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出会い

すいません!そろそろ過去回想から抜け出します。

 なんで?……


 このちょっと細めの体のライン、顔の形…


 僕の手を掴んでいるのは、10年以上前に妹を生みながら死んだ母だ……



 僕は今起きていることを受け止められないまま、崖の上へと支えられながら登った。


 「お母さん?……お母さんなの?

  ……どうしてここにいるの……?」


 肩を震わせながらそう呟いたが、母は何も答えないで、僕の手を掴んだまま家の方へと歩いた。

 その手は、あの母が死ぬ時とは比べものにならないくらい強くしっかりしていた。


 家に入り、リビングのソファに向かい合って座らせられた。

 と、いきなり母は吹き出して、大声で笑い出した。


 「残念ながらあなたのお母さんではありません。ふふふハハ

  ……ゴメンなさい、でも、おかしくて。

  ……初めまして。(みな)といいます。あなたと同じ鷹丘研究所であなたのお父さんの助手として働いています。

  あなたと同じ年で、あなたのいとこです。

  お父さんに今日はあなたが何をするか分からないので、見張っておいてくれと言われました。

  そしたら案の定、崖から飛び降りようとしていました。」


 なかなか現実が受け止められない。

 …僕は家に引きこもっていたせいで、最近の研究所のことは全く知らない。


 (…….ほんとに、母じゃないのか?…、確かによく見ると、若いし、瞳の色も母より茶色っぽいし、髪もくせ毛ではなくストレートのポニーテールだ。でも、その他はすごい似てる。)


 「なんで、こんなに僕の母に似ているんだ?」


 「あなたのお父さんがおっしゃるには、私は母方のいとこなので、とても似ているということです。それで、母に似ている私だったらバカなことするあなたを止められるとお父さんが考えたのです。みごとに母だと騙されましたね。

  …でも、理由はあるかもしれませんが、崖から飛び降りるなんて駄目ですよ!」


 僕をじっと見ながら身を乗り出してそう強く言ってくる南に、「はい…」としか言えなかった。


 確かに彼女、南は母ではない。

 でも僕は、母を取り戻したような感じがした。

 一年ぶりに人と話した。この人はきっと良い人だ。


 「南さん、僕と友達になってくれませんか?」


 いきなりそんな言葉が口からこぼれてしまった。

 僕はまだ南という存在をちゃんと理解はしていなかった。しかも、異性に向かってこんなこと言うなんて気持ち悪いかもしれない。でも母も妹もいない今、僕は本気で友達が欲しかった。そんな中、彼女は僕の前に初めて現れた友達になりたい人だった。そして、友達になってくれるとも思った。


 「…そうですね〜。一年間も家から外に出れず、自殺なんてしようとする…お父さんからもまだ何があったか聞いていませんが、お辛かったのでしょうね…友達が欲しくなるのも分かります。」


 (うんうん…その通りです。)


 「でも、友達は嫌です。」


 「え~~、なんで……ですか?」


 (いや、完全に「もちろんです!友達になりましょう。」という流れだと思った。)


 南は少し照れながら


 「だって、いとこじゃないですか。まず、家族としてみてほしいです。私もそう見てます。」


 「…うん、そうですね。」


 「えっと、妹は茉弥さんでしたっけ。なんて呼ばれるんですか?」


 「翔介のすけをとって、しょーにい、って…」


 「そうでしたか、なら私は、しょー君って呼びます!

  じゃあ、しょー君は私のこと、みなって呼び捨てでいいです!」


 「今日初めて会ったのに、そこまでなれなれしくて良いんですか!?」


 「もちろん!!家族ですから!

  では、ここからはタメ口っていう決まりも追加で!」


 完全に南のペースで明るく話が進み、僕が自殺しようとしたことなんて無かったことのようになってしまった。


 南の笑顔を見ていると、何かを取り戻したような、何かを頑張ろうと思えるような、そんな力をもらった。


 「み…南。…ありがとう。…これから、よろしく。」


 「こちらこそ!しょー君!」


 およそ一年間、僕の周りに立ち込めていた濃くて暗い霧は、南によって吹き払われ、それに代わってすがすがしい日々が始まった。

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