テストの成績、上がります。
これは、インターネットカフェにやってきた、ある男子高校生の話。
一時間数百円でパソコンとインターネットが使えるインターネットカフェ。
手軽で便利なインターネットカフェは、たくさんの人が利用する。
その男子高校生もその一人で、今日もインターネットカフェに来ていた。
「いつものネットカフェが混んでるから別のカフェに来たんだけど、
このカフェも結構混雑してるなぁ。仕方がない、待つか。」
その男子高校生がやってきたネットカフェは、看板も店内も黒い色をしていた。
黒いネットカフェの店内では、席が空くのを待つ人が何人もいた。
学生割引がある効果か、店内は学生が多い。
しばらくしてやっと席が空いたので、
その男子高校生は着席してパソコンの画面を見た。
パソコンの画面には、
「当店限定、拡張現実ゲーム!
見事勝利したら、あなたに必要な科目の成績が上がります。」
と表示されていた。
「拡張現実ゲームか。でも科目って何だろう。
まあいいか、試しにプレイしてみよう。」
その男子高校生は、拡張現実ゲームと書かれた黒いアイコンをクリックした。
黒いアイコンをクリックして起動したゲームは、よくあるものだった。
自分が操作するキャラクターと、他のプレイヤーが操作するキャラクターがいて、
他のプレイヤーと協力して大きな敵モンスターを倒す、というものだった。
「よくあるゲームだな。
でもこれ、拡張現実じゃなくて普通のゲームだ。」
期待した拡張現実ゲームではなかったが、せっかくなのでプレイしてみる。
しばらく後、その男子高校生は敵モンスターを倒すことが出来た。
「よし、敵モンスターを倒した。他のプレイヤーと上手く協力出来たな。」
すると、画面に文章が表示された。
「モンスター退治成功、おめでとう!
報奨として、あなたの英語の成績を上昇させます。」
パソコンの画面には、黒い背景に赤い文字でそのように表示されていた。
「気味が悪いな。来週ちょうど英語のテストなんだよな。」
データ読込中・・・という表示が終わって、画面が切り替わる。
「あなたの他の科目の成績を、英語の成績に再配分しました。」
同じく黒い背景に赤い文字で表示されていた。
「他の科目の成績を英語に再配分?成績を移動したってことなのかな。
英語の成績なんて、まるでゲーム内の話じゃないみたいだ。
何かの冗談かもしれないし、真剣に考えても仕方がないな。
このゲームはもういいや。帰ろう。」
その男子高校生は、
黒いアイコンのゲームを終了させると、黒いネットカフェを後にした。
それから一週間後、その男子高校生は英語のテストの結果を見て驚いていた。
「英語の成績が上がってる。
特に普段と違うことをしたわけじゃないのに。
まさか、あの黒いアイコンのゲームのおかげじゃないよな。」
そしてさらに次の週、いくつか他の科目のテストが行われ、結果が出ていた。
英語以外のテストの結果は散々。
英語の成績が良くなった分を帳消しにするほどだった。
「・・・まさかこれもあの黒いアイコンのゲームのせい?
どういう仕組なんだろう。やっぱり偶然にしては出来すぎだ。
でも全部合わせたら、英語の成績が上がった分より損してるかも。
明日の数学のテストの為に、黒いネットカフェに行ってみる予定だったけど、
もうあの黒いアイコンのゲームをプレイするのは止めよう。
全部合わせたら損してるようじゃ、やる意味がない。」
その男子高校生は、黒いネットカフェに行くのを止めた。
それから数日後、
その男子高校生が黒いネットカフェに行くのを止めてから、
良くも悪くも成績は元に戻っていた。
テストの結果は自分の実力を反映したものだったので、
成績が上がっていなくても納得がいくものだった。
しかし、思わぬ問題が起こっていた。
学校全体のテストの成績が上がっていたのだ。
あの黒いネットカフェは、生徒の間に口コミで広まって、
今や生徒の多くが、黒いアイコンのゲームをプレイしていた。
黒いアイコンのゲームは、学校のスケジュールを把握しているかのように、
次のテストの科目の成績を上げてくれるのだった。
その結果、黒いアイコンのゲームで上がった成績だけがテスト結果として現れ、
代償として下げられた成績は、テストの結果としては現れなかった。
そうして、
黒いアイコンのゲームをプレイした生徒の成績が見た目だけ上がり、
そうでない生徒の成績は相対的に下がった。
その男子高校生を含めた数人が、学校の職員室に呼び出されていた。
「サボってないで、ちゃんと努力しなさい!」
先生が、黒いアイコンのゲームをプレイしていない生徒たちを叱る。
学校の先生たちは、事情を知らなかったからだ。
学校の先生たちだけでなく、事情を知らない親たちも、
黒いアイコンのゲームをプレイしていない生徒たちを叱った。
先生や親に叱られて、仕方なく黒いアイコンのゲームを始める生徒もいた。
普通の勉強方法では、黒いアイコンのゲームに敵わなかったからだ。
そうした生徒が増える度に、
黒いアイコンのゲームをプレイしている生徒と、
そうでない生徒の見かけの成績の差は広がっていった。
しかし、その男子高校生は、黒いアイコンのゲームを決してプレイしなかった。
しばらくして、転機が突然やってきた。
その日も黒いネットカフェには、たくさんの学生が訪れていた。
しかし、扉は固く閉ざされていて、誰も中に入ることが出来なかった。
扉には、
「昨日をもって営業を終了しました。」
という短い文章の紙が貼られていた。
こうして、黒いネットカフェと黒いアイコンのゲームは姿を消した。
黒いアイコンのゲームで成績を再配分していた学生たちは、
テスト前に成績を再配分することが出来なくなって、
すぐに成績が元に戻ってしまったのだった。
今度は、黒いアイコンのゲームをプレイしなかった生徒たちの成績が、
相対的に上がった。
しかしそれは、他の成績を再配分したものではなく、自分の実力だった。
たくさんの生徒たちが、学校の職員室に呼び出されていた。
呼び出されたのは、
あの黒いアイコンのゲームで見た目の成績を上げていた生徒たちだった。
そして、事情を知らない先生がまた怒鳴る。
「サボってないで、ちゃんと努力しなさい!」
終わり。
ある物事を避ける時、自分だけが関わるのを止めても、解決にはならない。
というテーマで書きました。
自分がゲームを止めただけでは、そのゲームの影響から逃れられない、
というところがホラーです。
それに、努力の評価方法の難しさなどを少し含めました。
お読み頂きありがとうございました。




