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ep24 運命の糸を手繰り寄せた②

 体育のドッジボール中に山口さんが倒れた時、保健室まで運ぶ篠原くんを見て、私は辛くて泣きそうだった。篠原くんと山口さんが、あまりにも似合いすぎていたから。ふたり一緒にいると、まるで王子様とお姫様みたいだった。

 その日の放課後、篠原くんが山口さんと一緒に帰っていくのを見て思った。篠原くんは、山口さんが好きなのかもしれないと。そう思ったら悔しくて、私はおまじないに縋ったのだ。


 翌日、私は放課後の帰り道、篠原くん後をつけた。家の場所を確認すると、スマホの地図アプリで現在地の住所を調べてメモを取る。おまじないは、理央の家で、理央と一緒に試した。


 まさか本当に、篠原くんが声をかけてくれるようになるなんて、思わなかった。これも、おまじないのおかげかもしれないと本気で思った。それくらい私にとっては、篠原くんに話しかけられたことは、奇跡のようだったから。


 篠原くんといると、まるで自分が恋愛小説の主人公になったようだった。彼と接すれば接するほど、抜け出せなくなるくらいにどんどん彼が好きになっていく。


 優しく頭を撫でてくれる、繊細で温かな手が好きだった。

 耳をくすぐるような、柔らかな声が好きだった。

 心の奥まで溶かすような、彼の瞳が好きだった。

 清らかで静かな、彼の空気が好きだった。

 篠原くんの言葉で、勇気が沸いたこともあった。


 全部好きだったのだ。容姿も、性格も、纏う空気も。


 全部、全部。


 山口さんと二人きりで話す彼に、私は必死の思いで気持ちを伝えた。だけど、返された言葉は冷たく突き放すものだった。


 私が夢見た恋の形。私のためだけにあなたがいて、私のためだけに優しくして、私のためだけにあなたが笑って、私のためだけにあなたが傷ついて、私のためだけにあなたが泣いて。


 こんなに怖い世界で、私の代わりに戦って、私を守ってほしかった。


 愛してほしかった。

 愛してほしかった。

 愛してほしかった。

 愛されたかった。


 私が自分を好きになれるよう、あなたに愛してほしかったのだ。


 こんな時でさえ、ゆるりと嫣然と笑う彼を美しいと思ってしまう。彼の言うように、私は愚かだ。

 吐息に混じって、彼の言葉が耳元に掛かる。床が崩れるような、一瞬ぐらりと目眩がした。気付くと、私は大好きだった篠原くんの頬を叩いて走り出していた。



 こんな時、私が頼れるのは、親友の理央だけ。入学式の時に仲良くなって以来の、唯一の親友。


 先に帰宅していた理央が玄関から出てくると、止めていた涙が溢れて止まらなくなった。そんな私を見て、理央は驚いた顔で部屋へ迎えてくれた。


「結子、何があったの?」


 私は今日あった事を理央に話した。篠原くんが、山口さんを神谷くんのお見舞いに誘ったこと。彼に想いを伝えたら冷たく突き放されたこと。都合のいい王子様(虚像)がほしいだけだと言われたこと。そして、自分の弱さを押し付けさえできれば誰でもいいのだと言われたこと――。



「そう、そんなことがあったんだ……」


 私の話を聞いて、理央は表情を曇らせた。


「きっと篠原くん、神谷くんが倒れて気持ちが混乱していたんじゃないかな。最近の篠原くん、落ち込んでいるみたいだったし……」


 いくら理央が励ましてくれても、気持ちが晴れることはなかった。好きな人に自分の想いを伝えて、拒まれてしまったのだから。


「やっぱり私じゃ、駄目だったのかな……」


 私では、篠原くんの特別にはなれなかった。


「ねぇ、結子。篠原くんが結子を見てくれる方法があるの。試してみない?」


 私を見てくれる……方法……?


「そ、それって……?」


 理央は真剣な表情を見て、私は半ば縋り付くように、理央に尋ねた。


「いいおまじないがあるの。『好きな人の特別になれるおまじない』」



 結局私は、おまじないに頼るしかない。叶うかどうかも分からないそれに。



 どんなに想っても、絶対に振り向かない相手に恋をして、振られたくせに、諦めることもできない。

 たとえ、おまじないという不確なものであったとしても、篠原くんの特別(・・)になれる手っ取り早い方法があるのなら。


 一刻でも早く、それに縋りたかったのだ。

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