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5挺目 魅力


 午後6時半、夕食を完成させた俺は料理を盆に載せて家を出た。そして、真横の家のインターフォンを鳴らす。頼む、早く出てきてくれ。料理が重くて盆を持つ手がもうプルプルしているんだ。


「......本当に作ってきたのね」


 俺の願いが通じたのか、思ったよりも早く目付きの悪い彼女は扉を開けて出てきてくれた。


「おう。言ってた通り、豚汁と鮭の塩焼きに納豆と白飯を付けた健康的な粗食だ」


「お前が作った物でも料理に罪は無いものね。頂くわ」


 盆を受け取った不知火はそんなことをぶつぶつと言いながら、その盆を家の奥へと運んでいった。開けておく不知火が居なくなった扉がガチャりと閉まる。


「それじゃ、俺も食べるか」


 そう呟き、自分の家へと帰ろうとしたとき再び彼女の家の扉が開いた。


「食器は洗って後で返すから」


「え? あ、お、おう」


 不知火はそう言うとそそくさと家に帰ってしまった。俺は彼女の帰っていった部屋の扉をボーッと、暫く見つめる。……やはり、俺は彼女に謎の魅力を感じしまっているようだ。



 それから約20分後、俺が丁度飯を食べ終えた頃にピンポーンとインターフォンが鳴った。俺が慌てて、玄関に行き、扉を開けると不知火が立っていた。


「お、ぬいもち。飯、どうだった?」


「可もなく不可もなく、普通の味だったわ」


「いや、正直だな。此処でお世辞を言うタイプじゃないのは知ってたけど」


 というか、もう少し罵られるものと思っていたので驚いているまである。


「……お前、本当にめげないわね。普通、初対面の相手から罵倒されたりしたら苛立ったり傷付いたりするものでしょう。そんな人間に料理まで振る舞って、しかも礼の一つも言われないどころか更に無礼なことを言われたのに苦笑で済ませるとか頭可笑しいんじゃないの?」

 

「自分が無礼なことを言ってる自覚はあったんだな」


「客観的に見てその自覚はあるわ。別に無礼なことを言うつもりで言っている訳ではなく、事実を言ったらたまたま無礼な言動や罵倒になってしまっているだけだけれど。まあ、それだけ何処を見ても欠点しかないお前が悪いのよ」


「……何故かは知らんが、お前にそういうこと言われても全然傷付かないんだよな。寧ろ、清々しいというかキレッキレ過ぎて気持ち良い」


 俺の言葉に不知火は一歩退いて蔑むような目で俺を見た。


「マゾヒストだからなのか、負け犬根性が染み付いているからなのかは分からないけれど、とにかくキモいわね。くたばれ」


「あ、どっちもです」


「......チッ」


 不知火は返す言葉が見付からなかったのか舌打ちをした。


「なあ、不知火さんよ」


「......何」


「明日からも料理、作って持っていって良いか?」


 不知火は無言で俺に盆と食器を押し付けるように返すと、自分の家の扉の取っ手に手をかけて軽く溜息を吐く。


「玉ねぎとトマトは使わないようにしなさい。嫌いだから」


 それだけを言い残して不知火は家に帰ってしまった。……明日は生姜焼きのつもりだったんだが、玉ねぎ抜きで作るか。



 俺、何であんなに不知火と関わりを持とうとしているんだ?


 翌日の休み時間、席に座りながら俺は不意に思った。俺は誰彼構わず女であれば絡みにいくようなチャラ男ではない。何なら女子とマトモに話すことすらままならないまである。蜂須賀のように親しみやすいタイプや入矢達のようなクソ野郎なら話せるが、それは例外だ。


 ......ということは不知火も例外ということか。確かにアイツ、女子の中でもマイノリティの中のマイノリティみたいな性格してるもんな。それなら女子である不知火と俺が普通に話せることは説明出来る。


 だがしかし、それでは俺が不知火に尋常でない程の興味を持っていることの説明にはならない。う~む。


「......何、ボーッとしてるんだ?」


 俺が頭を抱えていると、背後から低い男の声が聞こえた。


「ひゃいっ!?」


「キモい声出すな」


 男は俺の背後から横に移動してそう言った。


「ごめんなさい」


 鈴木秋也(すずきしゅうや)。俺が唯一、遠慮せずに話せる数少ない友人だ。まあ、蜂須賀や不知火といった面子がその中に増えた訳だが。


「で、何をボーッと悩んでたんだ?」


「いや、別に悩んでた訳じゃねえよ。ただ、イヤフォンで音楽聴いてただけ」


「イヤフォン、耳から両方取れてるぞ?」


「あ」


「あ、じゃねえよ。嘘つくなよ」


 鈴木が苦笑しながら言う。そんな彼に俺は軽くかぶりを振った。


「大したことじゃないから気にしないでくれ。クッソどうでも良いことだから」


 俺が笑いながら言うと、彼は訝しげに此方を見たのち、軽く笑った。


「そうか。お前ってどんな曲聴くんだ? 多分、アニソンとかなんだろうが」


 そう言いながら鈴木は俺のイヤフォンと繋がっているスマホの画面を見る。案の定、そこには動画投稿サイトに投稿されたアニメのオープニングの歌ってみたが映っていた。


「やっぱりか」


「うっせえ。お前も同じだろ」


「まあな。最近の流行りの曲とか一切分からんし、洋楽はもっと分からん」


「激しく同意だ」


「んで、誰がカバーしてんだ? ん? ふぉすふれえっせんす?」


 読みにくそうに鈴木は首を傾げながら動画の投稿者の名前を読む。


「フォスフォレッスセンスな。貴様、あの歌姫を知らぬと言うのか」


「知らん」


「即答かよ。あの子の歌声は良いぞ? 声質は鈴の音のように高い感じなのにキーはかなり低くてな。高音を歌うときは少しだけ無理をしてるらしく声がきゅっと上がるんだ。それがまた色っぽくて美しくて......」


「オタク特有の早口止めろ。推しの魅力を布教したい気持ちはよく分かるから帰ったら何曲か聴いといてやるから」


 鈴木は溜息を吐きながら言う。


「マジで!? やったあ! 秋也君大好き!」


「......ただ」


「ただ?」


「その代わりと言ってはなんだが、相談、乗ってくれないか」


 手を合わせて鈴木が頭を下げた。


「悩みがあったのお前の方じゃねえか!」


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