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停滞


あの約束を交わしたあと、僕達はすぐに解散した。


今は、1人帰途についており、真夏の暑い風に背中を押されながら、ゆっくりと、歩いていた。

今日は集合がお昼だったからか、現在の時刻はまだ午前0時を回っていない。


何も考えずに、ただ、遠くを見つめながら歩いていた。


何も考えたくなかった。


麗がいなくなるという事実を。


40分程で家の前に辿り着き、重たい扉を開けた。


開けた瞬間漂ってくる、酒臭い匂い。

母さんが死んでから、この悪臭が毎日漂っている。



「ただいま」



ぼそっと独りごち、一直線に自室へ向かう。


自室まで行くにはリビングにある階段を昇らなければいけないので、嫌でもその悪臭が最も酷い場所を通らなければならない。


リビングに入ると、随分と小さくなった背中をした父さんが酒を飲んでいた。



『ああ?“僕”か。おかえり』



「ただいま」



いつも交わす言葉はこれだけだ。


行ってきますと、ただいま。

母さんがいなくなってから、このやりとりしかしていないような気がする。


いつもと同じように言葉を交わし、そのままリビングを素通りし、自室へと続く階段を上る。


ようやく部屋にたどり着き、張り詰めていた力が抜けたのか、僕はその場に座り込んだ。



毎週、麗があの海にいることが当たり前になっていた。


あの瞬間、麗がそばにいる時だけは、自分が今生きているのだと、実感することが出来ていた。


いつからか感じていた、心の安らぎ。

僕の生きる理由は、麗だった。


ふと、初めて会った時の麗の言葉を思い出す。


“私の生きる理由になってくれない?”麗はそう言った。“ある事がきっかけでずっと生きる理由を探していた”とも。


麗が生きる理由を探していた理由が、もしかしたら病気と関係があるんじゃないか?


僕だったら、家族も友達もいて毎日楽しく過ごしていた時に、突然不治の病を罹って、あと少ししか生きられないと告げられたら、いつ死ぬか分からない恐怖に耐えながら毎日を過ごすよりも、自ら死にたいと考えてしまうと思う。


もし、麗も同じように考えていたのなら、、、。


というか、なぜ麗はあの日、僕が死のうとしていた日、海に来ていたのか?


やはり麗は、あの日死にに来ていたたんじゃ───。


"人の感情"という答えのでない疑問が頭の中をぐるぐると駆け巡った。



「もう、疲れた」



そう呟く僕の声だけが、小さな部屋の中に響き渡った。


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