停滞 (2)
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『ばいばい、優』
朦朧とする意識の中、君が遠ざかっていく。
顔がぼやけてよく見えない。
───行かないで。
僕は必死に君を追いかける。
でも、追えば追うほど、手を伸ばすほど、君は僕から離れていく。
行かないで、消えないで───
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ピピピピっ ピピピピっ
麗の余命を知った翌日、僕は目覚ましの音で現実に引き戻された。
その夜見たのは、妙にリアルな、麗がいなくなる夢。
僕の目元はうっすらと濡れていて、それは、麗は僕にとってとても大切な存在なんだと再認識させた。
出会ってまだ3ヶ月も経っていないというのに、麗は僕に生きる希望を与えてくれた。
たくさんの言葉をくれた。
生きていてもいいと、思わせてくれた。
そんな麗がいなくなったら僕はどうなってしまうのだろう。
前を向いて生きていけるのだろうか。
麗のいない世界で。
僕は無気力な体を無理矢理起こし、自分の部屋を出た。
階段を下り、洗面台に向かう。
鏡の前に立った時、とても酷い顔をしている自分と目が合った。
冷たい水で顔を洗い、無理やり脳を目覚めさせる。
再度顔を上げた時でも尚、自分の酷い顔は変わらなかった。
その後リビングへ向かうと、相変わらず酒臭い匂いが充満している。
その中心に、大量の酒の缶と共に、机の上に突っ伏して寝ている父さんの姿があった。
そんな父さんを横目に、僕は台所に行きカップラーメンを手に取った。
母さんがいなくなってからまともなご飯を家で食べていない。
毎日、お腹が空くと、家にあるインスタントのご飯をを適当に食べている。
カップラーメンに湯を注ぎ、しばらく待つといい匂いが漂ってきた。
ラーメンを手に持ち、父の座っている背の高いテーブルでは無い、少し背の低いテーブルにむかい、床に腰を下ろす。
三分後、蓋を取ると湯気が僕の顔にかかった。
僕は美味しそうな香りを漂わせたラーメンを勢いよく啜った。
こんな時でもちゃんとお腹はすくし、ちゃんと味を感じる。
そんな自分が少し恨めしい。
ふと、この生活がいつまで続くのだろうと考える。
生きたいと願っておいて、こんな生活では生きていても意味が無いのではないかと思う。
僕はこれからどうすればいいのだろう。
どんなふうに生きていけばいいのだろうか。
これから先、母さんも、誠も、麗もいない世界で、誰かと笑っている自分が想像できない。
未来が見えない。
真っ暗だ。
この先僕にはどんな未来が待ち受けているのかは分からないが、少なくともこんな生活を続けていては、まともな大人にならないだろう。
そんなことを考えながらも、僕はラーメンを食べ続けた。
食べ終わったあと、目の横に流れた汗を拭った時、自分の目尻が少しだけ濡れていることに気づいた。
未来が見えないことへの恐怖か、それとも誠と母さんがいなくなったことへの悲しみか、はたまた麗がいなくなることへの絶望感からなのかは分からない。
ただ、どうしようもない孤独感が僕を襲っていたことだけは確かだった。




