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聖母マリア殺人事件  作者: 立花 優
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第七章 『賛美歌の会』

第七章 『賛美歌の会』


 ここで高知刑事は、スマホを操って、英語の記事を画面上に表示した。


「僕は、最初、この事件は単なる個人的な怨恨であると考えていました。しかし、これがある組織による計画的な犯罪だったら、どうでしょう」


「と言うと」思わず、中村主任刑事が身を乗り出してくる。


「ここに、ガイシャや被告人の丸川萌が加入していたとされる、『賛美歌の会』のアメリカ本部のホームページと、アメリカのある州で起きた今回の事件とほとんど同じような事件についてのニュース記事があります。


 問題はこのニュース記事のほうで、絶世の美人とされそのアメリカの州での『賛美歌の会』での広告塔とも言われた女性が、やはり強姦殺害され、未だ犯人は捕まっていません。中村主任刑事はこの一致をどのように感じられますか?」


「ちょっと待ってくれ、その『賛美歌の会』とは一体どんな教団なのだ?そのスマホの記事横文字ばかりで全く理解できないのだが」


「極簡単に説明するならば、例のアメリカ同時多発テロ後に結成された、新興宗教団体です。キリストへの純粋回帰をうたっていますが、僕に言わせれば、非常に過激な面も持ち合わせています。例えば、「十字軍の再結成」「イスラム教原理主義者との徹底抗戦」「殉教者への追従」等々です。


 ここで、僕が最も気になるのは、「殉教者への追従」であって、結局、アメリカで強姦殺害された女性も、日本の谷川真里亞も、この教団の誰かによって殺害され、殉教者に奉りあげられようとしたのではないのでしょうか?」


「うーん、そう聞けば何となく納得はできるが、話が飛躍しすぎてとてもついていけそうにも無いが」


「アメリカの事件はFBIも懸命に捜査に動いているとこの記事に書いてありますから、早晩、犯人は捕まるでしょうが、僕の思いでは、『賛美歌の会』の末端会員の誰かが全ての罪を被って、この事件は幕引きでしょうねぇ。そしてやはり今回のように裁判で逆転無罪を主張してくるのでしょう」


「そうすると、この両方の事件とも非常に頭のいい誰かが、全ての粗筋を書いて、自分の教団の拡大のために、このような派手な事件を起こしたと言う事になるのか」


「このニュース記事を読んで、僕は、そう思いました」


「では、誰がそのような高度な粗筋を描いたと考えるのだ?」


「もしかしたら、教会に行った時に説教していたアメリカ人の牧師ではないでしょうか?」


「何だって!」


「もっと言えば、谷川真里亞の体内に残されていた精液の持ち主こそ、あのアメリカ人の牧師のものと考えたらどうでしょう?」


「どうして、それを証明するのだ?」と、中村主任刑事が聞く。


「ここに、実は、そのアメリカ人牧師の口を付けた、ワイングラスがあるのですよ」


「それを、高知君はどうやって、手に入れたのだ?」


「簡単です。この前、例の『賛美歌の会』の協会の礼拝日に潜入して、その牧師が口にした赤いワインが入ったワイングラスをすり取ってきてあります。僕は、簡単なトリックを使って、そのワイングラスを頂いてきました」


「そんなに簡単にすり替える事ができるのかい?」


 すると、中村主任刑事の目の前で、高知刑事は、右手から、次々とコインを出してみせたのである。


「そ、それは?」


「何、手品のトリックです。僕は、小さい時から、手品にも興味がありましたのでね」


「ふーん、そんなら、ワイングラスの取り替えなど、お茶の子サイサイなのか?」


「まあ、そういう事です。このワイングラスの口元についている唾液のDNAは、うまくいけば、谷川真里亞の体内にあった精液のDNAときっと、一致すると思っています」


「すると、そのアメリカ人の牧師が、谷川真里亞を強姦したのか?」


「いえ、防犯カメラは無いとはいえ、女子専用のマンションです。入り口には、守衛役のオバサンもいましたが風邪で寝込んでいたと言う事ですが、大柄な外国人の男性が入ってきたのなら、いくら何でもオバサンか入居者の誰かの目にとまるでしょう。


