ぼっち後輩の恋幕~そこに百合は咲く~
練習用の百合短編。8000文字程度なので、すらすらと読めます~
辺りが静まった夜闇の中、私は河川敷にひとり寝転がって空を眺めていた。
淡い涼風が肌や髪を撫で、揺れた草木の擦れる音が耳に残って心地がいい。全身を委ねるようにリラックスさせれば、このまま深い眠りにつけてしまいそうだ。
草原に背中を預けると、自然を思うままに感じられた。過量接種じゃないのかと自分で怪しくなるくらい、天地万物に溺れていくような感覚に陥っていく。
そんな静謐な一間を過ごしていたら、草を踏みしめる足音が近づいているのに気がついた。
私は身を強張らせて動かずにいると、その音の正体が姿を現した。
「あれっ?誰かいた」
高く透き通った声が、閑静な空間によく響いた。
彼女は私を目に留めると、驚いたふうに一歩のける。その端正な顔は一瞬固くなったが、私を認識してすぐに表情を和らげた。
「ええっと……。帯刀冴ちゃん、だっけ」
「え、あ、はい」
彼女は戸惑いを露わにしつつ、私に話しかけてきた。
どうやら名前を知ってくれていたようだが、彼女とはほぼ初対面で話すのもきっと初めてのはずだ。だのに、いきなり他人を「ちゃん」付け呼びとは中々のハードルではないだろうか。私には絶対に無理なタイプだ。
「今みんなで花火やってるけど、参加しなくていいの?」
「いいえ、自分は特に。何か悪いですか?」
「いや、悪いとか言ってないけど。せっかくの新入部員歓迎のキャンプなのに、退屈じゃないのかなって」
「はあ、そうでも」
「えー、本当?」
彼女はやけに絡んでくる気がして、私は鬱陶しく感じた。
それにしても、彼女はここに何をしに来たのかと私が疑問に思っていると、
「隣いいかな?よいしょっと」
いつの間にか彼女は、私の側に仰向けで寝転んでいた。
私は一切も承諾していないのに、何なんだこの人は。
ひとりの時間を邪魔されたのもあるが、あまりに自由奔放すぎる彼女の行動に僅かに不快感を覚える。
「わー、綺麗だね。確かに飽きないかも」
彼女はうんうんと納得して、他所を向く私の方を横目で見やった。
「そこまで警戒しなくてもいいのに。なんだか傷つくなあ」
「いや、別にそんなつもりは」
「うーん、そう?」
本当にそんなつもりは無いのだが、彼女はあまり腑に落ちていないようだった。
満天の星空を澄んだ瞳で眺めて、彼女はほそりと呟いた。
「星、好きなの?」
「いいえ、あまり興味はないです」
素っ気なく答える。彼女はこっちを向いて「ふーん?」と小首をかしげる。
「……ただ、この星空をずっと見ていると救われた気分になるというか。ひとりが一番楽だと思える時なんです」
まったく会話を交わしたことのない人に、私は何を語ってるんだろうか。
だけど、彼女なら不思議と打ち明けても大丈夫な気がした。
「すみません。こんな変な話をしてしまって」
「いいや全然。私けっこう変わってる人好きだけど、冴ちゃんみたいに面白い子は初めてだよ」
そう屈託なく笑われる。変な子、と認定されてあまり私は気分がよくなかった。だけど、何だか面倒であまり怒る気にもなれなかった。むしろ、変わった人が好きだなんて変哲な人だな、とおかしな事を思ったくらいだ。
えーと……この人の名前、なんだっけ。
「あっ私は三代愛季だよ、学年は二年生。よろしくね」
「よろしく、お願いします」
なんと、彼女は自分より一個上の先輩だった。
先輩は一回ゆっくりと伸びをして起き上がると、私に手を差し出した。
「そんじゃ、そろそろ戻ろっか」
「は、はい」
キャンプ場に着くと花火のイベントは終わっていて、ちょうどミーティングが始まるところだった。
「みんな今日までお疲れさまでした。明日の最終日に備えてはやく寝るように。ではお休みなさい」
ミーティングは速やかに進み、リーダーの女子が加えるように忠告してキャンプ最後の夜を締めた。
解散後、先輩は親しげに同学年の友達と談笑していた。私といえば、何もやる気が起きなくていち早くテントに戻っていった。
