0.プロローグ
不思議で、頑張り屋で、明るくて、世話好きで、甘えん坊で、可愛くて……
僕にはそんな気になる人がいる。
*
「ねぇ、しょー君。今日の帰りにレポート手伝って!」
「え〜、今回は大丈夫とか言ったの誰だっけ?」
「はぁぁぁい……でも、こないだしょー君の忘れ物一緒に取り行ってあげたの私だからね! あの時間あったら書けたのになぁ〜!」
嫌味っぽく言われる。
「もぉ、分かったよ。じゃあまたね。人体模型見て腰抜かさないように気をつけてよ〜」
「うるさ〜いっ!」
そう言って、南はちょっぴり怒りながら横目で僕をにらんで階段を駆け上った。上りきってこっちに小さく手を振る南に、僕も手を振り返して自分の研究室へ向かう。
僕は翔介。
南とはこの国でも三大研究所といわれている鷹丘研究所の同期。所長は父で、南はその助手である。
ちなみに僕はチームでワクチンを開発している。チームとはいっても僕は訳あってチームメイトには嫌われている。仲良くしてくれるのは数人の先輩と父と南くらい…。それで、南は僕と関わっていることで僕みたいに避けられつつある。それでも、それに気づかないかのようにかまってくれる南に、僕は申し訳なさと感謝を持たずにはいられない。
そして、好意も寄せている。
でも、元気で可愛い南に、陰キャな自分は釣り合わない気もするし、南からも友達までという感じが伝わってくる。
だとしても。僕には決めていることがある。それはあの恩返しをすること……
*
カーテンに包まれた研究室の片隅で、僕は一人で残って作業を続けていた。
すると、スマホがブーっと鳴り、通知が表示される。
南:「早くレポート手伝って! 図書室で待ってるよ」
忘れていた訳ではないが僕はハッとして急いで片付け、研究室を出た。図書室に着くと、窓際の席で南がパソコンを打っていた。
「ゴメン、遅くなって」
「ん〜、別に良いけどちゃんと手伝ってね! まずこれ、送ってあるから計算して」
僕もパソコンを出して計算を始めた。今日もいつもと変わらず忙しかったが、南に会えばなんか落ち着く。
どのくらいやってたのか分からないが、一応終わったみたいだ。
南は白衣を脱いで、白い半袖ワイシャツなってあくびしながら伸びている。そんなのを頬杖ほおづえつきながら眺めていると目が合った。夕日のオレンジ色の光が南に当たって、瞳がガラスみたいに透き通って見えた。
「何見てるの〜?」
「え、いや、南も大変だな〜って思って」
「そーなのー、でもね、しょー君のお陰で何とかなってる。私しょー君みたいなお兄ちゃんが欲しかったな〜。」
「え!? 本当?」
「結構本気」
「へ〜、僕もな〜……」
「え? 何??」
「あー、何でもないって、」
「あれ、しょー君って妹いたんだよね」
「…うん」
「あ……、ゴメン、こんな話を……」
「いや、いいんだ。ずっと話したかったから。あと、伝えたいこともあるし……」
「ほんとに…いいの?」
「…うん! ちょっと聞いたことあると思うけど、僕は…………
*
どのようにして、南と僕が出会ったか話そう。
(過去回想が始まる)
小説を載せるのが初めてなので分かりにくいところもあると思います。ご容赦ください。