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太陽と月の砂時計がある街~魔法玩具師ニザの冒険~  作者: ゆめあき千路


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その六十八:北の階段と塔

 上を向いていた僕の視界は、シャーキスのおなかですっかりふさがれてしまった。


「シャーキス、だいじょうぶかい? 昨夜、なにがあったんだい?」


 シャーキスは僕の頭に手をつき、よいしょっととんぼ返りをして、僕の頭上にお尻をポヨンと落ち着けた。


「るっぷりい、フウ~! へんな海賊のおじさんに捕まっていたのですぅ~……」


 シャーキスはプルプル頭を振った。言葉のはしばしがシャーキスらしくない。ぬいぐるみ妖精でも、疲れて頭が回らなくなることってあるんだ。


「うん、それはわかってる。赤い服の海賊の亡霊を見たよ」


 僕は両手を上げて頭の上のシャーキスを掴み、降ろした。

 シャーキスは僕の手から飛んで、僕の目の前にフワフワ浮かんだ。


「るっぷ~……。もうしわけございません。なんだか思うように力がでないのです、フウ~……」


 シャーキスは、一カ所で滞空するのも難しいのか、空中で微妙に揺れている。


「ううん、謝らなくていいよ。たいへんだったね」


 月明かりでよく見れば、シャーキスのぬいぐるみの体の色がやけにくすんでいる。ピンクというより薄い灰色。細かい(ほこり)をたくさんかぶって汚れているみたいだ。

 僕はシャーキスの全身を軽くはたいて、埃を払ってやった。


 するとシャーキスは、


「るっぷりい!」


 ブルブルッ!

 全身を振動させ、自力で細かい埃を払い落とし、シャキッ! と両腕を広げた。


「るーっぷ! いきなり片手でギュッと掴まれて、あちこち連れ回されていたのです! なんて失礼な亡霊でしょう!」


 きれいになったら気分も回復したようだ。


「うん。あいつはたぶん、昔の海賊の船長だ。だから『ここは俺の城だ』と言ったんだと思うよ」

「ぷうっ! あの亡霊は夜の間はずっと誰かを探して、城塞をあちこち歩き回っていたのです。ボクはあいつに掴まれている間、体から力が抜けて、逃げられなかったのです!」

「あいつはあの白い花嫁と同じ、遠い昔に亡くなった人なんだ。もうこの世の(ことわり)からはずれている存在なんだけど……。シャーキスはぬいぐるみ妖精で魔法の存在だから、近づかない方がいいかもしれないね。無事で良かった……」


 僕は右手を伸ばして、シャーキスの頭をよしよしとなぜてやった。

 こんな真夜中の冒険でも、僕にはシャーキスが一緒にいてくれる。――――そう思ったら、僕の胸の奥にこの上ない喜びと、かすかな哀れみが湧いた。


「あの海賊は何百年も、この城塞をさ迷っているのかもしれないね……」


 もしかして宿舎の北側の壁が塞がれたのは、さ迷うあれらの亡霊を、城塞の北側だけに封じるためではないか。


 海賊に攫われてきた王女の伝説はずっと昔の出来事だ。その昔から出ていた亡霊なら、長い年月の間に、僕のように目撃した人がいても不思議はない。


 この宿舎に入ってからは、顔見知りの海賊とも会わない。彼らのお喋りにさりげなく聞き耳を立てることも出来なくなった。

 世話係の人たちは、亡霊の存在を知っていたとしても、僕らをいたずらに怖がらせまいとして話さないだろうし……。


 僕だって、ロミさんとヨルナさんが怖がるなら話せない。……でも、あの二人なら面白がるかなあ……。


「るっぷりい~! ご主人さまこそだいじょうぶですか?」

「はは……。ごめん、すぐには立てないや」


 僕は床にへたりこんだままだった。


「るるっぷ! しっかりするのです! はやくここからお部屋に戻りましょう!」


 シャーキスに頭をポンポン叩かれた。


「いや、行きたいところがあるんだ。協力してくれ」


 僕は小さく震える膝頭を両手で押さえて立ち上がり、ズボンの埃を払った。


「シャーキス、今日はもっと奥へ行きたいんだ。きっと北へ抜ける階段か通路があると、僕は考えている!」


通路はまだ北の方に伸びた先がある。


「るっぷりい! 了解なのです、行きましょう!」


 僕はシャーキスに少しだけボディを光らせてもらい、行く先を照らしながら進んだ。


「そういえば、あの海賊の亡霊はどこから来たんだろう」

「るっぷ、昨日の昼間は、白い石の建物のなかにいたのです! あの海賊の手がボクを離さなかったので、逃げられなかったのです、ぷう!」


 王女と違い、彼はこの島の統領だったなら、死後は墓が造られたろう。建物なら霊廟(れいびょう)かな。それはこの島のどこかにあるはずだ。


「赤い上着を着た海賊だったね」

「るぷーい、ぷう! ここの海賊はみんな、赤い服を着るのですね、るっぷ!」


 海賊の凱旋(がいせん)パレードでは、海賊船長も部下達も、真っ赤な服装をしていた。あれほど派手なのは、特別なパレード専用の衣装だろう。


 彼らがどんな衣服を着ようと、僕には関係ないことだけど……。

 あの赤の衣装に何らかの意味があるとすれば、あの海賊の亡霊こそ、この〈赤い冠島〉で、初めに赤い衣装を着けた海賊船長かもしれない。


「るっぷりい! 壁があるのです!」


 シャーキスがブーンと飛んで、真正面にある壁を照らした。

 北側の突き当たりだ。

 そこには木製のドアがあり、開けると螺旋階段(らせんかいだん)があった。

 上にも下にも行ける階段だ!


「やった!……あ、でも、どっちに行けば……?」

「るっぷ? お外へ行くなら下ではないのですか?」

「うん、ふつうはそうだけど、この上はもしかして……」

「るっぷりい!」


 シャーキスはサッと飛んでいき、すぐ戻ってきた。


「ここは城塞の北側にある高い塔なのです! 海賊船から見えたあの尖塔のひとつです! てっぺんには外がよく見える大きな窓が三方にあります。きっと物見台なのです!」

「北が見える!? 北の入り江が見えるかも!」


 僕はしずかに、でも、できる限り早い足取りで、塔の階段を昇っていった。


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