こうして、レジャー研究部の歓迎キャンプは終了したのだった。
普段の学校生活に戻り、通常授業が始まった。
私が通う高校は私立の女子高で、秩序や校則が厳しくてかったるい。今となっては、入学したことに後悔している。
結局のところ、私は部を抜けることにした。半ば強引に誘われて入部した部活だったし、自分が残っていると返って部員たちが気まずくするだからだ。
また学校では、先輩がよく色んな人と仲良く話しているのを廊下で見かけるようになった。
それは友達らしき同級生だったり、先生だったり。とにかく人望が厚くて、誰にも親しく接するらしいことが分かった。
私ともたまたま廊下で目が合ったりしたら、周囲の人目を気にせず毎回「冴ちゃん」と手を振ってくるのだ。私にとってはとても気恥ずかしいことこの上なかった。
私の教室に入って席に向かうと、一個前の席に座っている子の友達らしき女子が自分の机に腰をかけてお喋りしていた。
「そしたらさ、先生がひどくない?」
「あはは。って、ちょい美奈!」
「へ?……あぁっ!」
じゃれ合っていたその子は私を見るやいなや、さっと血の気を引かせて立ち上がった。
「ご、ごめんなさい!」
彼女は怯える小鹿のような目で私を見ていた。そして一瞥すると、そそくさと立ち去ってっていく。その際に「怖かったぁ」と聞こえる。
相変わらず、クラスでも私は完全に避けられていた。
前までの私なら微塵も気にしなかったけれど、モヤモヤと心にわだかまりが生み出されるのだ。しかし何をいまさら、と机に突っ伏した。
近頃、先輩との距離までも段々離れていってくのを感じる。あのキャンプ以来、学校でも先輩と特別な接触はなかったので恐らくはそのせいだろう。でも、先輩はこのまま私との関係が途絶えてしまっていいのだろうか。私の場合は――――
「……寂しい」
そんな言葉がぽつりと口から洩れて、それに一番自分が驚いていた。
この高校に入学してから半年、一度たりとも寂しさを覚えたことはなかったはずだ。
それなのに今、孤独がつらい。
昼休みの時間になり、自販機で飲み物を買いにいく途中、偶然にも先輩が教室前を通りかかった。友達とのお話に夢中で、先輩は私の存在に気づいてないようだった。
そしてそのまま先輩は、私の横を通り過ぎた。
「っ!」
待って。
私はこれ以上ないほどに焦った。
どうにか先輩を引き止めないと、と焦燥感が追い立てる。
踵を返し、私は勇気を振り絞って先輩に声をかけた。
「ちょっといいですか、先輩!」
*****
放課後、私と先輩は学校近くの喫茶店にきていた。
クラシックで雰囲気のある店内で、先輩曰くお薦めできる穴場の店とのことだ。私たちはその一角の席に、小さな机を挟んでお互い向き合っていた。
「いやあ、珍しいね。あの冴ちゃんが自分から私を誘ってくれるなんて」
「まあその、はい」
私は先輩の様子をまじまじと観察しながら、相槌を打つ。先輩は待ち合わせの時からどことなく嬉しそうで、喫茶店に来るまでも終始その綺麗な口元を綻ばせていたのだ。
「それで、私に訊きたいことって何かな?…あ、もしかして恋愛相談とか?」
「それは断固違います」
ニマニマと茶化してくる先輩をきっぱり一蹴すると、つまらなそうに口を窄めた。
「えー、そうなの?じゃあ何の話?」
「それはその……先輩って、無駄にコミュ力があるじゃないですか」
「わあ、そりゃまた随分と直球な物言いだ」
先輩は大げさにリアクションして見せる。
帯刀冴という人間の性格を十分に理解していて、彼女はおどけているのだ。
「先輩は学校で色んな人と話せるみたいで、すごいなと。だからその、どのように人と接したらいいのかなって」
「……くふっ」
「先輩?」
「ふふ、あっはははは。あの冴ちゃんが、意外すぎるというか。あははっ」
私は笑い転げる先輩を恨めしく睨んだ。それでもなかなか笑い声は止まず、私は不貞腐れてそっぽを向いた。
「……ひどいです」
「あー、ごめんね。真面目な表情であんなこと言うから可愛いなって」
