その四十九:僕の魔法の話と宴会について
僕らの席は、海賊船長からは少し離れた場所に設えられていた。形だけは、大切な客人としてもてなされているふうだ。
いろんな人が僕らの席の近くを通り、ちらっとこっちを見ていく。
外国人が珍しいみたいに。
見世物になるのは不本意だったけど、とくに近づいても来ない。僕らは気にしないことにして、勝手に食べたり飲んだりしながら、ヒソヒソ話をしていた。
「つまり、私たちに暦を見られたら困るんだわ。この城にもどこかにあるはずよ。私たちは見せてもらえないだけ。伝説をもっと詳しく知りたいけど、この島の住人に訊いても、話してくれないでしょうし……」
ロミさんの意見にヨルナさんが頷いた。
「そもそもが魔法がらみの話だもの。魔法を使えない一般人が聞いたって、それが真実、魔法の話なのか、判定なんてできやしないわ。それが伝説なんて古いものなら、なおさら信じ難いわよ」
「そうですね、魔法は目に見えないから……」
僕はそこでふと、この二人は僕が魔法玩具師だと知っているのか確かめたくなった。
旅客船に乗るとき、職業なんて訊かれていない。マルセノ親方も、乗船記録に職業なんて書いていないはずだ。
ただ旅客船の船長さんは、マルセノ親方のことを『魔法玩具師の親方』と呼んだことがあったから、それを耳にした人がいたかもしれない。
「話は変わりますが、お二人とも、僕の職業をご存じでしたっけ?」
小声で質問した僕の意図を、ロミさんはすばやく察してくれたようで、
「木工細工職人よね。ちゃんと覚えているわよ」
意味深に微笑んでから、僕の耳元に顔を近づけた。
「旅客船で、あの子たちの壊れたオモチャを直してあげたんでしょう。誕生日のお祝いもしたから、ニザくんはちょっとした有名人だったのよ。マルセノ親方も、船長さんと親しくしていたしね」
僕は海賊船の中で子ども達に「魔法玩具師のニザにいちゃん」と呼びかけられたことを思い出してヒヤリとした。
「だから、ニザにいちゃんが大好きな子ども達には、厳しく注意しておいたわ。もしも誰かに訊かれたら、ニザにいちゃんは〈木工細工職人〉だって答えなさいって言いつけておいたわ。でないとニザにいちゃんが、また海賊にひどい目にあわされるって!」
子ども達は、僕が料理番に殴られて包帯だらけになっていたのを見た。僕を殴ったのは料理番だけだが、それで子ども達は海賊がとても悪いやつだと理解したので、ロミさんとの約束は絶対に守る。と、約束してくれたそうだ。
これで子ども達の口から、僕が魔法玩具職人だと改めてバレる心配は無くなった。
僕はロミさんにお礼を言った。
「ねえ、もしかして、ニザくんなら、この伝説の魔法の話の真偽を確かめる方法とか、わかるかしら?」
ヨルナさんがヒソヒソ声で訊いてきた。
「いえ、扱うものが違いますので、まったくわかりません」
僕も小声で応えた。
「なるほど、そういうものなのね」
僕も、魔法玩具を作成する際に使っている自分の魔法ならわかるけど。僕が知っている魔法はそれだけだ。呪いなんて、魔法玩具師が扱うものじゃない。――が、もしかしたらマルセノ親方なら他の魔法も知っているかも知れないけど……。
宴会のご馳走を一通り食べ、満腹になった僕らは、ぽつぽつ喋りながら手持ち無沙汰でいた。
そのうちに顔見知りの海賊がきて、部屋に戻って良い、と告げた。
僕らが宴会場を出ても、気にする者はいなかった。
宿舎へ戻るため、僕らは城の中庭へ降りた。
僕らの宿舎はこの城塞の別館だ。広い中庭を通り抜け、百段くらいの石の階段をのぼった上にある。
途中、通り抜けた中庭でも宴会は行われていた。
そこでは大勢の街の住人が――子ども連れの家族が多かった――楽しそうに過ごしていた。
飲み物や食べ物はふんだんに用意されており、街中の人々が来ているようなにぎわいだった。
あとで世話係に聞いたら、今日のような島を上げての大宴会は、食べ物や飲み物はすべて当代の城主が用意して、街の人々に振る舞うそうだ。
宿舎である別館への帰り道、ロミさんが海賊が近くにいないのを確認して、僕とヨルナさんを呼び止めた。
「私たちが街の人に見られていたの、気がついた? あの宴席にいた人は、私たちを見て、覚えたんだわ」
この島の住人は、皆が人質の監視者。僕らのいた人質席の前を、招かれていた街の人たちが入れ替わり立ち替わりやってきて、さりげなく僕らの顔を見ていった。
やけに前を人が往来する席だなあと思っていたら、そういう事情だったか。
はじめにロミさんが、僕らから遠い席でワインを飲んでいたのは、海賊達の会話を盗み聞きするためだった。
あの席は、海賊船長たちの会話がかろうじて聞きとれる良い場所だったのだ。
街の代表者みたいな人たちが海賊船長に挨拶して一緒にお酒を飲み始めたので、ロミさんは魔法の伝説について何でもいいから手掛かりになる話が聞けないかと、ワインを飲むフリをして聞き耳を立てていた。
海賊船長たちは、街の住人の代表らしい男女数人を前に『今回の人質は女性が九人、十歳以上の子どもが十四人、十歳以下が一人だ。よろしくな』と説明していたそうだ。
あとは、街のあの店には援助が要るとか、その店には要らないとか、人手は回してもらえるのかなど、商人のやりとりみたいな会話が聞こえてきたので、ロミさんは席を立って僕らの方へ移動したのだった。
この島は海賊の島。
街へ出ても、助けを求めることはできない。街の住人はみんな海賊で、全員が僕らを監視する者なのだ。
その夜、僕は悪夢にうなされた。
白い荷馬車に乗った海賊船長は人々へ慈愛に満ちた微笑みを振りまき、観衆に手を振り返して応えている。その姿は、民に慕われる王様さながらだ。
荷馬車の馭者をつとめる若い海賊が僕を気遣い、なんども話しかけてくる。
でも、その声は大歓声にかき消され、僕はなにも聞こえない。
僕は両手で頭を抱える。
なぜ、海賊の凱旋を祝うパレードの荷馬車に乗っているんだろう。
それも海賊船長の乗る先頭馬車の馭者席なんかに。
頭が痛い。額の奥がガンガンする。
僕は魔法玩具師なのに。
すてきなオモチャを作るのが生業なのに。
どうして海賊に囚われて、こんな海の孤島にいるのだろう。
魔法の玩具を作ることもできずに……。
何時間もこんな気分でいることは、ギザギザした鋭い刃物で、心の大切な部分を少しずつ、削り取られていくようだった。




