デートとは、カップルではなくてもするらしい。
『そろそろ出よっか』
麗のその言葉で、このお店に随分と長居してしまっていたことに気がついた。
「そうだね」
そうして僕らは焼肉店を後にした。
『これからどうする?優は予定ある?』
店を出たあと、麗が僕に聞いた。
僕に予定があるわけがない。
それを知っていて聞いてるのか、はたまた意識せずに悪気なく聞いているのか。
麗は確実に後者だ。
「予定なんて無いよ」
それを聞いた麗はしばらくの間『うーん』と何かを考えたあと、ぱっと顔を明るくさせた。
これはいつもの麗の突拍子の無いことを思いついた顔だ。
『ねえ!じゃあこれからデートしよう!』
「???」
デートってあれか?
俗に言うカップル達がが仲良くおててを繋ぎ合いながら、うふふあははと共に遊ぶあれか?
僕があからさまに挙動不審になっていることに麗が気がついたのか、笑いを堪えるようにして僕に言った。
『ねえ、デートってカップルだけがするんじゃないんだよ?(笑)好き合ってるふたりが一緒に出かけるのもデート!!』
「すきあってる、ふたり?」
思わず声に出してしまった。
『え、優は私の事好きじゃないの?私は好きだよ?少なくとも、君に生きて幸せになって貰いたいと思うくらいには』
そういうことかよ。
1人で変な勘違いして、狼狽えて、先程までの僕が馬鹿みたいに思えてきた。
それを誤魔化すように僕は口を開いた。
「そんなこと僕だって思ってるに決まって…る」
言っていて急に恥ずかしさが込み上げてきた。
これが狙いか。
なんかしてやられた感がすごい。
こんなことには慣れていない僕の顔はきっと赤くなっているだろう。
『ほんと?嬉しいな』
麗はそんな僕に向かってニヤニヤしながら言った。(客観的にはいつもの微笑みなのだが、僕には上手くいったという小悪魔的な笑みに見えたのだ)
今の一連の会話が麗の意図したことかは分からない。
だがもしそうなら、麗は相当の策士だ。
『じゃあ今から行こう!私ね、見に行きたい映画があるの!あと水族館行きたい!』
するするとやりたいことが出てくる麗は純粋にすごいと感じた。
「いいよ。もう全部行こう」
それから僕らはまず映画館へ向かった。
女の子が見たいというのだから恋愛モノの映画かと思っていたが、思いのほか麗が選択したのはコメディ映画だった。
主人公は34歳独身のしがないサラリーマン。
朝から晩まで働き潰し、サービス残業は当たり前。
いわゆる社畜と呼ばれる暮らしを送っていた。
ある日取り忘れていた有給を消費して得た休日に、何気なくつけたテレビに映し出されたコント。
それがなんとも滑稽で、久しぶりに声を出して笑った男は、何故かそれをきっかけにお笑い芸人になろうと脱サラし、1からお笑いのてっぺんを目指そうと奮闘する物語である。
男は、様々な紆余曲折を経た後、某有名お笑いグランプリで優勝こそ逃すものの、準優勝という結果を残したところで映画は終わった。
『すっごいおもしろかったね!面白いのに最後は感動的で、色んな感情がごちゃまぜだよ(笑)』
「最後の結果発表とか結構ドキドキした」
映画が終わったあと、小学生のような感想を言い合いながら、僕らは近くにあった水族館へ向かった。
時間も時間だったので、ちょうどやっていたナイトアクアリウムとやらに初めて行った。
期間限定でやっていたらしく、なんとも運が良い。
そこは入館料は500円で、そこまで大きい水族館ではないが、展示ひとつひとつに様々な工夫が凝らされており、ちょっとした有名スポットだった。
『ねえ、すごい!可愛い!』
「初めてナイトアクアリウム来た。なんか、いいね」
2人で年端もなくはしゃぎながら全エリアを見て回った。
水族館を出たのは午後8時頃。
その後軽く近くの定食屋さんでご飯を食べ、その辺をぶらぶらと散歩した。
静かな夜。
いつもは何かとずっと喋っている麗も口を開かない。
二人の間には沈黙が流れていた。
決してそれは嫌な沈黙ではない。
なにも喋っていないのにも関わらず、示し合わせたように2人の足は、自然といつもの海へと向かって歩いていた。