か、可愛いって。心臓に悪いから、あまりからかわないでほしい。
「うーんでも、人との関係づくりでのアドバイスとなると難しいかも」
先輩は真上の天井に焦点をあてて、眉を八の字にした。どうやら私への回答に悩んでいるようだった。しばらく逡巡すると、やがて結論を下した。
「むぅ、そうだなぁ。冴ちゃんに一番大切なのは、案外スマイルかもね」
「スマイル、ですか」
「そうそう」
先輩が身を乗り出して、私の顔を覗き込んでいた。その距離が近くて、少しドキッとしてしまう。先輩はいたって平然としているが、意識しているのは私だけだろうか。
「やっぱ冴ちゃんって、常に表情が固いんだよね。何ていうんだろ、どこか人を寄せ付けない雰囲気を出してるというか」
「は、はあ」
「うん。だから、口元を和らげる練習が必要かな?」
言われてみれば、今までの自分はまさしく不愛想だった。
意外と、先輩の指摘は的確なのかもしれない。
「私は冴ちゃんをサポートするよ。だから大丈夫、一緒に頑張ろう」
安心感を与えるように、先輩は緩やかにはにかんだ。
「どうしてそこまで、私によくしてくれるんですか?」
突拍子もなくそんなことを尋ねてしまった。私は慌てて取り消そうとしたが、先輩は面痒そうに答えてくれた。
「まあ、最近は二人でこうして話す機会もなかったし言っておくけどさ。私、冴ちゃんのことずっと気にかけてたんだ」
「……え」
「冴ちゃんは最近どうしてるのかな、とかさ。変な話だけど」
それは、私もだ。
私もたまに、先輩が今どこで何しているんだろう、なんて考えてしまったりする。だから、先輩が知らないうちに変わってしまっているのが怖かったのかもしれない。
だけど、先輩は何も変わっていなかった。
久しぶりに話してみても相変わらずの先輩で、私への態度が余所余所しくなっているかもしれないという懸念はどうも杞憂だったようで安心した。
私たちは会計を済ませ、そろそろお開きにしようとしたとき先輩に呼び止められた。
「あ、そうそう。明日の昼休み、中庭に来てよ」
「えっと、はい。分かりました」
何だろう、と思いながらも私は肯くのだった。
◇◆◇◆◇◆◇
「冴ちゃんに紹介したい人がいるんだ」
翌日の昼、中庭で先輩がそう切り出した。すると、その隣に佇んだ女の子が一歩前に歩んだ。
「どうも、白鷺あゆみです。久しぶりね帯刀さん」
「えっと、こんにちは」
私は、彼女の〝久しぶり〟という言葉が引っかかった。
どこかで会ったことがあるだろうか。そう記憶を掘り返れば、確かに彼女に見覚えがないことはない。
「ほら、レジャー研究部の部長だよ。私の腐れ縁で、よき友なんだ」
「ふふ、よろしくね?」
「あ、はい。よろしくお願いします」
ああ、思い出した。私はイメージの中で彼女を照らし合わせて、納得する。
歩美さんはお淑やかにほくそ笑んだ。
「愛季に聞いたわよ。帯刀さんは不器用すぎて、仲のいい人ができないんだって。私も協力していいかしら」
不器用……。
私のことをそう彼女に告げたであろう先輩を、じとりと見やる。
「……」
同時に先輩は目を背けた。これは確信犯だ。
それにしても、歩美さんは先輩のことを愛季って呼び捨てするんだ。二人は本当に仲がよさげで。
「でも、どうして歩美さんは私に協力してくれるんですか?」
私は至極当然の疑問を訊くと、
「ほら、帯刀さんには私の部活で楽しませられなかったし。だからちょっとでも力になりたいなって思って」
成る程、と私は理解した。要は、部活で私が楽しめなかったことに対しての気負いみたいなものだろう。
ここで、先ほどからウキウキ気味だった先輩は発表した。
「というわけで今度の週末、この三人でお出かけしまーす!」
「いえーい」
「……はい?」
突然の決定事項。どういうわけか歩美さんもノリノリだ。
というか、私の都合が全く思慮されてない。……いやまあ、特に予定は入ってないけれど。
約束の当日。
私は先輩たちと電話番号を交換していたため、ほぼ毎日メールでやり取りをした。
