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聖母マリア殺人事件  作者: 立花 優
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第九章 最後の対決

第九章 最後の対決


 自宅から、大木教官が出てきた時である。


「父の敵、覚悟!」と大音声をあげて、大木教官の胸元を出刃包丁で刺しにいった。


 しかし、高知刑事の出刃包丁は、手刀で叩き落とされため、大外刈りを掛けられぬよう、直ぐに大木教官にタックルした。地面はアスファルトで固められた道路で、ここであの大木教官の大外刈りを食らったら、まず即死である。


 そこで、タックルから寝技に持ちこんだのだが、相手のほうが動きが速かった。あっと言う間に、高知刑事の右手が「腕ひしぎ十時固め」に掛けられたのである。


 十分に鍛えた右腕ではあったが、この「腕ひしぎ十時固め」とは、映画『燃えよドラゴン』の冒頭部分で、ブルース・リーが相手役のサモハン・キンポーに掛けて、参ったと言わせたワザと言えば、映画を見た人なら直ぐに理解できるだろう。


 ミシミシと言う音を聞きながら、必死の形相で、高知刑事は言った。


「大木教官、僕の父親殺しの犯人はあなたです。母から聞きました。亡き父と同時に母に結婚を申し込んでいたんですね」


「それが、どうして父親殺しの証拠になるのだ。まあ、このままお前は、正当防衛で殺される運命だがな」


「母が、父が殺された時の、大木教官の出勤簿のコピーを持ってました。あんたのアリバイは全く無くなるんですよ」、これは高知刑事の張ったりだった。実は、そんなコピーは存在しない。


 しかし、この出勤簿の話を持ち出されて、大木教官は顔色が変わった。


「それに、よく包丁を見てみっしゃい。あれは、さっき買ってきた玩具ですよ。あんたの正当防衛は絶対成立しない。誤想防衛か過剰防衛で有罪です」


 この一言は利いた。大木教官が目で確認してみるとプラ性の玩具の出刃包丁だったのだ。急に大木教官の力が落ちたように感じた。


「くそっ、どっちみち、この腕を折ったら、次は首を絞めて殺してやる。死人に口なしと言ってな。ああ、確かにこの俺がお前の父親を刺したんだよ!」


 既に、ミシミシと音を立てていた高知刑事の右肘は関節が折れる直前だった。その時、驚く程のスピードで高知刑事は体をはね返し、背広の左ポケットから、高性能のスタンガンを取り出して、大木教官に押しつけた。


 大木教官の全身が痙攣する。大木教官がのけぞった時、高知刑事は手錠を取り出し、


「過剰防衛及び公務執行妨害で現行犯逮捕、午後6時16分」と言って、大木教官を逮捕した。現行犯逮捕の場合、令状はいらないのだ。


 そこに、何故か中村刑事主任も車で駆けつけてきた。


「高知刑事大丈夫か?」


「中村主任刑事こそ、どうしてここが分かったのです」


「気になって、高知刑事の携帯のGPSを常に追っていたのさ。父親殺しの証拠はとれたのか?」


「チャンと、デジタルボイスレコーダーにも録音してあります。今から県警に戻って捜査一課長に報告に行きましょう。まあ、あまり歓迎されないとは思いますが」


 二人は、中村主任刑事が運転する車に、大木容疑者を乗せて、石川県警へと向かった。


「確かに、現職の警官が、かって同僚を殺害し、今回の『聖母マリア殺人事件』に関連していたとなれば、捜査一課長は勿論、県警本部長もショックを受けるだろうなあ」


「そうでしょうねえ。ですので、僕は、今回の事件が全て終わったら、石川県警を辞めようと思っているんです」


「辞めてどうするんだ?」


「大学に戻って、大学院へ進学しようと考えています」


「しかし、学費や下宿代がかかるだろう、それはどうするつもりだ?」

「既に、仮想通貨で、数億円稼いでます。それを今後の学資に充てるつもりです」


「いつから、そんなものに手を出していたんだ」


「学生時代からです。僕は、父を殺した犯人を捜すために石川県警に入庁しました。そこでうまく犯人をあげられたら、また、大学に戻る準備を学生時代から色々考えていたんです」


「いやはや、秀才の考える事は違うなあ」中村主任刑事は、感心したように首をふりながら、車を石川県警に向けて走らせていたのである。


「ただ、これだけは教えてくれ。何故、丸川萌は大木教官の精液を採取し、今回の事件に使ったのだろう」


「今回の事件を複雑にしようとしたのでしょう。まさか石川県警の中にその協力者いるとは、お釈迦様でも気が付かないからでしょうからね」


「大木教官は、一体どこまで『聖母マリア殺人事件』に関係してたのかな?」


「それは、多分、丸川萌との肉体関係だけの関係だったと思いますが……」 了

 

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― 新着の感想 ―
[一言] 高知刑事、素晴らしいですね。 まさに文武両道のスーパーマン! 宗教や刑法など、立花さんの幅広い知識で描かれるミステリは迫力がありますね。 立花さん、ありがとうございました。
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