1日目 名画≠絵画
ー1799年12月20日
フランス革命により西と東にフランスが分かれた日。
毎年12月20日に中心都市パリで
西フランスと東フランスが永遠の不可侵を誓い合う
所謂、[平和の祭典 ]通称 《アコニ》が行われる。
ー1899年12月1日 現在
大理石に鳴く革靴の囀りは、まるで建物全体が劇場かのように響いた。歩みを止めると正面には、かの有名な画家ドレー・ミファーソンの名画[二つの革命]が大きく飾られている。
左には森の中で多くの子供に囲まれた貧しくみえる女性が、右には床に無数の肌色の紙がくしゃくしゃに捨てられた部屋にペンを4本持った厳格そうな王様がそれぞれ描かれている。
「まるで『フランス革命の目的とは…?』とでも言いたそうな絵画だな。こいつはいけねぇ」
後ろから重みのある声がした。振り返るとそこには口の周りいっぱいに髭を生やした小太りの男性が立っている。
「こんなデケェ絵画の取り外しに革靴とはな…お前も随分偉くなったな、リュカ」
「今は視察中です。であれば、この場では最低限の正装をするのがマナーかと…M.ピエール」
「取り外しは今晩だぞ。今は何時だ?M.リュカ」
時計の針は19時を指していた。ピエールは馬鹿にするかのようにニヤニヤとしていたがリュカにとってはいつものことなので、たいして気にも留めなかった。それよりも時間を忘れて楽しんでいたリュカに作業着を持ってきてくれたことに対する感謝の方が大きかった。
少し経つと仲間たちも集まり絵画[二つの革命]の取り外し作業を始めた。
ふと1人の新入りが口を開いた。
「なんでこの絵画外しちゃうんですか?」
「馬鹿だなー、お前。こんな絵がメイン会場にあったらどうなるかしらねぇぞ。そんなんもわからねぇとは、まだまだだな」
同じ入りたて若者が1年早いだけで随分と先輩ズラをしている。だが、こんな絵画があっては困る。それは事実だ。
ここ、オペラガストン通称『オペラ座』は今から24年前の1875年1月5日に建てられた歌劇場メインの宮殿である。このオペラ座の舞台にはヨーロッパ中の名だたるオペラ歌手すらも憧れを持ったという。
そしてこのオペラ座が記念すべき100年目のアコニのメイン会場に選ばれた。
しかし1つ問題があった。
それがこの絵画[二つの革命]
この絵画は今のフランスを表している。
左は半大統領制となった西フランス、右は立憲君主制となった東フランス。そう考えたらこのフランスに住む者にとって痛いほどにこの絵画の言いたいことが伝わる。
『フランス革命』の意味…
それが東の国王には気に入らなかったのだろう。
無論、西の代表者にも…
この絵画を処分することでアコニのメイン会場に選ばれた。
なによりこの絵画の所有者が先月死んだ。それは両国にとって都合のいいことだっただろう。オペラ好きの東の国王にとっては特に嬉しい訃報だったのであろう。
「まさか祭りの三週間前にメイン会場の変更とはな。ワガママはじいさん譲りか?」
ピエールが少し腹の立てたように言う。
「こういう力仕事は決まって俺ら西の平民にやらせる。歴史に聞く革命前夜と何も変わっちゃいねぇな」
「まあまあ、平民じゃそう簡単に入れないオペラ座に来れてんだ。俺らの仕事が認められているってことよ」
「どうだか…」
愚痴をこぼしながら仕事をするのはピエールのいつもの癖だ。リュカにとって、オペラ座でもいつも通りのピエールが慣れない現場での安心感へとつながっていた。
絵画を額縁から外した時、絵画の裏に何か文字が書いてあることに気が付いた。
「なんだこれ?」
そこには決して丁寧とは言えないフランス語で、こう記されていた。
あの日から随分と月を視た。
しかし、その月が満ちることはなかった。
1つの果実が大樹に実った。
その果実は西と東に2つ…
しかし、2つの果実が太陽になることはなかった。
[二つの革命]となることはなかった。
それゆえに、私はここに予言す。
このオペラ座にて…
再び『フランス革命』が起こる
1799年12月20日より
夢追い人ドレー・ミファーソン