[ 0 ] プロローグ
僕は静かに椅子に腰かけパソコンを開き、SDカードを差し込んだ。
パソコンの画面に懐かしい顔が映し出される。
そこには、あのころと何も変わらない彼女がいた。
僕は震える手でマウスを動かし、なんとか再生ボタンを押した。
彼女はこちらを見て微笑み、ゆっくりと言葉をつむぎ始める。
『あーあー、聞こえてるかな?……久しぶり。元気に過ごしていますか?今から君に伝えられてなかったことを話そうと思います』
そこで彼女は1度言葉を切った。
記憶から薄れていた彼女の暖かく優しい声は、僕にあの頃を鮮明に思い出させる。
自然と目尻に涙が浮かんだ。
本当に、僕にとっては奇跡のような3ヶ月だった。
彼女に出会えたから、僕は僕でいられた。
とても短かったけれど永遠のようにさえ感じた時間。
終わりがこないでほしいと、そう願っていたかけがえのない時間。
けれどやはり永遠なんて存在しないと思い知らされた時間。
もう手の届かない画面の中の彼女が、もう一度ゆっくりと口を開く。
僕は彼女の言葉を1音も聞き漏らすまいと意識を集中させた。
『これは私の──です』
そう満面の笑みで言った彼女と、画面越しに目が合った。