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「それから父さんは酒に溺れてとても話が出来る状態じゃない。僕もこんなだから……。それに、元はといえば誠の苦しみに僕が気がつけなかったから、だからみんな死んだ。全部、僕のせい。だから死んで、せめて誠と母さんに謝ろうって……。だからあの日、死のうとした」




いつの間にか2人の線香花火は消えていた。


しばらくの間沈黙が流れる。




麗が花火を水の入ったバケツに入れた音がした。


次の瞬間、僕はなにかの温もりに包まれた。


それが麗だと気づくのに時間はかからなかった。


麗が僕の頭を優しく撫でる。

麗の手が優しくて、穏やかで、僕がここにいてもいいと言って貰えているようで、切なくて視界がぼやけた。




『……ついこの間出会ったばかりの私が、優は悪くないよとか、優のせいじゃないとか無責任なことは言えないけど……だけど、これだけははっきり言える。……辛かったね。抱えきれないくらい大きなものを全部自分1人で背負ってたんだね』




麗の声には涙が滲んでいた。

それにつられるようにして、僕の目からも栓を切ったように涙が際限なく溢れてきた。



「怖かった……。辛かった……。

皆、僕のせいでいなくなって……今まで当たり前だと思っていた世界が一瞬で無くなって……」



涙のせいで、言葉が詰まる。

頭も上手く働いてなくて、自分でも何を言っているのか理解してない。


ただ、どこかから言葉が、感情が溢れてきて、そのまま考える暇なく喉から叫びとなって飛び出す。



「他の人からしたら、被害妄想激しすぎって思われるかもしれないけど、……でも、どうしても、僕がっ、いたから、……死んじゃったって、思えて」




「……こんな僕が、生きてていいのかなぁ」




『……優は、どうしたい?』



優しく穏やかな声で、麗がそう問う。



僕は、どうしたいんだ?


僕は……


僕は……、



「生きたい……」



喉から絞り出したのに、その声はとても小さかった。


けれど、麗には届いていた。


僕の体からぬくもりが離れ、代わりに肩に麗の手が乗せられる。



『……うん。私も優に生きていて欲しい。

それに、優が死んじゃったら私の生きる理由無くなっちゃうでしょ?』



眉を下げ、優しく微笑みながら麗が言う。



それに何故かとても安心して、涙は既に止まっていたのに、視界がまたぼやけ始める。


僕は何も言葉を発することができず、ただ麗を見つめていた。



麗は少しの間をあけ、また口を開いた。



『……私は優といて、こんなに幸せだよ。

だから優は、周りを不幸になんかしてない。

少なくとも私は、優に救われてるよ?

だから、自分で自分をそんなに追い詰めなくてもいい。

否定しなくていい。

自分だけは自分のこと肯定してあげなくちゃ、悲しいよ』



続けて麗が言う。



『優は、幸せになってもいいんだよ』



その言葉、声色と表情、肩に伝わる麗の手の温もり全てが僕を暖かく包み込むみたいに心に響く。



声を出したらまた、沢山溢れてきそうで口をぎゅっと結んで耐える。


でも我慢できずに僕の目からひとすじの涙が零れた。



僕はうなだれて、止まらない涙を受け止める。



そんな僕の背中を麗は『大丈夫、大丈夫』と呟きながら、優しくさすっていてくれた。



僕は、麗が僕の過去を知ったらもう二度と麗とは会えないと思っていたし、僕もそうなることを望んでいた。


罵倒されて蔑まれて、幻滅されて。


僕にとっての心地よいこの時間が失われることが、誠や母さんへの償いになると思っていた。



しかし麗は僕を過去ごと受け止めてくれた。


生きていていいと、幸せになってもいいとさえ言ってくれた。



麗がそう言ってくれたからといって僕の罪が消えるわけではない。



だが、僕は普通に生きたいと思ってしまっている。



恋でも、ましてや愛なんて大それたものでは無い。


それでも、ただ、麗の隣にいたいと願ってしまう。



そんな大きな矛盾と葛藤が僕の心に渦巻いていた。



自分に自信が無い時、絶望に打ちひしがれている時、自責の念に駆られている時、「生きていていいんだよ」「幸せになってもいいんだよ」ってただそれだけの言葉なのに、心がとても軽く優しくなれるのってなんでなんでしょうかね?(^_^;)

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