コーヒーブレイク7
「……まさか人間とは……」
「しかし! 姫が召喚したんだぞ。偽者じゃないだろ? なっ? シー」
興奮気味のタンの発言に「むう」と小首を傾げるシー。
「わたくしは~。世界樹様を信じます」
「そうね。私もアクアに同意ね」
アジュールが翼をアクアの頭に乗せる。彼女には手がないのだが翼が指のように五つに分かれているので、くしゃくしゃ撫でるのも可能なのだ。
で。俺はというと……頬に手形をつけた状態で俯いていた。手形は勿論ロロンがつけたのだが。
俺の目の前には、どう見てもエルフ。虎男。鳥女。人魚姫。そして多種にわたる獣耳と尻尾……。
人間の頭に獣耳があるロロンみたいなのや、完全な獣人、それが鳥、魚へと派生しており、それぞれが鎧やローブを纏っている。
今、俺が座らされている場所も、まるで中世ですか!? な感じの石造りの建物だし。
(……これは、ハロウィンイベントじゃない。これはマジなやつだ)
俺がイベントだと勘違いしていたと分からせるには充分すぎる情報量だった。
(映画の撮影やドッキリじゃ、ないな。リアルすぎる)
「……申し訳ないです。手荒なまねをしたくはなかったのですが……まさか人間が召喚されるとは思ってなかったのです。さて、ロロンから貴方の名前ぐらいしか聞けなかったので……自己紹介などしてもらえると助かるのですが。あっ、ごめんなさいね私はシー・グリーンと申します。世界樹様の巫女です」
美女エルフが、その流れで残りの三人の紹介もしてくれた。俺はどう反応していいか分からなかった。だが、本当に異世界なら色々と確認しておかないといけない事もあるし、自分の立場がどうなっているのかも知っておきたい。
ロロンが言っていた『守護者』が嘘だとは思わないが……奴隷扱いをされてしまう異世界転移物のラノベぐらい読んだこともある。俺だってどうなるか分からない。
ただ、いまのところは俺への扱いも丁寧だし、両手を縛られてはいるけど敵意は感じられなかった。ここはちゃんと挨拶をして交流するのが一番いいのかもしれない。
「すでに俺の名前は知ってるみたいだけど……改めまして。フユノ・アオイです」
俺は椅子に座り、両手を縛られたままなので頭だけを軽くペコッと下げた。会釈だ。
「えっと。知ってるかどうか分からないけど、地球って世界の日本国から来ました。―――――と。こんな感じだけど」
俺が自己紹介で話したのは。
名前や年齢が二十五才であること。俺の着ている制服で分かるかと思って「見たら分かるだろ」ぐらいに言ったがカフェ店員が分からないみたいだったので、喫茶店の類いの説明などだ。
「この制服を見て分からないか~。残念だよ、やはり異世界なんだな。この制服は! 有名カフェショップ『スタバッグカフェ』のなんだよ。そう! あれだよあれ。注文が呪文だから、ここで働いてる店員は魔法使いって言われてるぐらい有名なんだよ。まあ日本でだけどね……」
俺が少しばかり愛社精神を発動させ顔を赤くさせ膨れていたが。その意味がわからずに、困っているエルフさんを見て迷惑はかけられないと思い。『スタバッグ』の凄さを説明するのは控えることにした。
そんな感じで色々と話はしたのだけど……俺、召喚されたとはいえ。俺TUEEEEEEEEみたいな何かの力を感じることもないし。こっそり「ステータスオン」とかやってみたけど何もできないし。
(……異世界に来ただけの。ノンチーターじゃね)
そう思うしかなかったのだが……。
「『守護者』様! 魔法使いってなんですか~? それって召喚士とは違うのかしら~」
のほほんとした顔で……アクアが食いついてきた。マーメイドだけに釣れたなのか?
別に注文が呪文みたいって話は釣りじゃないんだが……。




