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ep60 革命後の教室は②



(ひで)、おはよ!」


 日下が自分の席で窓の外を眺めていると、可奈がふわりと髪を揺らして笑った。


「あぁ、はよ」


 いつものように軽く返事を返すと、可奈は空いている椅子に腰を下ろした。


「ねぇ、英。大丈夫?」


 加奈が遠慮がちに尋ねる。悠真が居なくなったことで責任を感じていないか、日下を心配してくれているのだ。

 日下は加奈を安心させるために、なんでもないと軽く肩をすくめた。


「まあな」


「そっか」


 日下が曖昧に答えると、加奈はそれ以上、特に追及することなく頷いた。

 本当は「大丈夫だ」と答えられるほど割り切れてはいない。悠真を止めたかったからした行動だったとしても、結果的には親友を裏切ることになってしまったのだから。


「ちょっと、なんで安藤さんがいるわけ!?」


 突然、教室中にヒステリックな声が響いた。高木が安藤の席の前に立ち、鋭い目で睨みつけている。安藤は、そんな高木には目もくれず、絵を描くことに集中していた。


「勝手に来て許されるわけないでしょ! 学校が決めた事なんだから! アンタはあたしを殺そうとしたのに、なんで犯罪者がここにいるの!?」


 高木は悲鳴のような声で安藤を罵っている。安藤は高木には目もくれず、手を動かし続けて言った。


「あんただって加害者なのに、ひとりだけ罰を受けるなんておかしいでしょ。あたしにだって教室で勉強する権利はあるの。なんで、あんたのためにあたしが出て行かなきゃいけないわけ?」


「アンタがやったことと、あたしがやったこと、同じにしないでよ!!」


 高木が両手で机を叩き叫ぶ。安藤はようやく手をとめて、呆れた顔して高木の顔を見上げた。


「昨日、お母さんと一緒に警察に行ったよ。付き纏いだってそのうち捕まる。他人の個人情報を勝手にサイトに上げるのは立派な犯罪なんだって。つまり、あたしたち両方犯罪者ってこと」


 高木の顔はみるみる青ざめていった。安藤は高木の髪を掴むと、引っ張って高木の顔を近づけさせた。


「アカウントはすぐに消してくれるらしいから、あたしの個人情報を流した件は許してあげる。でも、それ以外の嫌がらせの事は絶対に許さない。だから、あんたの為に消えてなんてあげない」


 安藤が高木の髪をぱっと放す。高木は一瞬怒りの表情を浮かべた。しかし、周囲の視線に気付き、血の気が引いた顔で見回した。その場にいたクラスメイトの目が、冷ややかに高木を見ていたからだ。


「おはよう、篠原くん」


 久しぶりに教室に復帰した西田が、親しげに咲乃に挨拶する。それに続いて、竹内や安藤も。今まで、咲乃に気軽に接することができなかった生徒までもが咲乃の元に集まった。


 すっかり出来上がった人垣から離れたところで、日下はその光景を眺めていた。今の教室での日下の立ち位置は、けして冷遇されているわけではない。完全に悠真側だった中川や小林も、大人しくしていれば穏やかな学校生活が送れる。


 教室のカーストは、完全にひっくり返り、今や弱い者をいじめをしていた生徒の地位は下落した。これからは、常に咲乃の牽制(けんせい)の下で行動しなければならない。


 いじめや悪口は絶対に許されない。特に村上とつるんでいた連中や、高木たち女子は暫く肩身の狭い思いをすることになるだろう。それでも、居場所は与えられている。西田などの今までいじめられていた生徒は、未だに彼らを嫌っているが、復讐しようという気はないようだ。元々気の弱い性格だ。やられたことをやり返す程の度胸はないのだろう。

 そもそも、咲乃はそれを望まない。彼を慕っている生徒たちは、彼が望まない行動はしない。そして日下たちも、大人しくその空気に従うのみだ。もう、他人を差別することが許されるような空気ではない。カースト自体も、そのうち曖昧になるのかもしれない。


 日下の中に、咲乃に対する不信感はだいぶ薄れていた。「気に食わない奴」から、「良い奴ではないが悪い奴ではない」という印象に変わっている。まぁ、好きかどうかまではまた別の話だが。


 咲乃が、視線に気付いたように日下を見返す。そして、穏やかな顔で微笑んだ。

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