インドアな私は滅多に出かけないので、昨夜は何を着ていこうか悩みに悩んだりした。
本来は駅前に朝八時集合だけど、まだ七時半なのに私は到着した。
少し早く来すぎてしまったかもしれない。仕方ない、しばらく待つしかないだろう。
「おはよう、冴ちゃん」
「わっ」
時計台の近くで立っていると、突如誰かに肩をたたかれた。咄嗟に反応すると、先輩たちがそこにいた。
まさか既に来ていたとは予想外だったので、私はびっくりした。
先輩たちの私服姿はキャンプでも見たことはあった。
でも今日はそれより遥かに気合が入っているというか、ひと際おしゃれで映えていた。
先輩はチェニックスカートで、歩美さんは白いワンピースで一層各々の華やかさが際立っていた。
「とても似合ってるよ」
「ではでは。まだ早いけど、出発!」
それから私達はトレンドショップや人気の軽食店をまわった。
クレープを買って食べ歩きながら、街を散歩したりした。
「このサングラスはどう、いいんじゃない?」
「えー、ダサすぎるよ」
先輩とサングラスの大きさのバランスが悪すぎて、傍から見たらおかしかった。
「そう!今の冴ちゃん、いい感じの笑顔!」
「……え」
先輩は変なサングラスをかけた状態でビシッと指摘した。
私は反射的に自分の頬を抑える。風邪でもひいたかと思うくらい熱かった。
ランチをとってから、私たちは国立公園に訪れていた。
池には野生のカモが群がり、餌やりも可能でとても興味深かった。
「ふふっ」
「……どうかしましたか?」
「いや。冴ちゃんが楽しんでくれてるようだから、うれしいよ」
そういうと、先輩はせわしく辺りを見渡した。
「ちょっとお手洗いに行ってもいい?すぐ帰ってくるから」
「あ、はい。どうぞ」
先輩はトイレにいってしまったので、その場には歩美さんと私の二人だけになった。
「ねえ、帯刀さん」
「ん?何ですか歩美さ、」
呼びかけに返そうとすると、不意に歩美さんは私の手をとった。
歩美さんの指が肌の上を伝い、私の指と絡まった。
そのままぎゅっと握られると、一気に間合いを詰められた。詰めすぎて、異様なまでに密着している。
私はこの間、時間がスローモーションに流れているような錯覚を起こした。
「私、君のこと気に入っちゃったかも」
そんな歩美さんの艶めかしい声が、耳朶に触れる。
ようやく意味を理解した瞬間、真っ白にフラッシュした。
「ッ!?」
ハッと目を見開いて身を引いた。そのままよろめきそうになって、踵に力をいれる。
歩美さんはただ優しい笑みを浮かべているだけで、それ以上何かを言わなかった。
それから間もないうちに、先輩が帰ってきた。
「ごめんね、お手洗い混んでて。待たせちゃった?」
「ううん、大丈夫。それじゃあ行こうか」
それに対して、何事もなかったようにケロリとしている。そんな歩美さんに、私は動揺を隠しきれなかった。
「どうかしたの、帯刀さん?どこか元気ないみたいだけど」
「い、いいえ。何も」
その場で突っ立った私に、歩美さんは声をかける。
私は先輩に気づかれないよう必死に平常を装うのだった。
その夜。私は自室のベッドに横たわっていた。
ブランケットを膝にかけて、私は丸まるようにうずくまった。
〝君のことが気に入っちゃった〟
熱っぽく囁やかれた言葉が脳内に反芻される。
受け入れきれず、私はいまだ呆然としていた。
刹那、手元に置いていた携帯の通知が鳴った。
『明日、校舎裏で待ってます』
差出人は歩美さんだった。
「流石に冗談、だよね」
そう信じこまないと、関係が崩れてしまいそうだからた。
歩美さんが私にそんな感情を抱いているとは、とても信じられなかった。
ましてや、女の子が女の子を好きになるなんて有り得ないだろう。
……でもこの考えが、なぜか逆に私の胸を強く締め付けるのだった。
*****
「歩美さん」
名前を呼ぶと、彼女はゆっくりと体を翻した。
そよ風が吹き抜け、辺り一帯の木々がざわざわと揺れる。
「来てくれてありがとね。まあ、要件は大体想像ついているでしょう」
