている。あんたは彼らを救おうともしなかったじゃないか。それは罪じゃないのか?


 だから言っただろ。善とはなんだ。悪とはなんだ。正義とはなんだ。あんたの語るそれもまた自己欺瞞だ。良い人間でいたいと思うのは自由だが、俺を責めてもあんたの人生は綺麗にならないんだよ。

 ……もう時間だ。気は済んだか?

 そんなに今の世の中が嫌ならね、自分で世界を変えりゃいいんだよ。じゃあな。

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