強くて、弱い人 (4)
僕の涙が止まるまで、麗はずっと僕の背中を撫でてくれていた。
これではどちらが励まされているのかさっぱり分からない。
僕の涙が止まり落ち着いてから、麗がいたずらっ子のような顔で僕に向かって言った。
『ねえ、ちょっとだけ、悪いことしてみない?』
「悪いこと?」
悪いこととはなんだろうと考えをめぐらす。
麗のことだから、犯罪に手を染めるような悪いことではないとは思うけど。
『そう。悪いことしてる時って、なんだか楽しくならない?』
ね?と問いかけてくる麗の目は、何かいいことを思いついた時の、いつも通りのきらきらとした目に戻っていた。
「そうだね」
『よし!そうと決まれば今から近くのコンビニに行こう!』
そう言って勢いよく歩き出した麗に僕は早歩きでついて行った。
幸いこの海から徒歩5分程の距離にコンビニがあり、すぐに辿り着くことができた。
「何を買うの?」
まだ何を買うのか聞かされていない僕は、麗の背中に問いかけた。
『ふっふっふっふ〜』
何か悪いことを企んでいるような笑い方をしながら麗はコンビニの中をそそくさと進んで行った。
そうして辿り着いた先は、お菓子コーナーだった。
コンビニと聞いた時点で、そんなことだろうとは思っていたが、犯罪係ではなくて安心したのも事実だ。
『やっぱりこれでしょ!』
そう言って麗が手に取ったのは、しあわせバター味のポテトチップスだった。
しあわせバターは僕が一番好きなポテトチップスだ。あのバターの甘さとちょっとの塩気さが絶妙にマッチしていてとても美味しい。
『こんな深夜にポテチなんて、めちゃめちゃ悪いことしてる気がすることない!?背徳感を味わえるよね』
「たしかに。それに昼間に食べるよりも、深夜に食べた方が何故か美味しく感じるよね」
『そうなんだよ!!謎だよね。優の1番好きな味って何?』
「今麗が持ってる、しあわせバターが1番好き」
『じゃあこれにしよ!』
そんなバカげた会話をしながら、しあわせバター味のポテトチップスを手に持ち、お会計へ向かった。
無事にポテトチップスを手に入れた僕達はまた海へ戻り、2人で並んで座って、購入したポテトチップスを開けた。
その時、麗がドヤ顔で、ポテトチップスのパッケージの底の両端を中に織り込むようにして押し込み、こうすることで自立して、かつ腕を奥深くに突っ込まなくてもポテトチップスを取ることができるんだよと説明をしてきた。
僕が「知ってる」と言うと、不貞腐れたような顔でこちらを見つめてくる。
暫く見つめあっていたが、お互い堪えきれなくなって同時に吹き出した。
麗と笑いあっている時間が楽しい。
この笑顔が、見られなくなるのは、いやだなあ。
僕は、“いつも通りの僕”でいることに神経を集中させた。
気を抜いたら、また情けない顔を見せてしまう。そして、麗に心配をかけてしまう。そんな気がしてならなかったからだ。
麗がいなくなるなんて、全く想像ができない。
そう考えると、麗は僕にとって隣にいて当たり前の存在になっていたということに気がついた。
当たり前なんて存在しないと知っていたはずなのに、いつの間にかまた、当たり前を作ってしまっている。
僕は何も学習してないな、と苦笑した。
楽しそうに笑っている麗は、そのままポテトチップスに手を伸ばし、頬張った。
『ん〜!やっぱりおいしい!!』
幸せそうに食べる麗を横目に、僕もポテトチップスに手を伸ばした。
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ポテトチップスを食べ終えた僕達は、寄せては引いていく波を、真っ直ぐに見つめていた。
『ねえ、優』
麗が静かに僕に話しかける。
「ん?」
『もし私がここに来れなくなっても、優はこの海にしばらくの間、来続けてくれないかな?何かは言えないんだけど、優に見せたいものがあるの』
心臓が、どくんと跳ねた。
麗がここに来られなくなる。
つまりそれは、病状の悪化か、死。
麗がいなくなることなど、考えたくもない。
この平穏な時間が、ずっと続いて欲しい。
「分かった」
僕は震える唇を何とか抑え、返事をした。
それと同時に、麗が僕に見せたいものとはなんだろうと考える。
麗がここに来ることが出来なくなった後に見せたいもの?
麗はそこにいないのに、何をどうやって見せるというのだろうか。
いくら考えても分からない。
ただひとつだけ分かっていることは、僕がそれを見る時に、麗は僕のそばにいないということだけだった。
すごく間が空いてしまいました、、。すみません。
強くて、弱い人編終了です!
今年中に完結させることを目標に、ただ今執筆しております、果たして出来るのやら(笑)




