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太陽と月の砂時計がある街~魔法玩具師ニザの冒険~  作者: ゆめあき千路


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その十三:魔法の羅針盤(らしんばん)がある船

 船客で十五歳は僕だけだった。他の十代は、十歳前後が十二人、十歳以下は十人だった。


 図書室の興味ある本を読み尽くしてた僕は、ときどきその子らに混じって甲板でボーリングをしたりした。


 船室には一等から三等までの等級があったが、子どもは部屋の宿泊費などは関係なく、一等船室の子も三等船室の子も、勝手に集まっては遊んでいた。


 甲板や公共のスペースには、往き来を制限する仕切りのようなものもなかった。一等船室にいる僕らはお金持ちだと思われているらしかった。マルセノ親方は裕福な職人の親方だが、いわゆる金持ちではないと思う。


 マルセノ親方にその話をしたら、境海世界にも貧富の差はあると教えてもらった。

 境海を越える船はもとより船賃が高額なので、ある程度の手持ちが無ければ境海を渡る船に乗ることはできない。


 地球と境海世界を往き来する船は、噂に聞く地球での移民船のように、貧しい人たちが新天地を求めて最低の旅費で船旅をするのとは事情も違うらしい。




 その日は子ども達のために、上級船員の案内による船内の見学ツアーが開催された。


 上級船員の案内で、ふだんは一般乗客は立ち入り禁止の艦橋や、船の動力であるエンジンがある機関室、食堂の奥にある厨房の中を見せてもらえるのだ。


 話を聞いた子ども達は食堂に集まっていた。皆たいくつしていたので、参加しない子は少なかった。

 僕は小さい子に混じるのがなんとなく気恥ずかしくて、部屋にもどろうとした。


 でも、上級船員のおじさんはそんな僕に声を掛けてくれた。「きみだってまだ子どもじゃないか。興味があるならいっしょに見学すればいいよ」と持っていた名簿にわざわざ僕の名前を書き込んで参加させてくれたのだ。


 艦橋では船長から、魔法の船についての簡単な講座があった。


 世界と世界の境海を越えられる船には魔法の羅針盤が積んである。その作用によって人間の目では見ることが出来ない世界の狭間を越えることが出来るという話だった。


 艦橋の真ん中に設置してある魔法の羅針盤は、僕がすっぽり入りそうなくらい、大きかった。


 金色の台座に、虹色に輝く水晶の山が固定されている。その水晶の中には丸い時計みたいな形をした方位磁針があり、輝く銀の針が、つねに一定の方角を指し示していた。


 魔法の羅針盤は非常に高価で稀少なものだ。これがある船には魔法の護りが働くので海の魔物は近づいてこない。


 しかしメンテナンスだけは技術のある魔法使いにしかできないため、維持するのが難しく、世界と世界の狭間を自由に往き来できるほど強い魔法がある船は数が少ないそうだ。


 次に案内された機関室では、巨大な蒸気機関のエンジンを見せてもらった。


 この船は蒸気の力で動いている。その蒸気を作るための火の燃料はおもに石炭だ。


 燃料倉庫には、僕らも見慣れた石炭が大量に保管されていた。その量は、僕が出発してきた国とこれから行く目的地を二往復できるくらいあるという。


 僕は近くの石炭の山に見入った。


 黒い中にキラリ、青いガラスのカケラみたいなものが混じっている。暗い縞模様(しまもよう)の入った海の結晶のような青色に、砕いた真珠を吹き付けたようなすてきな色合いなのだ。


「きれいな青い石がありますね。これも燃やすんですか?」

「そうだよ。これは境海の南の海でとれる青色サンゴの魔法結晶(まほうけっしょう)なんだ」


 機関室長だという船員が説明してくれた。


「境海世界の狭間を通過する際には、人間が作り出したあらゆる機械動力が稼働しなくなり、ふつうの魔法も一切使えなくなる狭間の海域と呼ばれる場所があるんだ。でも、魔法の羅針盤とこういった特別な魔法結晶だけは魔法の効力を失わないから、この船はどんな海でも、止まることなく通過できるんだよ」


