大きくなった妹
僕が大学6年、茉弥が高3になった。
最近、茉弥は反抗期。今まで仲良くして可愛がっていた妹が自分に冷たくするのは、ちょっと許せないし何よりさみしかった。
ある日、いきなり茉弥に手を引っ張られ久々にあの崖へやってきた。
反抗期で僕とは関わりたくないはずなのにどうしたんだろう?と思ったが、茉弥は何か言いたそうに、沈もうとしている太陽に立ちはだかった。高校の学生服とポニーテールが風に揺られてとても幻想的な感じだった。
「……で、どうしたんだ?」
「私、お母さんと同じ大学に行こうっておもう。」
「……そう…か」
「…何その反応……
……私は……今でも自分が不幸な人だと思ってる。だって、周りのみんなと違って自分のお母さんと会うこともできず、生きてきて、これからも生きていかなきゃならないんだもん。
でもね、最近分かっちゃったの。
ほんとは、幸せ者だって。
……自分のお母さんが死んで落ち込みたいのに、妹の世話なんてして。まるで、お母さんの代わりみたいに妹を支えて。頑張って育てた妹が反抗しても怒らないで優しく見守ってくれる。
……私にはそんなお兄ちゃんがいるんだって…
……ほんとに、ありがとう……
だから私、今度は私が、しょーにぃのお母さんになれるように頑張る。」
それは、久しぶりに聞いた「しょーにぃ」だった。最近は名前もまともに読んでもらえなかった。
話しながら泣いている妹につられるように僕も抑えられない涙が出てきた。
「何言ってるんだバカッ……茉弥は大切な人を亡くした兄に生きる目的と、幸せをくれたんだぞ……ほんとに……バカだ……
…でも……大きくなったな。ありがと。頑張れ!」
そう言って妹の頭を撫でた。
「えっ、触らないで…」
すぐ振り払われた。少し沈黙があってから、涙で濡れている顔を見合って二人で笑った。
また仲良くなれた気がした日だった……
*
ところで僕は、鷹丘医学研究所を志望して入社試験の勉強に励んでいた。僕の夢は母の死のこともあって医学研究者だった。誰かの命を救えるものをつくって、誰かを自分のような悲しみから救うこと、それが僕の目指すものだった。
ちなみに茉弥も、母と同じ高校に行くためいろいろ調べたり、勉強したりしている。机に向かって厚い参考書を解いているのを見て、自分も頑張らなければと思った。
茉弥が「しょーにぃのお母さんになる」って言ったのがあってから、僕に対しては随分優しくしてくれるようになった。遅くまで試験勉強していると、こっそりホットココアを持ってきてくれたり、寝落ちして朝起きると肩にひざ掛けがかけてあったり……
そして勉強を頑張ったお陰で僕と茉弥は、それぞれ合格した。
とても嬉しかった。
このとき妹から合格祝いに僕と茉弥をモデルにした手作りの人形をくれた。僕は青い宝石のネックレスをあげた。そこまで高いものではなかったけど喜んでくれたみたいだった。
「合格おめでとー! この人形は一緒に頑張ろってことだからね。ネックレスもありがとう!」
「うん、ありがとう。すごい可愛いな、これ、大切にする…。絶対頑張る!」
「ほんと!?私も張り切るからね~っ!……どう?ネックレス似合う〜?……」
そんな麻弥の元気な声と笑顔は一生覚えているだろう。
そして、僕は研究所に入社、茉弥は高校に入学した。二人とも、それぞれの場所で勉強して、生活して、楽しむ……
はずだった……
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