インパールへ
・インパールへ・
・司令本部で行われた作戦研究会が終わり、重苦しい空気の中、疲れた私は椅子にもたれかかっていた。
部屋の中に居る兵站を専門とする者をはじめとする中堅将校達はずさんな作戦内容を打ち出した自信満々の牟多口司令に不満を持ちながらも、不安と共に本作戦における自身の役割について考えていた。
「いよいよだべ」
私の隣にいた陸軍士官学校の同期である砲兵中隊長のタニカワは熱気溢れた表情で言った。
「あぁ、そうだな。」
この時、私の頭には、作戦に対する様々な思考で埋もれていたため、彼の言葉に対する良い返答が直ぐに思い浮かばなかった。
「しけた顔しやがって、貴様、そんなに内地の女房が恋しいか」
彼は私の肩に手をバッと乗せて、肩を強く握った。
「みくびるな、私だってれっきとした帝国軍人だ。貴様が考えているほど私はやわな男じゃない。」
私の肩を握る手の力が抜けると同時に私は彼の手を静かに払った。
「ふん、生意気な。」
彼は鼻を鳴らして席を立ち、外出て行った。
抑えることの難しい不安を抱えながら、私は作戦の発動を待った。
作戦開始後、私は予定通りに中隊を率いて、ビルマを流れる大河のチンドウィン川を渡るため指定の渡河地点に移動した。
荷物運搬用兼食料として現地徴収した牛の鳴き声の騒がしい中、各部隊が次々と夜の大河を渡りはじめた。