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太陽と月の砂時計がある街~魔法玩具師ニザの冒険~  作者: ゆめあき千路


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その四十五:海賊の凱旋②

 桟橋の下には、さっきヨルナさん達が乗ったのとはまた違うタイプの大型の荷馬車が、列を作って停まっていた。数えたら三十台もあった。


 先頭の荷馬車だけ四頭立てで、車体が真っ白に塗られている。荷台中央には一段高い台がしつらえてあり、白い花で飾られた黄金色の豪華な椅子(いす)()え付けられていた。


 まるで王様みたいな人を運ぶための特別な乗り物みたいだ。


 二台目以降は、屋根無しも屋根付きもさまざま。それらの荷台にはたくさんの木箱やら家具類、穀物の袋や食料品の箱などがこんもり高く積まれている。揺れても落ちないよう、荷造り用ベルトで固定もされていた。


 木箱には焼き印が押されている。シンプルなオールとボートの図柄は、僕らが乗っていた旅客船のマーク。僕らの船から奪われた略奪品だ。

 あんなにたくさんあるなんて……。


 海賊たちが荷馬車に乗り込む。


 僕の嫌な予感はどんどん強くなる。


 先頭の白い荷馬車の上には、見たことのある大きな麻袋がいくつも、椅子の台の周囲にていねいに配置されていた。袋の口は少しゆるめられていて、あふれんばかりに詰められている色とりどりの宝石や貴金属類が、陽光を反射してきらめく。


 町の方から風に乗って喧噪(けんそう)が聞こえる。


――凱旋(がいせん)だッ! みんな無事に帰ってきたぞーッ!!!


 僕はなんども断ったのに、先頭の白塗り馬車へ押し上げられ、馭者席の左に座らされた。抱えていた着替えの麻袋は、かさばって邪魔だと、馭者席の背もたれの後ろへ置かれた。


 白い花で飾られた立派な椅子には、予想通り、海賊船長がどっかり座った。彼は非常に装飾的な長剣を持ち、座った両膝の間に突き立てるような格好でポーズを決めた。


 これから始まることがわかってきた僕は、自分の顔面がスッと冷たくなるのを感じた。きっと血の気が引いていたんだ。


「なんだあ、ボウズ。真っ青じゃないか。緊張することなんかないぞ。ほんの十分ほど、じっと座ってりゃいいだけさ!」


 海賊船長は親切にも、「馬車に揺られて気持ちが悪くなったらすぐ言うんだぞ」と言ってくれた。


「はは、こんな馬車に乗るのは初めてなんだろ。だいじょうぶだよ、すぐ終わるから」


 馭者を務める若い海賊は馬の手綱を持ちながら、格好良くウインクした。ほんとに気のいいおにいさんなんだ。容姿もそう悪くないし、故郷ではきっともてるんだろう。

 だけど、彼は海賊だ。いまこうしていても、僕の気持ちをまったく理解できない、骨の髄まで海賊なんだ。


「よーし、出発だ!」


 海賊船長の合図で、馭者が手綱を軽く振り、荷馬車が走り出す。

 じつにのんびりした速度。重い荷物を積んでいるし、急ぐ理由が無いからだろう。


 道の右手は波止場の海。左側はコンクリートやレンガ造りの建物がえんえんと建ちならぶ、単調な景色だ。

 荷馬車の行列はすすみ、港の波止場の出口、内陸の街へつづく分かれ道までやってきた。


――ゥワーッ、ワアーッ!


 どれほど大勢の人が声を出しているのだろう。すごい喧噪がどんどん近くなってくる。

 白い荷馬車は左へ折れた。

 すると、灰色のカーテンをサッと引き開けたごとく、風景が明るい街並みに変じた。


 意味不明だった喧噪は、喜びにあふれた大歓声となった。


「おかえりなさい、赤の船長! 赤い勇者たち!」


 左右は白やレンガ色の立派な建物ばかり。道も白っぽい。きれいな石畳で舗装されている。段差が感じられないほど平坦だ。


 すばらしく美しい街並みだった。


 きっとこの島の目抜き通りだ。大きな商店が集まる中心街なんだろう。

 建物は二階や三階建て、五階建て以上もあり、そのベランダ窓や屋上から人々が身を乗り出し、通りを眺め降ろしている。


 上階にいる人々は、その手に小さなカゴを持ち、そこから何かをつかみ出しては空中へと振り撒いている。


 雪のようなそれは風に吹かれて空中を舞い、荷馬車で進む僕らの上空へ、ひらひらと降りそそいだ。


 僕の肩に落ちてきたのは、白い花びらだった。とても良い香りがする。この芳香はきっとバラの花だ。種類まではわからないけど、ずいぶんと高級な紙吹雪である。


「よお、かっこいいぞ、船長!」

「無血の襲撃成功に乾杯だ!」

「やったな! みんな、おめでとう!」


 人々が口々に叫ぶのは、心のこもった歓迎の言葉だ。

 沿道では、派手なドレスのきれいな女性達が、大きく手を振っていた。


「よかったわーッ! みんな、よく無事で!」

「船長、今回のおみやげはなに! 期待してるわよーッ」

「あとでわたしの店に来て!」

「待ってるわねーッ!」


 きゃーきゃー、わーわー、うるさいことすさまじく、僕は耳を塞いでうつむこうとした。


 そのときだった。


 誰かが僕を見ている!


 強い視線を感じた僕は、ハッと顔を上げた。

 見られている。僕の頭からつま先まで、僕が何者なのかを調べるように、詳しく観察されている。


 視線を感じる方角は……。

 まだずっと、道の前方。

 進行方向の右の、道端に立ち並ぶ観衆の後ろのほうだ……。


 いた!

 ひっそりと立っている!


 僕は目を限界まで見張った。


 その人とは距離があるのと、頭に被られた青灰色(ブルーグレイ)のフードが深く引き下ろされているために、顔貌(かおかたち)は影に暗く塗りつぶされていた。


 青灰色のフードのその人は、荷馬車の進行方向に歩いていた。

 いちばん距離が近づいた地点でも、人垣のすきまから見えたのは、フードに覆われた頭部と鎖骨の辺りまでだった。男か女か、若いか年寄りかも判別できなかった。


 一瞬、青灰色の姿がかげろうのようにゆらめいて、二つに分裂したみたいに見えた。


 僕の乗った荷馬車は、その人のいる地点をなにごともなく通り過ぎた。


 僕は顔を前へ向けた。

 荷台の海賊船長と馭者の若い海賊は、観衆に笑顔を振りまくのに忙しい。僕のことは気にしていないようで助かった。


――誰なんだろう、〈あの人〉は……?


 この島の人だろうか。


 どうしてこんなに気になるんだろう。

 顔すら見ていないのに。


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