 今回の事件の最大の問題は、男性の影が見えないのに被害者の谷川真里亞が強姦殺害だれた事です。しかも、彼女の住んでいたマンションは女性しか出入り出来ません。やはり被告人の丸川萌が今回の事件の実行犯でほぼ間違い無いでしょう。後ろ姿ではありますが彼女らしき人物を見た人物もいたのですからねぇ」


「ではもし、そのアメリカ人牧師のDNAと谷川真里亞との体内のDNAとが一致しなかったらどう考えるのだ?」


「この僕の考えが、つまり、DNAが一致せず仮に間違っていたとしたら、最後には、ある究極の解答しか残っておりません」


「高知君、それは一体どう言う回答なのだ」


 ここで、高知刑事は、少し沈黙して、宙を見つめた。不思議な顔付きだった。何かを思い出しているような……。


「万一、このDNAが一致しなかったら、僕に、少し単独行動させて下さい。単なる空想でしかないかもしれませんが、僕には、ある人物が思い当たるのです」


「分かった、高知君、好きなようにやってみてくれ。鬼、いや、課長にはうまく話しを合わせておくからなあ」


しかし、数日後、高知刑事の第六感はまたもや外れた。アメリカ人牧師のDNAと、谷川真里亞との体内のDNAとが全く一致しなかったのだ。


 丸川萌の自白もそれなりに筋が通っていて谷川真里亞の強姦殺人事件の様子が生々しく語られており、丸川萌が実行犯である事は、高知刑事の読みどおりほぼ間違いが無いのと思われるのだが、谷川真里亞の体内に残された精液のDNAが、常に、この事件の解決に邪魔をしてくるのである。


 それに、日本国憲法第39条に一事不再理を規定したとされる条文がある。


 そのため、検察側は、即時上告したもののともかく新たな証拠を見つけ出さないと、丸川萌(もえ)は無罪又は差し戻しとなり、その一事不再理の条文がある事から、二度と丸川萌(もえ)を法定に引っ張り出す事はできなってしまうのだ。


 その時を境に、高知刑事は独自の隠密捜査に入っていった。中村主任刑事はこの行動に対して一切文句を言わなかった。中村刑事も時間が無くなっている事は認識していた。


 しかし、高知刑事は、どうやって真犯人を暴くつもりなんだろう?皆目、検討が付かなかった。


 ただ中村主任刑事に、丸川萌の高校・大学時代の友人に何人も接触して欲しいと言う話だった。また、実家にも頻繁に出入りしていると聞いた。一体、どう言う作戦なのだ。


 しかし、生き生きとした高知刑事の印象から、何らかの目算があるのであろう。中村主任刑事は、ただただ、祈るしか今はできなかったのである。


 さて、時代は、高知刑事の父親の葬儀の頃に戻っている。実は、高知刑事の父親が亡くなってから、数日後、亡き父の写真集を見ていた時、ある一枚の写真の記憶が、妙に、心に残っていたのだ。


 それは、まだ、独身時代の、母親を真ん中に、右端に同じく独身の父、そして左端に見た事もないやはり父と同年代の男性が映っている写真の事だった。一体、あの男は誰だったんだろう?今、実家に帰って、もう一度その写真を見て、唖然とした。


 そこに映っていた男性とは、今は警察学校の教頭の柔道5段の大木教官ではないか?


 高知刑事は、母親にある疑問をぶつけてみた。それは、先般の柔道の乱取り稽古で、大木教官のもの凄い殺意を感じた事にもよるからだ。一体、このもの凄い殺意は何なのだ!


 この一件から、高知刑事は、警察学校教頭の大木教官に、ある違和感を感じていたのである。もしかしたら、大木教官は、練習にかこつけて、この俺を殺すつもりだったのではないのか?それは、一体、何故なのか?その理由は、母親に聞くのが一番ではないか?


「お母さん、もしかしたら、この大木と言う人からも、好意を寄せられていたんじゃないの?」


 すると、母は、昔を懐かしむように、


「亡きお父さんと同僚の大木さんと、二人の人から同時にプロポーズを受けていたの」




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