コーヒーブレイク21
イケメン狐男ティムの言い分はもっともかもしれない。
たしかに俺はこの世界にきて、たぶん三日ほどたつが半分以上は、寝て過ごしてしまったかもしれない。
ああ。否定はしないさ。
「でも……勝手に呼んだのはそっ」
ここまで言いかけた時だった。
なんだろ? 地面がグラグラしてますけど……突然に揺れ始めた大地。
いったい何事かと思ったのだが、原因はすぐに判明した。
「妾のアオイをバカにしたな……。妾をトカゲと言うたな……」
ああ、大地が揺れたのは。ノアが、怒りでプルプリしてたからだった。
ギロッとティムとタンを睨むノアの怒りは、本物だ。きっと皆も見えているだろうな、ノアの体から溢れだすオーラみたいなものを……。
タンは、僕は関係ないよ。僕は漆黒竜神に恋してるだけ! そんな顔をしていたが、ティムは違う。ノアが召喚された時にビビったのが、そうとうに悔しかったのだろう。
歯を食い縛りながらも意識を保っていた、なかなか頑張るイケメンだったのだ。
「……くっ、そんな威圧になど私は負けんぞ。見ていろ!」
ティムが右手を高々に上げ「私に続け!」と世界樹を囲む召喚士団に号令をだした。
「ふふふ。私についてきた選りすぐりの召喚士達の力を見ろ」
すでに打ち合わせ済みだったのだろう、各個に火精霊を召喚するとファイアリザードに変身させた。
「被害の多い部分から吹き飛ばせ」
「「「はっ」」」
ファイアリザードが吐き出した火の玉が、一斉に世界樹に襲いかかった。
「なにをしているのだ」
「え~。燃えちゃいます~」
「ま。間に合わない」
シー、アクア、アジュールが驚きの声をあげる。
俺も驚いている。まさか世界樹を、救う為とはいえ患部ごと撃ち抜いてしまうなんて……余りにも強引すぎる。
飛んでいく火の玉を見ながら、俺は何もできずに手を伸ばし「あああっ」と漏らすぐらいしかできない。
(不思議な小石とか言ってけど……あれって散弾銃の鉛弾だよな。幹から鉛弾を削りとるにしても……取りきれないぞ! 散弾した数が多すぎる……それにあの火の玉で鉛が溶けたりしたら――――)
(ふむ。鉛中毒とは怖いのう、しかし妾の愛するアオイは博学じゃな)
えっ……脳内で思ったことにキャッチボールしてきたのは誰!? って妾とか言ってる時点でノアじゃんか!
(これって俺の心を読まれてる?……もしかして、ポニテをノアが知ってたのも)
(ん? ペアリングを交わした者同士で可能な『全てを知りたいの。愛してるのリンクしてたい』の力じゃぞ)
(俺のプライバシーは、どこいったんだよ……後で詳しく教えてよ)
なんて会話を脳内で交わしながらも、目の前では火の玉が世界樹めがけて飛んでいる。
こんな悠長に会話している暇はないのだ……そうだよ。でもなんだろね? なんか余裕ありすぎじゃん。
(ふふん! それはのう。『竜思考』のお陰じゃな)
(はあ? なんだよそれ)
(うむ。分かりやすく言えば……車の事故に会った時に、全てがスーパースローに見えることがあるじゃろ。プロのスポーツ選手などは意図的にスーパースローを使う者もいるらしいがな)
(……ノア。車とかスポーツ選手とか俺の知識を覗きすぎじゃね?)
(コホン。まっまあ、いいでわないか。それよりじゃ。『竜思考』とはな、妾とペアリングした者以外の全ての存在がスーパースローになる能力じゃ。あっ、ちなみに、ここまでの会話でまだコンマゼロサンぐらいしか時は過ぎておらんぞ)
たしかにそうみたいだ。俺が「あああっ」と言ってからの火の玉の位置が変わっていない。
俺には時間が止まっているようにしか見えなかったが、ノア曰く。止まってはいないとの事だった。




