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妄想タックル  作者:
2/5

いいね主義

「やばい、今月のいいね足りない……」


 私の「いいね」残高は、たったの3いいねしかなかった。


 スマートフォンのいいね残高画面を見つめ、ため息。でもこうしちゃいられない、自撮りの準備だ。笑顔の練習を10回。完璧な角度を探して30分。フィルターを選んで15分。


「今日こそは100いいねは稼がなきゃ」


 だが、投稿した自撮りにひとつもいいねはつかなかった。どうすればいいのか考えてみたが、分からない。私以外の人の投稿にいいねが増えていくのを見ると、心がかき乱された。


 2年前、政府がSNSの「いいね」を公式通貨として認定して以来、人々の生活は激変した。食料品店でも、電車でも、病院でも、支払いは全て「いいね」だ。給料すら「いいね」で支払われる。


 インフルエンサーたちは新しい特権階級となり、企業は彼らに群がった。一方で、「いいね」を稼げない人々は、日に日に生活が苦しくなっていった。


「すみません、今月のいいねなんですが……」


 部屋に今月分のいいねを回収にやってきた大家に、私はペコペコ頭を下げながら、スマホのいいね残高を見せた。大家は私の画面を一瞥して、冷たく言い放った。「フォロワー1000人以下の投稿なんて、もう価値がないんですよ。来月までに5000いいね用意できないなら、退去してもらいます」


 大家は私が頭を下げる様子をカメラで撮影し、部屋を出ていった。足音が聞こえなくなるまで待ってから私は舌打ちをし、SNSを開いた。このままではまずい、どうにかしていいねを稼ぐ方法を考えなければ。

 スマートフォンの画面をスクロールすると、人気インフルエンサーの笑顔が表示された。完璧に作られた表情、完璧な角度、完璧なフィルター。一枚の投稿で100万いいねを稼ぐ彼女は、もう人間というより、利益を生み出すための商品だった。


 しばらく自撮りを撮影していると、部屋の外から大きな音が聞こえた。ドアを開けてあたりを見回すと、隣人の田中さんが廊下で倒れていた。

 私は田中さんのもとへ駆け寄った。顔色が悪く呼吸が浅い。いいねを使って、救急車を呼ばなければ。私はSNSを閉じて、119に電話した。


「人が倒れてます。住所は――」


 救急車が来るまでの、永遠のような時間。私はスマートフォンをポケットにしまい、田中さんに声をかけ続けた。「大丈夫ですか、もうすぐ救急車きますからね」――。


 この瞬間は、誰にも見せるつもりはなかった。

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