懺悔と罰の理由 ( 1 )
いよいよこれから優の過去が明らかになります!!
僕はおぼつきながらも、少しづつ話し始めた。
「僕には親友がいたんだ。家が2軒隣で、家族間の交流もあったから赤ちゃんの時から一緒だった。霧矢誠っていうすごい良い奴でさ。……
⋯⋯回想⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯
「くそっまた負けた。誠は強すぎるんだよ!」
『“優”が弱すぎるだけじゃなくて?』
今僕は誠の家でゲームをしている。
中学校までは一緒の学校だった僕と誠だが、高校ではお互い別々の道に進んだ。
誠はとても優秀だったので、ここら辺じゃ有名な私立高校に、僕はそこそこの公立高校に入学した。
だが、僕らは割と頻繁にこうして会って一緒に遊んでいる。
誠といる時は何も気を使わなくてよかったので、とても居心地が良かった。
「それよかさ、最近高校どう?彼女できたか?」
少しの沈黙の後誠は静かに口を開いた。
『う〜ん、中学までの方が楽しかったかな。なんか勉強ばっかりで正直気が滅入るっていうか。てか彼女なんかできるわけねーだろ!』
そう言った誠の顔が少しだけ曇って見えた気がした。
「そっか。僕も中学のが楽しかったな〜。誠がいたし」
誠の顔を見ながらそう言うと、同じように誠も真剣な顔をして僕に言った。
『俺も、“優”がいたからすごい楽しかったよ。……ありがとう』
急に改まって言われると、なんだかくすぐったい気持ちになった。
「急にやめろよな、そんな真剣に。なんか調子が狂う」
『ごめんごめん。なんか、今言いたくなった』
なんじゃそりゃ、と思った。
やっぱり今日の誠はどこか変だ。
何かあったのだろうか。
少しの違和感を覚えたが、僕は深く追求しようとはしなかった。
それからはいつもと何ら変わりなく、ただ時間だけが過ぎていった。
「じゃあ僕そろそろ帰ろうかな。次いつ空いてる?」
『明後日の夜』
「了解。次は僕の家な」
『おう』
僕らは遊ぶ度に毎回こうして次の予定を立てている。
ちなみに2人ともゲームが大好きなので遊ぶ時は暗黙のルールでお互いの家で順番に遊ぶことになっているのだ。
「じゃーな」
そして僕は誠の家を後にした。
___それから1ヶ月ほど経った。
『よっ』
そう言いながら手をあげて俺の部屋に誠が入ってきた。
表情や態度こそいつも通りだったが、なんだかいつもと違う気がした。
「誠、なんかあったか?」
そう問うと誠は左の耳を触りながら笑って、
『別になんもねーよ』
とだけ言った。
僕は知っている。
誠は嘘をつく時、必ずといっていいほど自分の左耳を触る癖がある。
やはり誠は嘘をついているのだと確信した。
どんなことを隠そうとしているかは分からないが、言いたくないことを無理に聞くことは無神経だと思った僕は、そのまま何も触れずに過ごした。
『“優”なんかゲーム上手くなった?前より手強いんだけど』
確かに以前よりは拮抗した戦いになっていた。
「そーか?誠が下手になっただけだろ」
そう言うと誠は少し困ったように笑い、『そうかも』と呟いた。
そこで僕は何故かとても嫌な予感がした。
誠が隠していることが、とんでもない事なんじゃないかと。
その後はいつも通り時間が過ぎていき、誠は僕の家から2軒隣の自分の家へ帰って行った。
それから数日、僕はいつもと変わらない日々を送っていた。
朝起きて学校に行き、退屈な授業を受け、家に帰りご飯を食べて寝る。
そして時々誠の家に遊びに行く。
それが、当たり前だと思っていた。
ある日、学校帰りに高校の仲の良いやつらとゲームセンターへ寄り道した時、ある高校生の集団の中に見慣れた後ろ姿を見つけた。
誠だった。
この前、勉強ばかりで気が滅入ると話していたが、他の高校生と変わらず、普通に遊んでいる様子を見ていると思ったより楽しそうで安心した。
この前の嫌な予感は、どうやらただの気にしすぎだったらしい。
僕はほっと胸をなでおろし、そのまま遊んで家に帰った。
次の日、やけに騒がしい外の音で目を覚ました。
そして次の瞬間母さんがとても慌てた様子で部屋に入ってきた。
母さんの顔は、青ざめていた。
嫌な汗が、額を伝う。
母さんがまるで自身を落ち着かせるように、ゆっくりと口を開いた。
『誠くんが……』
母さんの言葉を聞いた瞬間、僕はパジャマのまま自分の部屋から飛び出した。
急いで階段を駆け下り、家を出て誠の家へと向かう。
────誠くんが、自殺した────
母さんは確かにそう言った。
誠が自殺?
いや、そんなはずあるわけない。
だって昨日まで元気に過ごしていた誠を僕は見た。
きっと母さんの勘違いだ。
そうに違いない。
誠の家に行ったら何食わぬ顔で出てきて、何考えてんだよって笑い飛ばしてくれるはずだ。
外に出て、誠の家の方角を向いた瞬間、顔から血の気が引くのを感じた。
誠の家の前に、パトカーと救急車が止まっていたのだ。
嘘だと思いたかった。
走る気力がなくなり、よろよろと誠の家へ向かう。
ちょうどその時、誠の家から担架を持って、警察と思われる人達が出てきた。
その担架には灰色の布が被せられていた。
「誠……」
僕はぽつりと一言呟いた。
だんだんと歩くスピードが加速する。
しまいに僕は走り出していて、その勢いのまま担架の前までたどり着いた。
「誠っ……」
僕は叫んだ。
警察に腕を掴まれて止められる。
けれど僕の勢いは収まらなかった。
「誠……お前、死んだなんて嘘だよなぁ!?昨日まで元気だったのになんで急にいなくなるんだよ!?もっとお前とゲームしたかった。沢山沢山遊びたかった。死ぬなよ誠……。戻ってこいよ……」
僕はその場に崩れ落ちた。
涙など、一滴も出てこない。
ただただ、この現実が受け入れられなかった。
それからどうやって家に帰ったのか覚えていない。
気がついたら自分の部屋のベットの上で横になっていた。
僕はしばらくの間、魂が抜けたかのように何も考えられず、ただじっと天を仰いでいた。
そのまま何時間が経ったのだろうか。
気がついた時には外は既に薄暗くなっていた。
僕は何気なくスマホを手に取り、メッセージアプリを開いた。
その刹那、僕はその画面に釘付けになり目が離せなくなった。
トークの1番上に、今はもういないはずの誠からのメッセージが届いていた。
一瞬、やはり誠は死んでなどいないじゃないかと思った。
けれどその期待は無情にも儚く散ることとなる。
僕は震える手でトーク画面を開いた。
1文字1文字丁寧に追いかける。
【今までありがとう。
“優”のおかげで毎日すげー楽しかった。
でも、もう無理そう。
ごめんな。
突然いなくなる俺を許して欲しい。
“優”は俺にとって1番大切な存在でした。
俺と出会ってくれてありがとう。じゃーな。】
その文章を読み終えた時、僕の目から涙がとめどなく溢れてきた。
僕はその時、唐突に理解した。
誠はもういないのだ、と。
「うっ……あぁ……まこと……」
涙が止まらないせいでまともに息もできない。
小さな部屋の中、僕の嗚咽だけが響いていた。