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許すこと、許されること (5)



『……優』




その沈黙を破った麗の声は、いつものあの優しい声ではなかった。


悲しそうな、それでいて少し怒っているような声。




『それは違うよ。生きてるなら、幸せになりたいって思うことは当然のことだよ。なんで優は幸せになりたいって思ったらだめなの?そんなの卑怯でもなんでもないよ』




麗は少し言葉を切ってから、もう一度、今度はいつもと同じ調子の声で、ゆっくりと言葉をつむぐ。




『……この世にね、幸せになっちゃいけない人なんていないんだよ?生まれた瞬間から人は幸せになるために生きるの』




僕は何も言葉を返すことが出来なかった。




……麗の言っていることは正しいとは思う。


しかしその正しさゆえに苦しい。


世間一般では正しいとされていることが僕らにとっても正しいと、そう思われることが、苦しい。


みんなにとっての当たり前が、僕らにとっては違うという事実が、なんとも言えない疎外感を僕らに与える。




『もちろん悪い事をした人はきちんと償うべきだと思う。……でも優は何も悪いことしてないよ。本当は、ずっと真剣に悩んで苦しんできた優にこんなこと言わない方がいいって思ってた。優の今までを否定してしまうようで。でも、言わせて?……優は何も悪くない』





僕は本当に何も悪くないのか?



僕は自分のすべきことを何一つできなかった。


だから、2人とも死んでしまったんだ。



どんどんと自己嫌悪が湧き上がる。




ああ、もうこれでは何も変われていないじゃないか。



生きたくて、生きたくてしょうがなくて、僕は今日ここに来た。


それなのに結局何も変わってない。


生きて幸せになってもいいのか、という葛藤が僕に絡みついて解けない。



僕はまた、自然と拳を強く握りしめていた。


俯き、その先にある地面を見つめる。



いつのまにか僕の前まで回り込んでいた麗が、僕の拳を優しく包み込んだ。


突然のことに驚き僕は顔を上げた。


目の前には何故か少し泣きそうな麗の顔があった。


そして麗が口を開く。




『……私には優の痛みや苦しみは分からないよ。だけど』




その真っ直ぐと僕を見る瞳から僕は目を逸らせなかった。




『優は何も悪いことしてない。優は2人になんの危害も加えてない。私から見て優はちっとも悪くないよ。そんなに自分を責めなくていい。追い詰めなくていい。……って思ってる』




麗は言い終わると、眉を八の字にして優しく笑った。




『ごめん、こんなこと言って。私はただの人間だから、私がこんなこと言っても優の心は軽くならないってわかってる。……私ね、ずっと優に、幸せになっていいって言ってたけど本当は違うの』




そう言った麗はその続きを言うのを少しだけ躊躇っているように見えた。


そして躊躇いをかき消すように唇をぎゅっと引き結び、それからこちらに目線を向けて再び口を開く。




『……私が優に幸せになって欲しいんだ。この2ヶ月、たった2ヶ月かもしれないけど、優を見てきてこの人には幸せになって欲しいって思った。なんでこんなに優しい人が、こんなにも苦しまないといけないの?って。多分、優が誠くんに抱いてた感情を私は優に抱いてる。……だから本当は私のエゴなの』




そう言った麗はとても悲しそうな、寂しそうな、顔をしていた。



今回は優の感情や、麗の言葉をとても時間をかけて考えました。皆にとっての正解が、自分にとっても正解とは限らない。それを知った時、自分はずれているんだ、って辛くて苦しくなる。この優の感情は誰しもが抱えている苦悩なんじゃないかなと思います。


中途半端な所で終わりますが、長くなりそうだったので途中で切っただけです。すみません。

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