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聖母マリア殺人事件  作者: 立花 優
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第四章 一つ違いの妹

第四章 一つ違いの妹


 上記の報告を受けて、再び、中村主任と、高知刑事の捜査は続いた。


 今回は、ガイシャの両親やガイシャ本人らが信仰しているキリスト教原理主義の『賛美歌の会』の日に潜り込む事だった。中村主任と、高知刑事は、信者や訪問客に紛れ込んで教会内に入ったが、目付きの鋭い異様な雰囲気の二人は、他の参加者には、即、刑事だと分かったろう。



 しかし、この教会の信者の約3/4は女性信者であり、残りの男性信者の中には10代から50代の精力の有り余っていそうな者は一人も見受けられなかった。年寄りか子供のみである。どちらにしても、皆から『聖母マリア』とさえ言われたガイシャを、無理矢理強姦殺人できそうな人物は一人もいなかったのだ。


 とうとうガックリきた中村主任は、帰りに行きつけの居酒屋に高知刑事を誘った。日本酒の熱燗を飲みながら、中村主任は言った。


「もう後は、明日にも判明する父親のDNA鑑定の結果次第だよなあ……」


「ああ、あれはフェイクです。つまり嘘ですよ。トリックと言ったほうがいいかもねえ。 中村先輩、ガイシャの谷川真里亞の父親はほぼ間違いなくシロです」酒に酔っているのか、いつもは役職でキチンと呼んでいるのに、高知刑事は中村主任刑事を中村先輩と気軽に呼んでいた。


「何だって、じゃ、高知君は知っていて、科捜研に捜査依頼したのか?」


「じゃ、中村先輩は、父親に実際に会ってみて、果たして実の娘を強姦殺人できるような人間と見えましたか?」


「うっ!」と、そこで中村主任は黙り込んだ。中村主任もガイシャの父親を疑っていない事は明白なのだ。


「あの堅実で信心深い現職の中学校教師の父親が犯人である事は99.99%ありません。それでは、何故、分かっていてあんな事を言ったのか?それは、皆の目をもっともっと別の観点に向けたかったからに他なりません。


 凝り固まった筋肉をモミほぐすにはマッサージが一番効きます。皆の堅い頭のマッサージのつもりで、ああ言う突拍子も無い発想を述べたのです。犯人は、多分きっと、予想もかけない人間なのでしょう」


「今の話を聞いていると、高知君には思い当たる人物がいそうだがなあ」


「今のところは、確証は持てませんが、ある解けない謎と言うか、不思議でならない事だけが、どうしても一つだけあるのです」


「それは一体何なのだ?」


「こんな酔った席では、言いませんよ。しかし、この問題をクリアしない限り、この事件の真犯人には絶対辿り付けないのです」


「分かった、今日はこれでお開きだ」


「中村先輩、明日からは、ガイシャと特に仲の良かった親友らを徹底的に、調査してみましょう」


「じゃ、高地君の言う、親友のスマホ等を使っての、出会い系サイト等の人間捜しをやるのか?」


「勿論、それもありますが、どうしても解けないある謎を解きたいのです」


「君が、何を考えているのかは全く分からんが、ともかく、ここまで二人でやってきたんだ。明日からも協力できる事は協力するよ。じゃ、今日はここまでだ。あっと、勘定はオレが持つよ」


「ご心配なく、僕は、独身貴族です。割り勘、割り勘」と言って、高地君は、半額を素早く支払った。


 明日からが、いよいよ事件の核心に迫る本当の捜査に乗り出すのだ。そう思うと、酔っているのに頭だけが妙に冷めていて、帰りのバスの中で明日からの作戦を練っていた。 

 次の日、紺色のブレザーに真っ赤なネクタイ、アイボリーのスラリとしたズボン、シャツは赤格子縞のボタンダウンのしゃれた格好で高知刑事は出庁した。普段、地味なドブネズミ色の背広を着ているだけに、余計、その派手さは目立った。


 先程から既に出勤していた捜査第一課長が、その格好の変化に真っ先に気づき、高地君に声を掛けた。


「今日は、いやに張り切っているなあ」と。


 まだ、全員が出勤前の午前8時前の事である。そこで、まだ全員が出勤していない事をいい事に、高知刑事は、捜査第一課長に難問をふっかけたのである。


「今日は、ガイシャと特に親しかった高校生時代・大学生時代の親友らの、聞き込み捜査の日なのです。中村主任刑事とは既に打ち合わせをしております。ところで、課長、次のような新たな仮説はどう思われますか?」


 これには、百選錬磨の課長もビックリした。


「昨日は、ガイシャの父親が怪しいと言っていた君が、次は、誰が怪しいと言うのだ?」


「もしかしたら、ガイシャの谷川真里亞の一つ違いの妹の谷川絵馬(エバ)です」


「何、実の妹だと。だが、しかし彼女は女性だ。今回の事件には関係が無いと思うが」


「課長、しかし、私の捜査した範囲内では、ガイシャの妹は、生まれた時から常にその美貌の点で姉と比較され続けてきたのです。

 この妹の谷川絵馬も決してブスと言うのでは無く、もう人並み以上の美人です。しかし、現実には姉の谷川真里亞に絶対に勝てなかったのです」


「で?」と、捜査第一課長は聞いた。


「君は、どう考えるのだ?」


「僕の仮説の一つですが、姉に異常な嫉妬心や復讐心を抱いていいたガイシャの妹が、自分の彼氏を使って、実の姉を強姦殺人すると言う筋書きです。これについて、課長の直々の意見を貰いたいのです」


「さすがは、石川県警最高得点で入庁した高知君だけあって、推理力の数々の奇抜さには脱帽するが、その推理は昨日のガイシャの父親が怪しいと言うのとそう大して替変わらないアイデアだな。だが、あまりに無理難題ばかり言っていると科捜研の連中に嫌われるぞ」


「そう言われるところをみると、課長は、昨日の僕のガイシャ父親犯人説をフェイクだと見破っておられた訳ですか?」


「当たりまえだ。まあ、可能性として0.01%かさえ有るか無いかだが、それに今程の現実の妹犯人説を採って見たところで、妹の彼氏のDNA検査を行えば、即、結論の出る事だ。事は、そんなには甘くないものと思っている。私は、一種の密室殺人に近い事件だとの見解は変わっていない」


 ここで、高知刑事の顔が輝いた。


「捜査一課長、あなたは、僕の習った下手な大学教授よりよほど頭が働いています。僕が勝手にうぬぼれていました。これ以上は言いませんが、もしかしたら課長の考えている犯人像と、僕の考えている犯人像は、ある点で、一致しそうですね」


「一致するかどうかは分からない。ただ、今回の事件は、表面に現れている事柄にばかり目を付けていると、下手をすると迷宮入りになる危険性はある。それだけは、避けねばならない。君の父親の事件の二の舞だけはねえ……」そう言って、捜査第一課長は深いため息をついた。




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