 もしも魔法が使えない場所で船の動力が止まった場合は、煙突を帆柱にして非常用の帆を張り、風の(すい)進力(しんりょく)によって進むこともあるという。

 そのため、地球では帆船が姿を消したが、境海世界にはまだ構造的に帆柱が残されている型式の船が多いそうだ。


 青色サンゴの魔法結晶は、良質な物になると装飾品の材料にも使われる。石炭と一緒に燃やされるのはクズ石だが、とてもきれいな青色なので、僕は夢中になって見ていた。


「こんなものが珍しいのかね。地球の子は変わっているね」


 機関長が親指のツメほどの大きさのカケラを一つ、おみやげにくれた。僕がもらったら他の子達も欲しがったので、機関長は子ども達全員に、小さなカケラをおみやげにあげるはめになった。




 最後に案内された厨房はたくさんの人がいちばん忙しく働いていた。


 僕らは毎日船の食堂で、高級レストランと変わらない美味しい食事をとっている。この厨房では、乗客と乗員全員の食事を支えるため、朝早くから夜遅くまで交替制で十人以上の調理人が働いている。

 この航海のために用意された食材はトン単位だ。


 厨房の奥にある食料倉庫の棚には、瓶詰(びんづ)めや缶詰(かんづめ)などの保存食の箱が数え切れないくらい積まれていた。


 冷蔵庫は僕の泊まっている船室よりも広く、さまざまな野菜や果物の木箱が山のように積んであった。その冷蔵庫と同じくらい広い冷凍庫には、カチンコチンに凍った魚や牛肉や豚肉の巨大な塊が、いくつも天井から吊されていた。


 厨房では何種類もの料理が平行して作られていて、シチューなどは子どもが入れそうな大鍋で煮込まれていた。巨大なオーブンでは一度にたくさんのパンが焼かれていた。


 案内役の上級船員はていねいにその場所がなんであるかを説明し、子ども達に危険がないように先に自分がその場所に入って出入り口をしっかり確認してから、見学をさせてくれた。


 最後に僕らは、厨房の料理長からできたての焼き菓子とクッキーを一つずつもらって見学を終えた。




 その日の朝は食堂で、焼きたてのパンと暖かな卵料理の朝食を食べながら、マルセノ親方はふいに僕の肩をポンと叩いた。


「今日だったな、誕生日は。これでニザも十五才だ、おめでとう」

「おや、息子さんのお誕生日ですか」


 たまたま近くにいた船長が聞いていた。

 その日の夕食で僕らは船長のテーブルに招待された。


 船長は特別に誕生日のお祝いのご馳走を用意してくれたのだ。


 僕は船に乗る前、おかみさんから贈り物としていただいた一張羅(いっちょうら)の深い青色の上着とズボンでめかしこんだ。靴はマルセノ親方からの贈り物の、ピカピカの短靴だ。


 上着には前を留めるボタンとはべつに七つの飾りボタンがつけてあり、(えり)元には銀糸で、銀の輪の中に小さな花と三つの流れ星のモチーフが縫い取りしてある。


 マルセノ親方は黒い上着とズボンだった。縫い取りは金糸で、金の輪の中心に僕のとは少し花びらの形が異なる小さな花と、三つの流れ星が重なったモチーフが使われていた。

 この模様はおかみさんがデザインしたオリジナルで、マルセノ親方と僕だけの紋章でもあるので、僕が自分の印章の指輪などに使っても良いと言われた。




 その日の夕食で、皆からお祝いの言葉をたくさんもらった。

 料理長の心づくしのバースデーケーキを皆で食べた。あんなに大きくて美味しいチョコレートのケーキを見たのは生まれて初めてだった。


 僕には一生忘れられない、すばらしい誕生パーティになった。


 翌早朝、僕らの乗る蒸気船に、やけに古めかしい木造の巨大な帆船が横付けしてくるまでは。


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