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泣くなよ少女

叫び疲れたのか、酒呑童子ははぁはぁと肩で息をしている。


それにしても、本人ですら分からないと来たか。こうなると打つ手がなくなってくるので大変困る。さて、どうしたものか。


「落ち着いたか?」


「ああ、すまぬ……少し取り乱してしまったのじゃ。召喚された身、こんな事を言うのは忍びないのじゃが、先程も言った通り本当に分からないのじゃ……」


「そっか……まぁ分からんのなら仕方ない。理由が分かるようになる時まで気長に待つしかないか」


少し俯き気味で話すその姿から、本当に申し訳ないと思っているのが感じ取れる。だが、何故そこまで申し訳なさそうにするのかが分からない。


「そんなに気に病む必要は無いって。なんでそこまで落ち込んでるんだ?」


「はぁ……なんでって、折角召喚したバレットが箱を開けてみればスキルはおろか、絶技すら分からぬ得体の知れないものなののじゃぞ……契約破棄されても文句は言えぬ……というか、普通の奴ならそうするじゃろうな」


「……それで?」


少し間を空けて酒呑童子に続きを促すと、肩を震わせながらその赤い瞳に少し涙を浮かべ、怒っているかのようにこちらを見てきた。


「じゃから……じゃから!契約破棄するなら早うせいと言っておるのじゃ!」


そして、そう告げてきたのだ。


まさか、自分から契約破棄の事を言ってくるとは思ってもみなかった。突然の事に少し驚いてしまう。響を見ると、同じく驚いているようだ。まだ続きがあるのか、すぅ、と一息吸うと酒呑童子はその小さな口を大きく開けた。


「スキル等のことを考えると、はっきり言うとわしはバレットとしては少し異質じゃ!無論、わしとて望んでこうなったわけではないがの!」


「酒呑童子……」


「これでも、渚には少し感謝しておる!じゃから……契約を破棄しても、わしはお主に文句は言わぬ!じゃが、出来る事なら早くして欲しい……時間が経つにつれ、未練のようなものが生まれてしまうのじゃ……」


言い切ると、酒呑童子は目を閉じ下を向く。その姿は、親に叱られている子供のようなものを彷彿とさせるものだった。

見ると、少し震えている。




怖いのだ。契約破棄される事が。


恐れているのだ。自分の存在が消えることが。


悲しんでいるのだ。自らの境遇と、本当に短い時間ではあったが関わった自分達との別れを……



不意に、響と目が合う。思っていることは同じようで、互いに頷き合う。動作まで同じところから、やはり心が繋がっているのだと感じる。



元々、そんなとこなどするつもりは毛頭ないと思っていたのだ。だから、今は一刻でも早く、目の前で震えている一人の少女を笑顔にしてみせよう。


なんて、我ながらなんとも気恥しいことを考えているものだ。


「酒呑童子」


「な、なんじゃ……渚」


ビクビクとしながら、左目だけを開けてこちらを見てくる。

はぁ……まったく……困ったやつだ。




……だから、目の前でずっと震えているこの一人の少女を、酒呑童子を、抱き寄せてしまったのは仕方の無いことなのだ。













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