6挺目 後輩
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「実は気になる奴が居てさ」
「は?」
鈴木の切り出した話に俺はそんな言葉を返した。
「いや、そんな目を向けるなよ。お前だから相談してるんだぞ?」
「いや、てっきり、お前のことだから生身の人間には興味無い物かと。んで、誰なんだよお前の想い人は」
「俺、科学部入ってるだろ? 其処の後輩。滅茶苦茶、可愛くてさ。最近は放課後、部室に二人で残って話したりしてるんだ」
俺の問いに鈴木は頬を緩ませながらそう応えた。
「もしや、その後輩ちゃん、お前にグイグイ話しかけて来てたりする?」
「よく分かったな。そうなんだよ。自棄に積極的に俺に話しかけてくれてさ。分からないことがある度に俺を頼ってくれるんだ」
何処か得意げな口調でそう話す鈴木に俺は溜息を吐いた。
「お前、それでその娘が自分に気があるんじゃないかって思ってるんだろ」
「......っ!? い、いや、別に?」
「図星かよ。良いか? それはただの勘違いだ。居るんだよ。女子との関わりを普段から持ってないせいで、ちょっと女子に優しくされたら『ひょっとしてこの娘は自分のことが好きなのでは?』って、変な妄想をする奴」
俺はやれやれと首を振りながら言う。これだから勘違いオタクというものは困る。
「経験者は語る、か」
「何故、バレた」
消しゴムを拾って貰っただけで勘違いしてしまうような少年だった時代が俺に無かったと言えば確かに嘘になる。
「それでも俺、アイツのことが気になるんだ。霊群、頼む。アイツに俺の印象を聞いてくれないか?」
霊群は手を合わせて俺に頭を下げた。俺にあれほど言われたのにめげないとは......鈴木は本気でその後輩のことが好きらしい。まあ、印象を聞くくらいならしてやっても良いだろう。
「ウザイとか思われてても泣くなよ?」
俺が苦笑しながら承知すると、鈴木はパァッと顔を明るくして
「霊群、本当にありがとう」
と、俺の手を握った。
現金な奴である。
⭐︎
放課後、不知火と一緒に帰りたい気持ちをグッと抑えて親友の気持ちに報いた俺は科学部の部室を尋ねた。
「はい。何か御用ですか? というか、どちら様ですか?」
首を傾げながら部室の扉を開けてくれたのは何処か、不知火を思わせるような綺麗な黒髪をツインテールにした少女だった。
鈴木曰く、今日、部室に来ている部員は彼が想いを寄せている後輩ちゃんだけとのことなのでこの子が例の後輩ちゃんなのだろう。
「三年の霊群だ。鈴木の友達」
成る程。柔らかくも何処かピリッとした雰囲気を放つ彼女は確かに俺の目から見ても魅力的に映った。若干、あどけなさが残りつつも『ツン』としたオーラを纏う優等生的な雰囲気の彼女は絶妙なバランスの上に美を築いている。
これはアイツが惚れるのも無理は無い。
「あー、秋也さんの......」
しかも、名前呼び。これは勘違いしちゃうわ。
「鈴木とアンタが仲良いって話を聞いてさ。ぶっちゃけ、どう思ってる? アイツのこと。鈴木には言わないから本音を聞かせて欲しい」
俺は早速、本題である鈴木の印象について彼女に聞いた。因みに当の鈴木は先に部室に潜入しており、掃除道具入れの中で聞き耳を立てている。
「ええ〜? 何ですかその質問。......ぶっちゃけて良いんですか?」
「ああ。頼む」
俺がそう言うと、困惑した様子で唸りながらも彼女は口を開いた。
「はっきり言って、ちょっとウザいんですよね〜。何を勘違いしてるのか、凄い馴れ馴れしくして来ますし」
その瞬間、ガンッという音が掃除道具入れの方から聞こえて来た。
「そ、そ、そうなのか......?」
「まあ、悪い人じゃないのは分かるんですけど。実際、此方としては迷惑してると言いますか。気持ち悪いんですよ。秋也さんのお友達ならそれとなく注意しておいて頂けると助かります」
可愛い声と可愛い顔から悪魔のような言葉が放たれる。嘘偽りの無い本心から出たその言葉は的確に鈴木の心を抉っていることだろう。
「あ、あ、そ、そうか。あ、ありがとう」
「待ってください。貴方が教えるように頼んで来たんですから、もう少し愚痴に付き合って下さい」
「い、いや、それ以上は......」
「それ以上は、どうなんですか?」
意地の悪い笑みを浮かべる少女。それ以上は掃除道具入れの鈴木の生命が危ないんだよ! 俺はそう叫びたかった。
「......何でも無いです」
「そうですか。それにしても本当に秋也さんって、最低というかズルい人だと思いませんか?」
そう言いながら少女は掃除道具入れにもたれ掛かる。
「と、と言うと?」
「だって、自分で聞く勇気が無いから霊群先輩に私が秋也さんのことをどう思ってるか、聞かせたんでしょう? あの人」
「っ!? いや、そ、そんなことは......」
背筋が凍った。この少女はヤバい。俺の直感がそう言っている。
「じゃあ、何なんですか? これは?」
少女はガチャリと掃除道具入れを開けて、中に入っていた鈴木を指さした。
「......え」
恐怖と絶望と驚愕が混ざったようは表情で鈴木は声を漏らす。
「あ、因みに私、最初っから隠れてること知ってましたからね」
顔を真っ赤にする鈴木を見て、少女の声はどんどん明るくなっていく。
「く、うっ......」
「安心して下さい。さっき私が言ってたこと全部嘘なので」
「ほ、んとか?」
「ええ。6割くらいは嘘です」
涙を必死に堪える鈴木に笑顔でそんなことを言う少女。何コイツら。超高度なSMプレイでもやってんのか?
「あの、俺、帰って良い?」
「あ、どーぞ。秋也さんは私がしっかり、慰めとくので」
いや、泣かしたのお前だろうと思いながらも俺は無言でその場を立ち去った。あの場に居ては気が狂ってしまいそうだった。
あのクレイジーサイコサドと比べたら不知火の方が俺にとっては圧倒的に心への負担が少ない。早く、帰ってぬいもちに生姜焼きを作ってあげなければ。