強くて、弱い人 (3)
そう言って、麗は来た道を引き返そうとした。
このままでは、僕が呆れてるって勘違いされたままになってしまう。
もう後悔はしたくない。
どうにかしてこの気持ちを伝えたい。
なにか、言わなければ。
「……死と向き合うって、ただ死のことを考えることだけなのかな?」
必死頭をフル回転させて、口から出た言葉がこれだった。
『え?』
麗は引き返す足を止め、こちらを振り返る。
僕は自分で頭の中を整理しながら、必死に言葉を探した。
一言一言丁寧に、ちゃんと麗に伝わるように。
「麗は自分の死を自覚して、今を精一杯生きてる。それって逃げてることになるの?僕はそうは思わない。……麗は、逃げてなんかいないよ」
僕が口を閉じたあと、麗は全然口を開かなかった。
いつもならすぐに何かを返してくれるのに。
その少しの沈黙が今の僕には何故か耐えられなくて、焦って次の言葉を探す。
「ほら、麗も僕に言ったでしょう?強いと弱いは紙一重だって。麗だって自分の弱さを自覚して、受け入れてるじゃないか。だから麗は強いし、麗が逃げだって言ってるそれは、逃げなんかじゃない」
いつもよりも少しだけ、早口になる。
「……それに、もし仮に逃げだとしても、それの何が悪いの?死ぬ事が怖いなんて、そんなの当たり前だよ。僕だって、麗と出会った日、死のうとしていた日、決心していたはずなのに、怖かったよ。だから、その……。えっと……」
その続きが出てこない。
必死で探していると、麗が僕の方に近づいてきて、僕の頬を指でなぞった。
『なんで、優が泣いてるの』
麗のその言葉に、初めて僕は今泣いているのだと気がついた。
言葉を紡ぐことに必死になりすぎていた。
1度泣いていることを自覚したら、次から次へと溢れてきた。
本当に、なぜ僕がこんなに泣いているのだろう。
泣きたいのはきっと、麗の方なはずなのに。
「ごめんっ……。なんでだろ」
自分で目を拭うが、拭っても拭っても自分の拳が濡れる。
早く止まれ、そう思えば思うほど、口をかみ締めればかみ締めるほど、鼻の奥がツンっとして涙が溢れてくる。
『ありがとう、優。私の逃げを、こんなに必死に肯定してくれて』
麗はそんな僕の頭を撫でながら、優しい声で呟いた。
『優の言葉聞いてたら、逃げるのも悪くないなって思えた。私も、自分を肯定できそう。ありがとう』
麗は、何度も何度も変わらない優しい声音で、ありがとうと呟いていた。
実は"強いと弱いは紙一重"という言葉は他の人からの受け売りなんです。その言葉を聞いた時に妙に自分の中で納得して、今もそのスタンスで生きています。ずっと意識している訳では無いですが、。(笑)なんか奥が深いですよね〜。




