コーヒーブレイク26
白衣の天使を召喚する為のオーダーだ。
俺の、『スタバッグカフェ』店員としての経験を総動員させてやる。
「白を基調として、やわらかい感じで、癒しで、ブツブツ、ブツブツ」
俺は、サロンのポケットからオーダーシートとペンを取り出すと。
「オーダー! トール」
声高らかに叫ぶ。俺がトールと記入すると分厚かったオーダーシートの四分の一ぐらいが消失した。
ノアの時は半分が消失したけれど今回はトールサイズだからなのだろう。
オーダーシートが輝きながら、俺の呪文を待っている。
『オーダー! トールトリプルエクストラホイップエクストラミルクダブルシラタマエクストラホワイトチョコレートシロップホワイトモカ』
(これでどうだ! ノッポサイズでホイップの三段重ねで、ミルク、ホワイトチョコレートソースを増し増しで白玉を二個乗せてホワイトモカで、ほろ苦い大人の対応もしてくれる癒し系のやさしい白衣の天使だ!)
ノアの時と同じように。
俺の手の中にあったオーダーシートがフワリと浮かび上がると――――――ゴウゴウと音を立てて燃え上がった。
だが、今回は意識が薄れることはなかった。きっとトールサイズだからかもしれない。
召喚オーダーを発動させ、オーダーシートが燃え尽きて消えた時だった。
上空に厚く広がっていた雲に巨大な穴が空いたと思うと、白色のレーザービームが俺を照射する。
目を開けているのがやっとなくらいの明るさだけど、熱くはない。
それどころか、体の疲れがなくなっていくような……それは癒し。
「あたたかくて、やわらかいな」
思わず、俺の口から感想が漏れてしまう。これはもう、天使で決定だろうな。
俺の頭の中にある『スタバッグカフェ』で取り扱っているグランドメニューから従業員だけで楽しむ裏のまた裏メニューまでを使って考えた商品(呪文)だ。
全ては、白衣のキュートな天使ちゃんを呼ぶためだ。
「さあ! 俺のところへ降りておいで」
(……なあアオイよ。妾の時とは随分に対応が違うのではないか?)
(なっ。なにを言ってんだよ、しょうがないだろ! ノアの時は召喚なんて知らなかっ、うっ。ゴホン、ゴホン)
ノアが俺をジト目で見ている。
(そんなことより! 鉛弾は?)
(……とっくに終わっておるのじゃ。世界樹を蝕む鉛弾は、妾が全て城滅させたのじゃ)
(さすがノアだね。伊達に漆黒竜神じゃないね!)
(あっ。当たり前なのじゃ。ポッ、アオイに褒められると嬉しいのじゃ)
さあ。後は天使が舞い降りて、傷ついた世界樹を癒してくれれば、万々歳だ。
俺は両手を広げると、天使の降臨を待ちわびるのだった。