一、二回と深呼吸を繰り返して、歩美さんは言った。
「私、帯刀さんが好きになってしまったの。だから、私と付き合ってください」
生まれて初めて受けた告白は女の子からだった。しかも一個上の憧れな先輩。
彼女の瞳はまっすぐで、揺らぎや不安を切り捨てていた。
だからこそ私は、少々断りづらかった。
「ごめんなさい。そうすぐに答えは出せません」
だけど、決断は揺ぎなかった。
「でも、分からないです。どうして私に好意を寄せているのか」
「それは、私の一目惚れだったの。昨日、微笑んだ帯刀さんに目を奪われちゃった」
ぐいぐいと押し込んでくる彼女。私はペースに流されそうになる。
瞬間、ふと先輩の顔が脳内にビジョン化された。
何で先輩のことを、こんな時に……。
答えを出せないでいる様子に、歩美さんが窺う。
「私のこと、嫌いかな?」
「いいえ、そんなことは。……でも」
言い淀んでしまった。その言動を歩美さんは看破しなかった。
「他に好きな人でもいるの?」
「……」
「もしかして愛季のこと?」
「……」
何も言葉を返さなかった。いや、返せなかった。
百歩譲った話、私はきっと先輩のことが好きなのだろう。
だけど、それは友達としての好きなのか。或いは、特別な存在としての好きなのか。
どうしてすぐに先輩を思い浮かべたのかさえも、謎めいたままだ。
だから私は無言で俯くことしか出来なかった。
「……否定しないんだ。そうか、やっぱり愛季だったかぁ」
「いや、その、ちが」
「違わないでしょう?」
私が必死に取り繕うとしたら、歩美さんが遮った。逃げ場を失う感覚になる。
彼女はどうしてこうきっぱりと言い切れるのだろうか。
奇しくもそこには説得力があり、ごまかしが効かないことを悟った。
まるで自分のココロを見透かされているようだ。
「素直にならないと、後悔しちゃうよ」
「……ありがとうございます。歩美さん」
なぜか私は、最後の最後で彼女に嵌められた気分だった。だけど、歩美さんのおかげでようやく決心がついた。
私の想いを、先輩に伝えよう。
私が先輩を本気で好きだという、この秘めた気持ちを―――。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「…ふぅ」
私は息を吐いて、天を仰ぎ見た。
今日は天候に恵まれ、取り留めのない快晴の空が広がっていた。
現在、私は先輩と同じ大学の同じキャンパスに通っている。そして今、この場所で待ち合わせの約束をしているのだ。私は腕時計で時間を確認しながら、先輩が現れるのを待っていた。
するとやがて、
「おーい、冴ちゃん!」
ふと声のほうを向くと、先輩が大きく手を振りながらやって来た。
「先輩、五分遅刻です」
「え、ほんと?んー、じゃあ恋人名義で許して!」
「いや、恋人だからこそ約束の時間に遅れるのはタブーとされてるんじゃないですか」
私が正しく諭すと「だってぇ」と先輩は拗ねてしまった。
「もういいです。……今回かぎりですよ?」
やっぱり自分は先輩に甘いな、とつくづく私は反省する。けれども、先輩の笑顔を崩して欲しくないのだ。
「やった!そんじゃ、デート行こうか」
……ほら、こういう顔だ。こんなの反則すぎる。
「あ、先輩。私今ちょうど観たい映画があって、よければ一緒に行きませんか」
「おお、それはナイスアイデアかも」
先輩と手と手を取り合って、その温もりが心にまで浸透する。
『同性での恋愛なんておかしい』。以前の私なら、そう他人めいたことを思っていたはずだ。
でも、今ならそれが間違いだと分かる。
あの高校時代の寂しさも、この締め付けられるような苦しみも気持ちも、全部先輩のせいだ。
私の感情は先輩一色に染まっていく。先輩の行動一つで、いつも私は振り回されてばかりだ。
だけど、それが嫌だなんて思わない。むしろその逆だ。
私にとって先輩といる時間が、今このひと時が幸せなんだ。
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