…お母さん!?…
すいません。過去回想シーンはもうちょっとで終わります…
茉弥が死んだ?
そんな現実受け入れられるわけあるか……
*
茉弥は大学入学後、いじめられていたようだ。
原因は、僕と茉弥がそれぞれ試験で受かったこと。有名な医学研究所のトップである父の指図があって合格したという噂を、落ちた奴らが恨みを込めて流したらしい。大学の生徒たちもその噂に乗っかって、麻弥を敵にしていじめた。共通の敵を作って友達をつくる。そんなことも聞いたことがある。倍率も高くて、合格するのは相当大変だし気持ちも分からないこともない。
そうかもしれない、そうかもしれないけどな……
……でもな、茉弥も僕も、努力して受かったんだ! 茉弥はお前たちより絶対に頑張ってた。会ったこともない母を目指して、兄のためとか言って、夜遅くまで一生懸命勉強してた。
そんな背中も見ないで、てめぇらはくだらない仲間づくりのためとかいって僕の妹を苦しめやがって……殺しやがってぇ……
憎しみがこみあげてきて、気づけば茉弥をいじめたやつらがいる大学へとゾンビのように歩いていた。
でも、校舎に入ることもできず、大学の職員に取り押さえられ、警察に連れていかれた。手は出していなかったので、説教みたいな感じで終わった。
父は僕と同じ憎しみを持っていると思うが、家にいるようにと言った。
*
そのうち、憎しみは虚しさに変わった。
僕には死にたいという衝動から押さえてくれるものは麻弥がくれた2人の人形のキーホルダーと、茉弥にあげたネックレスだけだった。それを握りしめながら、毎日自分の部屋にこもっていた。
一年が経ち、茉弥が死んだ日が訪れた。
部屋にこもりながら自分を必死に抑えていたが、今日に限っては、茉弥への感情が溢れてくる。
僕と茉弥のお気に入りだったあの崖に行こうと思い、お手伝いさんや父がいないことを確かめながら一年ぶりに家の外へ出る。
花と木々で覆われた庭を抜け、子供のころよりきつくなった塀の穴を通って、懐かしい崖へ来た。青く澄み切った空を見上げながら、何をするわけでもなく途方に暮れていた。
そうしているうちに、空がだんだん赤く染まっていく。
夕方の光が、茉弥にここへ連れてこられた時のことを僕に思い出させた。
麻弥がそばにいるような気がした。
「……僕のお母さんになるとか言ってたよな……受験勉強頑張ってたよな……
茉弥…気づけなくて、助けられなくて、支えられなくて、ごめん……
……でも、なんで僕を残していくんだ……?
君がいたから、僕は生きてこれたのに……
もう僕には生きる目的もなくなったし、僕を求めてくれる人もいないじゃないか……
もう…やだよ……」
そう言いながら、泣いて、泣いて、泣いて……、もう沈む夕日へと歩いた。低い柵も踏み越えて。崖の先端で立ち止まった。足元から海の香りがする風が吹き上げてきた。
「死ねば、この苦しみから解放されるのかな?……」
そう呟いて僕は、何かに背中を押されるように、ずっと下に見える険しい海岸へと飛び降りた。
ガッ
落ちようとしている僕を誰かが掴んだ。
僕は驚いて手を伸ばしている人を見上げた。
「…お母さん!?……