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ほかほかの焼肉定食





『うわあ!すごい美味しそう……』




「そうだね」




僕達は今、某有名焼肉店の焼肉定食を食べにきている。


何故こうなったのか……。





…………………………………………………………………………………………




僕が麗の言葉に頷いてから、麗は満足したように笑った。



そしてそれとほぼ同時に、麗の腹の音が鳴った。


なんというタイミング。




『……あはは。ごめん。お腹すいちゃった』





麗は僕から離れ、恥ずかしそうに頭をかいた。


そして何かを思いついたようにキラキラした目でこちらを見る。




『ねえ、ご飯食べに行かない?この辺に行ってみたかった焼肉屋さんがあるの!』




相変わらず麗の切り替えの速さには驚かされる。


先程までとは空気が180度変わった。



僕はいつもと何も変わらない麗に安堵し、それと同時に笑いが込み上げてきた。


口からかすかに笑い声が漏れる。




「はははっ。やっぱり麗は麗だ。……行こう、焼肉屋さん」




『ちょっとー!なんかバカにしてる?』




「してないしてない。麗のおかげで気持ちがすごく楽になった」




『うーん、そっか。うん。それならよかった。(?)』





納得しているのか、していないのか微妙な声を上げ、麗はこちらに手を伸ばした。





『さあ、行こう!』




僕に向けられた白く細い手。


その手を取れば、僕は真っ直ぐに自分の道を歩いてゆける。


唐突にそんなことを感じた。



そしてゆっくり、麗から差し伸べられたその手を掴んだ。



…………………………………………………………………………………………




そして今に至るのだが、これがまたとても美味しい。


あの後で、食事が喉を通るか不安だったが、肉を口に入れた瞬間、箸が止まらなくなった。




そういえば、こんなにまともな食事をとったのはいつぶりだろう。


母さんがいなくなってから、僕と父さんだけでは料理を全くしないため、カップ麺やコンビニで済ませる日がほとんどだった。


どうせ食欲もあまりわかなかったので、何も食べない時もあるくらいだった。


今冷静になって考えれば、不健康極まりない生活だった。



こんな生活を続けていたら遅からず生活習慣病になりそうだ。


そんなことになったら、あれだけ大々的に誠に生きたいと宣言しておいたくせに、面目が立たない。


明日、自分で料理をしてみようと思った。





麗もまた、僕の目の前でとても美味しそうに定食を食べている。


口に入れる度に目を細め笑顔になる。


その姿が本当に幸せを体で体現しているようで、見ているこちらまで、なんだか幸せな気持ちになってくる。




お互いに、あまり口を開かずに黙々と食べ進め、約20分ほどで2人とも完食した。




『ご馳走様でした!!美味しすぎて話すことすら忘れてたよ(笑)』




「僕も。久しぶりにこんなに美味しい物食べた」




『よかった。ちゃんと美味しいものを美味しいって思いながら食べられて』




僕の方を笑顔で見つめながら麗はそう呟いた。



ちゃんと美味しかった。


誠と母さんがいなくなって、僕の心はもう生きていないと思っていたけれど、まだ死んでいなかったみたいだ。



いや、きっと僕の心は死んでいた気がする。


誠が死んで、立て続けに母さんも死んで、限界だった。


けれど、そのボロボロになった心を麗が拾って、温かく包んで、僕に返してくれた。


麗が僕を救ってくれた。

それは紛れもない事実だ。



もし、あの日、あの海で麗と出会っていなかったら今頃僕はどうなっていたのだろう。



───僕は死ぬことに成功していたことだろう。



いや、もしかしたら途中で死ぬことを恐れ、自分から死ぬことをやめていたかもしれない。


そうしても僕の心の傷は癒えないまま。

それを一生、誰にも言えず、1人で抱えて生きていっていたのだろう。


そう思うと少しだけ怖くなった。



麗と目が合っていた数秒間、僕はそんなことを1人頭の中で考えていた。



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